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27、校長の娘

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「ちょ! ちょっとティアったら、いきなりそんなこと聞く?」

「圧が強いって!」

 お姉さんの傍には友人らしき女生徒が数名いて、左右からそうお姉さんに声をかけている。
 どうやらお姉さんの名前はティアと言うようだ。
 そういえば、昨日も動揺した校長がそんな風に呼んでたな。

 顔は微笑んでいるのだが、確かに圧が強い。
 ……俺、何かやらかしたのか?

 アーシェも、お姉さんのプレッシャーに少し怯え気味だ。
 俺の手を握る手に力が入っている。

 友人たちに左右から手を引っ張られて、ティアお姉さんはこほんと咳ばらいをすると俺に言う。

「あ、あのね、ロイ君。これは風紀の問題なの! 朝から男女が手を繋いで登校するなんて、風紀の乱れに繋がると思わない? ここは士官学校なのだし」

「は、はい……確かに」

 そう言われてみるとそうか。
 あの校長に見られたりでもしたら、ド迫力な説教が始まりそうだ。

「私はティア・ファーレン、この学園の生徒会の副会長なの。風紀を守るのも私の務めの一つだわ!」

 生徒会の副会長か。
 いや待てよ……ファーレン?

 どこかで聞いたことがある苗字だな。

 まさか──
 この人、あのド迫力校長閣下の娘か!?

 嘘だろ。
 どこからどう見ても似ても似つかないぞ。
 あの大魔王みたいな校長とは、遺伝子レベルで違う存在にしか思えない。
 
 まあこの圧の強さは似ている気はするが……

 どうりで、昨日校長ともあんなやり取りをしていたわけだ。
 猛獣使いではなく、娘だったらしい。

 クールな感じの美人だから、生徒会ってのは似合っているよな。
 いかにも学園の女生徒の中の実力者って感じだ。
 やばいな。

(となると……こりゃ、やっぱり俺って目をつけられてるよな。名前までしっかりフルネームで覚えられてるし)

 俺の名前を知っているのは、昨日制服を貰う時に入学許可証を渡したからだろう。
 その後、アンドニウスとのトラブルがあっただけに問題児として目をつけられたに違いない。
 まずいな、せっかく二度目の人生は楽しい学園生活をと思ってたのに。

 相手は生徒会の副会長で校長の娘だ。

 学園のスクールカースト最高位の人間にいきなり目をつけられてはたまらない。
 お姉さんはもう一度俺に尋ねる。

「ロイ君、さっきの質問に答えてもらっていないわ。その子とはどういう関係なのかしら?」

 鋭い眼差しで俺たちを見るティアお姉さん。
 参ったな。
 このままだと、アーシェまで生徒会に目をつけられそうだ。

 こういう時に、スマートに会話することに俺は慣れてない。
 なにしろ引きこもり生活が長かったからな。
 それも、女子生徒に問い詰められるなんてさ。

 クールなその視線に射抜かれて俺は思わず口ごもる。
 そんな俺を見かねたのだろう。
 アーシェが必死な様子で答える。

「あの、ロイはとっても大事なお友達なんです……一緒に暮らしてて、だからお家から手を握ってきたの」

「はぁああ!!?」

 アーシェの言葉に、お姉さんが素っ頓狂な声を上げる。
 どっから出たんだ今の声。
 クールで冷静な生徒会の副会長だとは思えない声だ。

「い、い、一緒、一緒に暮らしてるって、は、は、は、破廉恥だわそんなの!!」

 ティア先輩は何を想像してるのか、真っ赤になっている。
 周囲もざわめき始めた。

「聞いた今の!?」

「一緒に暮らしてるっていってたわよ!」

 やばい。
 このままだと、いきなり初日に貴族に喧嘩を売って、二日目に女の子と手を繋いできたとんでもない奴だと学園中に認識されそうだ。
 別に手ぐらい握って登校してもいいと思ってたのだが、まさかこんな大事になるとは思わなかった。
 このままだと、俺のせいでアーシェにも迷惑かけちまう。
 その時、俺の耳元で誰かが囁く声がした。

「何やってるんだい、ロイ。昨日アランやエルディとも一緒に話をしただろう? アーシェのことをさ」

 聞き覚えがある声だ。
 どこにいるのかは分からないが、それはラフィーネ先生の声だった。

「そ、そっか」

 俺は昨日、アーシェも交えて家族で相談したことを思い出した。
 アランが提案してくれたことなんだが、アーシェのことは遠い親戚の子を預かっているという形にしようと。
 そうすれば、学園から何か言われてもアーシェを家で預かることに問題は起きないだろうって。
 アーシェのご両親にも、アランの知り合いを通じて手紙を送るって言ってたんだよな。
 
 最初は女の子だなんて思ってもみなかったけど、よく考えたら女の子を家で預かるってことになると、こんなこともあり得ると思ってのアランの機転だろう。
 俺は深呼吸する。

 そうだ素数を数えろ。
 俺は心の中で数を数えながら、なんとか落ち着きを取り戻すとティア先輩に言った。

「あ、あの、アーシェは遠い親戚の子で、家で預かってるんです。嘘だと思うなら俺の両親に確認してくれても大丈夫ですから」

 アーシェに目配せをすると、アーシェもこくんと頷いた。
 大丈夫か? このまま校長室に連れていかれたりとかしないよな?
 俺は俺たちの前で仁王立ちになって腕を組んでいるティア先輩を、伏し目がちに見た。

 ん?

 先ほどまでの強烈なプレッシャーが消えている。
 そこには、にっこりと微笑むティア先輩の笑顔が見えた。

「まあ! そうだったの、親戚の子ね。そうだと思ったわ! それじゃあ、妹みたいなものね」

「え?」

「だ・か・ら、妹みたいなものよね?」

「は、はい」

 一瞬また凄い圧を感じて俺は思わず頷いた。

「分かったわ、それなら好きなだけ手をお繋ぎなさい!」

「は……はは」

 好きなだけって。
 クールな美人でいかにも出来る人って感じだけど、意外とちょと変わった人なのかなこの人。
 まあいいか、とりあえず校長の娘の許可は出たわけだ。

 その後、ティア先輩はパンと手を叩くと、周りの生徒たちに言う。

「はい! みんなも解散して。二年も三年ももうすぐ授業が始まるわよ」

 その言葉に、皆、何度か俺たちの方を振り返りながらも学園の中へと入っていく。
 結局、なんの集まりだったんだ? これ。

 よく分からないが、とにかく大きな騒動にならなくてよかった。
 ティア先輩は、最後に俺に一枚のカードを渡した。

「ロイ君、これは生徒会室へ自由に出入りできる許可証よ。ここに私のサインも入ってる。何かあったらいつでも相談に来なさい」

「は、はい。ティア先輩! ありがとうございます」

 なんでこんなものを渡されたのかは全く分からないが、とりあえず貰っておこう。
 アンドニウスとの一件もあるから何かに使えるかもしれない。

 嵐のような状況がようやく収まり、俺はふうぅと溜め息をついた。
 ふと隣を見ると、アーシェが少し頬を膨らませている。

「ロイの馬鹿、妹じゃないもん」

 そう口を尖らせるアーシェは天使だ。

「ごめん、ちょっと緊張しちゃってさ」

 俺がそう言って謝るとアーシェは笑顔になって駆けだした。

「えへへ、しょうがないから許してあげる! 行こう、ロイ」

「うん、アーシェ!」

 今日からクラス分けのテストだ、何をやるのかは分からないけど頑張るぞ!
 俺はそう思いながらアーシェと一緒に学園の中へと駆けていった。
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