ふたりの甘い時間

蜜森あめ

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甘い時間は苺の香り

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 肌に触れる空気が冷たくて目が覚めた。どうやら夜の間に雪が降ったらしく、カーテンの隙間から見える景色は眩しいほどに真っ白だ。

「何時だろ……」

 枕元のスマホに目をやると朝の9時。平日だったら遅刻だが、今日は元日。待ちに待った正月休みだ。
年末にトラブルが続いたせいで大晦日まで出社する羽目になったが、なんとか無事に終えることができた。

(そろそろ起きないとな……)

 起き上がろうと体を動かすと、腰に重い痛みを感じて再びベットに捕らわれた。

「……っ」

 思わず息が詰まる。と同時に腹の奥にジンと疼くような余韻を感じて、昨晩の恋人との甘い蜜のような時間が頭をよぎる。

「俺、気を失ったのか……?」

 思い出そうとするが、体が怠くて思考がついていかない。ベットに沈むように体を預けて、回らない頭のまま天井を見つめているとドアが開く音がした。

七星ななせ、起きた? おはよう」

 柔らかな声と共に寝室に入って来たのは恋人の陽平ようへいだ。シンプルな上下のルームウェアに薄いロングカーディガンを羽織っていて長身の彼によく似合っている。職場の先輩でもある彼の、いつものスーツ姿とは違うラフな格好に未だに心臓が落ち着かなくなる。

「陽平さん、いつ起きたの? 全然気付かなかった」

 見上げる目が腫れぼったくて瞼が重い。

「あぁ、やっぱりちょっと赤くなってるな」

 持っていたコップをサイドテーブルに置いて、ベットに腰掛けた陽平が七星の頬に優しく触れて目元を撫でる。少しひんやりとした大きな手が心地良い。スリ、と頬をり寄せると彼の形の良い唇がふわりと瞼に触れた。

「ごめん、無理させたな」

「あ、えっと、それは俺がいつもより飲んでしまって、その……ごめんなさい」

 言いながら、顔が熱くなる。

「何で謝るの? 沢山おねだりしてくる七星が可愛くて、止められなくなったの俺だよ」

「おっ、おねだり? なんとなくは覚えてるけど、たくさんって……」

 恥ずかしくて陽平の顔を直視できず、思わず枕に顔を埋めた。落ち着けと心の中で何度も呟きながら、必死で記憶を辿る。



 ──昨日は仕事が終わったその足で、七星より一日早く休暇に入っていた陽平の家に向かった。付き合い始めて半年、恋人として一緒に過ごす始めての年越しだ。同じ会社に勤めてるとはいえ互いに忙しく、なかなかゆっくり会う時間も取れていなかったので、久しぶりの二人の時間をずっと前から楽しみにしていたのだ。

 玄関のチャイムを鳴らすと、エプロン姿の陽平が出迎えてくれた。

「お疲れ。寒かったでしょ、早く入って」

 シンプルなインテリアでまとめられたリビングは、いつ来ても落ち着く。二人掛けのダイニングテーブルには既に箸やコップがセットされていて、心が弾んだ。

「陽平さん、もう夕飯の準備終わっちゃった? いい匂い」

「あぁ。あとは皿に盛りつけるだけ。七星の好物もあるよ」

 夕食は年越し蕎麦だった。出汁の香りに食欲をそそられる。一緒に盛られた大きな海老天は七星の好物で、ぷりぷりの食感に頬が緩む。

「うまっ、めちゃくちゃ美味しいよ、陽平さん」

「良かった、作った甲斐があったよ。まだあるからゆっくり食べて」

 夢中でほおばりながら、仕事もできるうえに料理までできるなんてと、改めて自分の恋人に惚れ直す。胃袋を掴まれるというのはこういう事なのかもしれないと、密かに思う。

「ごちそうさま。洗い物は俺がするね」

 食事の準備を手伝えなかったので、洗い物は七星が担当した。後片付けを終えて、陽平が淹れてくれたお茶を片手に一息ついていると、着替えを渡された。いつ泊まってもいいように、必要なものはそろえてある。渡されたのはクリスマスに買った陽平と色違いのパジャマだった。

「七星、疲れてるだろうから風呂に入っておいで」

「俺、先に入っていいの? 陽平さんは?」

「俺は七星が来る前に済ませたから、大丈夫だよ。温まってきて」 

 そう言われて浴室へ向かう。そういえば、陽平からほのかに石鹸の香りがしていたような……。そんな事を考えながら風呂を済ませリビングに戻ると、ソファーの前のローテーブルに果物と白ワインが準備してあった。綺麗なレモンイエローの微発泡で少し甘いそのワインは、七星のお気に入りだ。二人で過ごす初めての年越しに乾杯する。

「七星、酒弱いのにこのワイン好きだよね。もう顔が赤いけど大丈夫? 肌が白いから分かりやすいな」

 陽平の手が頬に触れる。いつもは一杯で止めるのに、二杯目を飲み終えるところだった。

「ふふ、大丈夫。久しぶりに陽平さんとゆっくり出来て嬉しいんです、俺」

 ソファーに二人並んで座り、テレビを見て寛ぎながら他愛もない話をする。この穏やかな時間がとても好きだと思う。時々、腕に触れる陽平の温もりが心地良い。ふわふわした気分でワイングラスを見つめていると、唇にひやりと冷たい物が触れた。

「わっ、なに?」

「はい、口開けて」

 陽平が苺を差し出してくる。

「お、苺だ。俺、苺好きなんだ。ありがと、あ、おっき、んっ……」

 ひと口では入りきれない大きさの苺にかぶりつくと、口の横から甘い果汁が滴る。

「んっ、何か拭くもの……」

「待って、俺が拭いてあげる」

 拭おうとする手を途中で止められたかと思うと、陽平の端正な顔が近づいてきてペロリと舐め取られてしまった。

「……っ、陽平さん?」

 驚いて目をしばたたかせていると今度は唇に舌が這い、ゆっくり味わうように優しくキスをされる。

「ん、甘くて美味いな、苺。七星も甘い、もっと食べていい?」

 キスを解いた陽平の、熱を帯びた瞳と目が合って一気に体温が上がっていくのを感じる。その瞳に吸い込まれるように近づいて、問いかけに応える変わりに自分からキスを返した。互いの唇の感触を確かめるように柔らかなキスを繰り返す。

「んっ」

 上がる息と久しぶりに感じる甘やかな感覚に目眩がして、反射的に彼のシャツを掴むとぐいっと腰を引き寄せられた。
陽平の熱い舌が唇を這い、ゆっくりと割入ってきて苺の味が残る七星の口内を、所狭しと浸食していく。舌を吸われる度に、ピリピリと心地良い刺激が体中を走って、思わず甘い吐息が漏れる。

「ふ……ぅんっ」

 しかし息をつく暇も無くその吐息ごと唇をまれ、更に深く舌を絡められる。頭から足の先まで溶けてしまいそうなキスに翻弄されていると、既に兆しを示し始めていた中心を不意に触られて、ビクリと体が震えた。服越しに感じる陽平の手の温度に鼓動が早くなる。

「んんっ、陽平さんっ、そこ、まだっ」

「ん? キスだけでもうこんなになってるけど?」

 止める隙もなくソファーに押し倒されて、あっという間に露にされてしまった七星の中心を、優しい大きな手が包む。

「ふあっ、んっ」

 ゆるゆると動き始めた陽平の手に弄ばれ、呼吸が早くなる。キスを解いた唇は七星の首筋をかすめ、僅かな突起を探し出し、柔らかく吸い上げ熱い舌を行き来させる。そのたびに腰にムズムズとした疼きを感じ、中心からは湿った音が立ち始める。

「陽平さん、そんなにしたら、んぅ、やっ」

 同時に与えられる刺激にたまらなくなって、陽平の首元にしがみつく。

「七星、可愛い。まだそんなにいじってないのに、もうイキそう?」

 耳元で優しく囁かれて、カッと顔が熱くなる。その間にも中心への愛撫は止まらず、優しく刺激され続ける。必死で耐えていると、額や頬にキスの雨が降ってきて、それさえも甘い疼きへと変わっていく。湿った音が大きくなり、湧き上がってくる感覚を放ちたくなる。

「は、ああっっ」

「まだダメだよ、我慢して」

 そう言って中心への刺激を止めてしまった陽平の手が、するりと七星の柔らかな双丘を滑りその間の蕾を指がクニ、と撫でる。

「ここまで濡れてる」

 陽平の手によって弄ばれたところから溢れていた蜜が、後ろの蕾を潤し簡単に指の侵入を許してしまう。

「……っ、あ、陽平さ……」

 長い指でゆっくりとなかを探られ腰が震える。快楽を逃がそうと喘ぐように口で息をしていると、熱い吐息混じりの深いキスで塞がれる。

「ぅんん……っふ」

  キスをされたまま蕾の中の核心に触れられて、そこから溶けてしまいそうな程に解され体が熱を帯びていく。与えられる感覚に身じろぐたび、腿に当たる陽平の熱いそれが存在感を増していくのを感じて、そっと手を伸ばした。

「も、やぁっ、陽平さん、おねがいっ」

「……っ七星、もっとじっくり解してあげたいのに、煽っちゃだめだろ」

「もう平気だからっ、早く陽平さんと……っ」

 触れられているところから切なさがこみ上げてきて、陽平の熱をもっと感じたいと思うと我慢できなくなった。早く、深くまで……そう思うと目に涙が滲む。

「分かったから、そんな顔しないで」

 大きな手が慈しむように頬を包み、潤んだ目元を指で優しく拭われる。ゆっくりと体を引き寄せられ、陽平に背を向けるようにして受け入れる体勢になる。

「きつかったら言って」

 肩やうなじ、背中に柔らかく落とされるキスが気持ちよくて、小さく体を震わせる。優しい声にコクコクと首を振って了承すると、熱く硬い陽平のそれが蕾にあてがわれた。湿った音とともにゆっくりと、だが確実に押し入ってくる。

「っん、はぁぁっ」

 内臓を押しやられるような圧迫感と熱に、呼吸が乱れる。

「七星、ゆっくり息して……っ、もうあと少しだから」

 少し荒い息づかいが聞こえて後ろを振り返ると、僅かに眉間を寄せこちらを見つめる陽平と目が合う。慰めるように向けられた優しい瞳とは裏腹に、その奥に見え隠れする彼の欲が垣間見えて心臓が跳ねる。
七星の蕾の内壁と陽平の熱いそれとを馴染ませるように、時々ゆるゆると前後に腰を動かされ、全てを収められた。

「頑張ったね、七星。全部入ったよ」

「んはっ、すごい、いっぱいっ……陽平さんの、あつい」

 優しく髪を撫で、後ろから顎を支えられ与えられる甘いキスに喉が鳴る。体の内側から伝わる陽平の熱と、その存在感でいっぱいに広がった蕾がぎゅう、と収縮するのを感じて体が小さく震えた。

「七星、平気?」

「うん、大丈夫だから、ね……陽平さん、動いてほし……っ」

 七星の呼吸が落ち着くまで、動きを止めて待ってくれていた陽平に懇願する。蕾が収縮する度に、切なく張り詰めた中心からはトロトロと蜜が溢れ、どうしようもない疼きに肌が粟立つ。

「今日は性急だな。そんなに急がなくても時間ならたくさんあるのに」

 背中から抱きしめられて、首筋にキスを落としながら諭すように言われる。

「だって、やっと陽平さんと繋がれたのに……我慢できない」

「……っ七星、そんな事言って後で後悔しても知らないよ」

 はぁっという息づかいと共に、熱を吐き出すようにそう言って腰をグッと力強く掴まれた。熱いそれが蕾のすぐ入り口辺りまで引き抜かれる。

「んぁっ」

 それだけでビクビクと内腿が震え、次に与えられるだろう快楽を期待する。

「気持ちよくなろうね」

 耳のそばで陽平の優しい低い声が聞こえたかと思うと、一気に入り口から滑らかに最奥まで貫かれた。

「あっ、んぁぁぁっ」

 内の核心をかすめて体の奥まで届くような強い衝撃と、痺れるような甘い感覚に張り詰めていた中心から白濁がほとばしる。ぐったりと上半身の力が抜け、クッションに身を預けて快楽の波をやり過ごそうと努力する。こんな風に押し出されるように達したのは初めてで、戸惑いと恥ずかしさで顔が熱くなる。

「イッっちゃたね。可愛いな、七星。ね、顔見せて」

 肩で息をしながら振り向こうとすると、繋がったままの状態でくるりと仰向けにされた。汗で濡れた前髪が額に張り付いているのを陽平の指が優しく梳いてかきあげる。視線が合って咄嗟に顔を手で隠そうとすると、手首を掴まれ顔の横で押さえられてしまった。

「……っ、恥ずかしいからあんまり見ないでっ。俺きっと、みっともない顔してる」

「みっともなくなんかないよ。俺のでこんなに蕩けてくれて、嬉しいんだけど」

 そう言って優しいキスを与えられる。そしてゆっくりと首筋、鎖骨へと移動して可憐な突起の近くで止まった唇が、ジュッと音を立てて皮膚を吸い上げた。

「んっっ」

 ピリッとした僅かな痛みを残して陽平の唇が離れると、七星の白い肌に花が咲いたような赤い跡が残る。

「ごめん、俺のものっていう印を付けたくなった」

「そんなの無くても、俺は陽平さんの……っ、なの、にっ、んあっ」

 最後まで言い終わる前に再開した、緩やかな抽挿の刺激に言葉を遮られた。堪らず声を漏らす七星を見つめ、動きは止めないまま、クスリと笑って手の甲に唇を寄せる陽平の姿が、やけに色っぽく見えて胸が苦しくなる。

「はあっ、んっ、やぁっ、ぁぁっ」

 達して敏感になっている内壁を小刻みに擦られ、とめどなく揺すられ与えられる快楽に耐えられず、甘い嬌声をあげる。陽平が動くたびに湿った音が大きくなって、聞こえてくる音が更に欲情を煽る。

「はぁっ、すごいな七星。ここからどんどん溢れてくる」

 息を荒くして話す陽平に、ぬるりと中心を握られて腰が跳ねる。内側への刺激と同時にそこも擦られ、ビリビリとした感覚が背中を走る。

「あぁっ、そこ、一緒にしちゃだめっ、ふあっ」

 堪らず陽平の肩を手で押して、抵抗を試みるがビクリともしない。

「だめなの? でもまた硬くなってきた。それに七星のここは俺のを離してくれそうにないよ」

 陽平の熱いそれが出入りして、紅く色づいた蕾の表面をスルスルと長い指が撫でる。そんな些細な刺激にも、きゅっと収縮して反応を示す。止めてほしいのに止めてほしくない……。
陽平に与えられる刺激の全てが気持ちよくて、ふわりと体が浮いてしまいそうな感覚を持て余し、泣きそうになる。

「んあっ、あっ、あっ、はっ、あぁぁっ」

 次第に早くなる抽挿に、自分のものとは思えない艶めかしい声が出る。

「やっ、もうやっ、あっ、おかしくなりそっ……あっ陽平さ……ん」

 激しく揺すられ何度も核心を擦られる度に、また達しそうになる。思わず腰を支えている陽平の手を掴んで必死で耐えていると、その手をとられて体ごと包み込むように抱きしめられた。

「感じてる七星、可愛すぎ。もっと感じて、もっと俺を求めて」

 耳朶を甘噛みされ、熱い吐息と共に囁かれる言葉に体の力がふっと抜けていく。
久しぶりに感じる心地良い陽平の体温。体だけじゃなく、心まで溶かされるように与えられる快楽に幸せの涙が溢れて、もっと深くでその温もりを感じたいと熱望する。

「っんん、あっ、もっとほし……いっ、んあぁっ」

「ん、まかせて。イクの、我慢しなくていいからね」

 抱きしめられていた体が離れたかと思うと、内腿を掴み押し上げられ陽平の熱いそれと繋がったままの蕾が露になる。肌と肌がぶつかり合う音が響くほどの抽挿が繰り返され、そのたびに激しくなる湿った音と互いの呼吸。

「あぁっ、ふかぁ……深いっ、あっ、ようへいさ……して、もっとしてっ」

 体の奥の奥まで甘く解されるような激しい快楽に思考が奪われいく。

「んっ、ようへい……んぁっ、ようへいさんっ、あぁぁぁ」

 熱に囚われたように何度も彼の名前を呼んで、甘い嬌声を漏らす。目の前を星屑が飛び散って、とろとろと蜜を流していた中心が一瞬ビクリと震えた。濡れた蕾が脈を打つように蠢く。

「あぁぁぁっ、あっ、あっ……」

 くっ、と声を殺しながら七星のなかに迸りを放つ陽平を涙でぼやけた視界が捉える。荒い呼吸をする彼の口元に触れようと伸ばした手に、柔らかいキスが落ちる。その感触に安心して、一気に体の力が抜けていく。そしてそのまま、意識を手放してしまった。



 ──というのが昨晩の出来事だ。

「思い出した? ほんと可愛かったなぁ、七星」

 柔らかい微笑みを浮かべた陽平に、優しく髪をかきあげられる。

「お、俺……っ」

 色々と思い出して、火が出そうなくらい熱い顔を両手で覆う。

「とりあえずこれ飲んで。喉乾いてるでしょ、起きれる?」

 陽平に促され、あちこち軋む体を引きずるようにしてベットから起き上がる。渡されたレモン水を一気に飲み干すと、爽やかな香りが体中に染み渡る。

「そう言えば俺、なんでベットに?」

 少しクリアになった頭で、自分がソファーではなくベットにいることに気付いてハッとする。それだけでなく体もサラサラしているし、着替えも出来ている。あたふたしながら陽平の顔を見ると、口に手を当て笑いをこらえてこっちを見ていた。

「七星、ほんと可愛すぎ」

 七星が気を失っている間に寝室まで運び、体を清めてくれていたのだ。やっとすべてを理解して、更に顔が熱くなる。

「陽平さん、俺……っ、色々ありがと」

「うん、どういたしまして。だから今日は一日、このまま俺に甘やかされてくれる?」

「えっ、言ってる意味が……。二人で初詣に行く約束は?」

 消え入るように礼を言う七星に、予想外の提案がされる。困惑する七星に対して、当然のことだと言わんばかりの陽平の様子に目を見張る。

「初詣は明日にしよう。足腰立たないでしょ? それにここんとこ、こうやって七星をかまう時間無かったし、素直に言う事聞いてほしいな」

「う、はい……」

 図星をつかれて、思わず俯く。元旦に初詣に行くのが毎年恒例だったので少し残念な気はしたが、本当に動けそうにないので潔く諦める。

「うん、よし。とりあえず、何か軽く食べられる物持ってくるからもう少し休んでて。食べたら一緒に風呂に入ろう」

 楽しげに寝室を出て行く陽平の後ろ姿を見送り、大きく深呼吸してまだ熱い顔に手をやる。一人になると昨晩の蕩けるように甘い時間が反芻されて、恥ずかしさで消えてしまいたくなる。
こんな年越しは後にも先にもきっともう、無いようにしようと静かに誓う。
 
 
 しばらくして卵サンドと山盛りにされた赤い艷やかな苺がのったトレーを手に、陽平が戻ってきた。もちろんどちらも七星の好物だ。

「陽平さん、あの、言いそびれちゃってたけど、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 改まって話す七星に一瞬、驚いたような顔をした陽平だったが、すぐに柔らかな表情がその端正な顔に宿る。

「そうだったな、俺たち新年の挨拶してなかったよね。こちらこそよろしくね、七星。おかげで幸せな一年を迎えられそうだ」

 くしゃりと髪を撫でられて、覗き込んでくる優しい瞳にほわ、と胸が暖かくなる。


 苺の甘い香りに包まれた、幸せな時間。大切な恋人との、新しい年の始まり。
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