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運命
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夏休みが終わり、学校が始まった。夏祭り以来、かなとは連絡を取っていない。僕にはその資格がないと思っていたから。久しぶりにかなに会えるかなとちょっぴり緊張気味で学校へ行った。
「お、翔おはよ!」
「智おはよ」
「かなまだ来てないね」
「そうだね」
かながこんなに遅いなんて珍しい。先生が来て出欠確認が行われる。
「あ、橘は今日お休みだな」
かな休みなんだ。やっぱり、僕と会いたくないのかな。そりゃ、気まづいよね。会いたくないよね。
全ての授業が終わり、帰りのSTの時、先生が「翔、橘と家近いよな?ちょっとこれ、持って行ってくれないか?」と言ってきたので、「わかりました」と答えざるおえなかった。
帰りにかなの家に行く。チャイムを押すとかながでてくれた。
「はーい」
「あ、翔だけど、先生から荷物預かってて」
「あ、ありがと。ちょっと待っててね」
「うん」
かなは静かにドアを開けてくれた。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがとね」
「うん」
明らかに大丈夫そうじゃなかった。僕と会いたくないからか。僕がこんなにしょんぼりしていてどうするんだ。次、かなが学校に来た時、何も無かったかのように元気に迎えよう。
だけど、その日が訪れることはなかった。
次の日もまた、その次の日もかなが学校に来ることはなかった。僕のせいだと凄く責任を感じていた。だけど、毎日かなの家に荷物を届け続ける。チャイムは押さず、ポストに入れて静かに帰る毎日を過ごした。
一ヶ月くらい経った日。いつものように学校に行くと、先生が深刻な顔で教室に入ってきた。なんだろうと不思議に思っていると、思わぬ言葉が僕の耳に飛び込んできた。
「昨日、橘かなは亡くなりました」
信じられない。なにかの間違えではないか。それとも、なにかのサプライズ?お願いだから、嘘だと言って欲しい。かなが亡くなった?え、なにそれ。信じれるわけないじゃん。そんなの突然すぎるよ。
僕は、息ができなかった。上手く呼吸ができなくて、過呼吸になってしまって、意識を失った。
気づいたら、そこは保健室のベットの上。何があったのか状況を理解できない。もしかしたら、かなが亡くなったのも全部、悪い夢でも見たのではないか。
「翔、お前大丈夫か?」
「あ、智。何で僕」
「先生からかなのこと聞いてお前意識失ったんだよ」
夢じゃなかった。現実だった。訳が分からない。何が起きているのか。全くわからない。
「先生が、翔はもう帰っていいよだってさ」
「うん」
僕は抜け殻のような状態で教室に戻り、荷物を持って家に帰った。
「ただいま」
「翔どうしたの?」
そっか。今日、お母さんお仕事夜勤か。
「かなが亡くなったって」
「え、…?」
「それで、僕、意識失って担任の先生がもう帰っていいって」
「かなちゃんが亡くなったってほんとなの?」
「うん…」
大好きなかなを失ったと言うのに、僕は涙さえも出てこなかった。何も考えられなかった。考えることができなかった。そんな時、家のチャイムがなった。
「福永さん。橘です。お話があります」
「あ、どうぞ」
来たのはかなのお母さん。放心状態の僕を見て、橘さんは悟ったみたいだ。
「かなが昨日亡くなりました。生前、かなはずっと病気と闘っていました」
かなが病気?嘘でしょ?あんなに元気だったのに?僕の頭は更に混乱した。
「そうでしたか。それはお気の毒に…」
お母さんも悲しそうに言った。
「明日、かなのお葬式があるので是非来ていただけませんか」
「わかりました。行かせて頂きます」
「ありがとうございます」
少し話したあと、橘さんは帰って行った。
事がどんどん進んで行く。かなが亡くなったという事実をまだ受け入れられないというのに。この日僕は一睡もできなかった。ご飯も喉をとおらない。声も出ない。何もする気がおきない。誰か、助けてよ。
お葬式。かなが静かに眠っていた。浅草に一緒に行った時に、僕の肩に頭を乗せて眠っていたみたいに。とても、亡くなったようには見えなかった。凄く綺麗で美しかった。僕の大好きなかなだ。
「かな」やっと声が出た。
「ねぇ、かな起きてよ」かなはピクリとも動かない。あの時みたいに起きてくれない。そこでやっと、かなは死んだんだと理解することができた。でも、まだ信じられない。僕は後悔した。かながどういう気持ちでいたのか最後までわからなかった。僕が告白してしまったばっかりに、僕に会いたくないから学校に来ないと思っていた。でも、それは僕の憶測に過ぎなかったみたい。お線香をあげ、お花を添えた。今日が最後だ。かなと会えるのは。わかっているんだけど、もう一度かなの顔を見ることはできなかった。かなが死んだと言う事実を受け入れないといけなくなるから。僕はその場に居られなくなり、お母さんを連れて帰った。
かなが亡くなって一ヶ月。僕の気持ちは少し落ち着いた。あれから、一度も学校には行っていない。そして、一度も泣いていない。
僕は線香をあげにかなの家を訪れた。まだ現実が受け止められない。心に大きな穴が空いたみたいだ。橘さんに会うのはかなのお葬式以来。橘さんは温かく僕を向かい入れてくれた。線香をあげた後、かなの部屋に案内してくれた。そこには、かなが病気と闘っていたことがひと目でわかるくらいの、薬の量。そして、点滴や呼吸器。この光景を見ただけで、胸が苦しい。あの時覚えた違和感はこれか。別にソファに寝かせなくてベットに寝かせに行けばよかったのに、かなの部屋には沢山の病気と奮闘しているのが分かるものが置かれているから僕を部屋には通してくれなかったのか。そういうことか。それと、僕との写真が沢山飾られていた。小さい頃よく遊んでいた公園で、僕が転んで泣いてるのをかなが慰めてる写真。幼稚園の卒園式。小、中の入学式。卒業式。高校の入学式。一緒に行った浅草での写真。夏祭りで撮った写真。どの写真にも僕の姿があった。そして、僕は見つけた。机の上の一通の手紙。洋封筒を見ると〝翔へ〟の文字。僕はそれだけで泣きそうになった。渋々、その手紙を手に取る。きちんと机の中にしまわれていた椅子を出して腰をかける。そしてゆっくり封筒を開け、二つ折りの手紙を開いた。
翔へ
ごめんね翔。勝手にいなくなったりして。
約束守れなかったや。
でも、私に残された運命はこれしかなかったみたい。お医者さんから余命宣告を受けた時、正直絶望した。夜寝るのが怖くて仕方なかった。寝てしまったら、明日は来ないかもしれなかったから。いつ、死んでもおかしくなかったから。だから、朝がくるのが幸せで、よかった、今日も生きてるって思えた。翔の家で寝ちゃった時、ちょっと体調悪くなっちゃって、心配かけたくなかったから寝たフリしようと思ってたら、ほんとに寝ちゃってた。それくらい、翔が傍にいてくれてるだけで安心できた。寝る前に、翔と沢山遊んだことを思い出してたの。一緒に行った浅草の食べ歩き楽しかったなとか。夏祭りでみた花火すっごい綺麗だったなとか。翔、笑ってたなとか。そういうこと考えてると安心して眠りに着けたんだよね。ほんとに、翔の力ってすごいよ。でも、どうしても夏休み明けてからは体調が優れなくて学校に行けなかった。沢山心配かけてほんとにごめんなさい。毎日、ポストに先生からの荷物運んでくれたの知ってるよ。ほんとにありがとう。
病気が見つかったのは高一の時。実はずっと病院通いだったんだよね。心配かけたくなかったら、翔には言えなかった。ごめんね。
翔と過ごした夏。最高だったよ。最後の夏だって分かってたから、より一層楽しまないとって思ってた。それを翔はわかっているかのように、沢山私を楽しませてくれた。本当にありがとう。
ちょっと話変わるけど、私昔から男の子に恋愛感情を抱けなくて、初めて恋愛感情というものを抱いたのが女の子だった。翔には話したと思うけど。そこから、私は女の子に恋をするようになったの。男の子のことを好きになったことはなかった。
だけどね、ある日から私は翔に恋をしてた。いつも翔のことを目で追ってしまう。
翔がみんなに勉強を教えているのを見ているのも好きだった。優しくて、いつも笑顔でいてくれるところ。みんなに気を配れるところ。私を傷つけるかもと好きだという気持ちを隠してくれていたところ。努力家なところ。みんなから好かれているところ。全部全部。翔の全てが大好きです。実は朋花に彼氏ができたって言った時、既に翔のこと好きだったんだよね。朋花に彼氏ができたって翔に言ったのは、翔に気にかけて欲しかったから。あの時、翔は朋花に向けて「大好き」って言ったと思ってるんだろうけど、あれは翔に向けてだよ。私の伝わらない想い。でも、それで良かった。伝わらなくてよかった。
不思議だった。男の子に恋をすること。異性を好きでいることが。私は、男の子には恋愛感情を抱けないと思っていたから。でもその時、思えたんだ。性別なんて関係ないんだって。女の子だから好き。男の子だから好きになれないって別にないんだなって。人が好きになるのって、性別じゃない。その人自身なんだなって。しかも翔なんて、昔から一緒にいるから友達としか思ったことがなかったし。だから、翔に想いを伝えたら混乱させると思った。同時にがっかりさせるとも。
翔の想いには気づいてたよ。告白してくれた時も涙が出そうになるほど嬉しかった。やっと言ってくれたって思って。あの時そのまま時が止まればいいのにって思った。忘れてって翔は言ったけど、忘れられるけないよ。私の大切な思い出だよ。ありがとう。でも、ダメだと自分を抑え込んだんだ。もし、付き合うことができたとしても翔を傷つけるだけだから。本当のことを知ったら、きっと翔は全てを失ってでも私を救おうとしてくれたと思うから。
あとちょっとしか生きられないと知っていたら、翔は私を愛してくれたのかな。
異性で初めて好きになったのが翔で、好きで好きでどうしようもなくて、いっそのこと翔の胸に飛び込んでしまいたかった。だけど、そんなことは許されない。あとちょっとで死んでしまうと言うのに、私にそんな権利はない。だから、ずっと翔には朋花のことが好きだと言い続けることにした。朋花のことが好きだったのは事実。でも、それ以上に翔に恋をしてしまった。どうしようもなく好きになってしまった。翔がいつしか言ってくれた「僕はかなの一番にはなれないのか」っていう言葉。あの時友達として一番って言ったけどほんとは違う。ほんとは、全人類の中で一番だよって言いたかった。私の中で翔は一番。一番大切な人。もし、私が翔に想いを伝えていたら翔はどんな反応をしたのかな。喜んでくれたかな。浅草行った時さ、私一回お手洗い言ったじゃん?あの時、鞄別に置いてってよかったのにって言われたけど、薬入ってたから…。このまま薬飲まないと、多分倒れちゃうって思ったから。翔にはずっと元気な私を見せたかった。ごめんね翔。
こんな惨めな私をどうか許してください。
翔の人生はまだまだこれからなんだから、強く生きてください。翔の夢叶えてね。翔の手料理食べた時、美味しすぎて感動した。ずっと食べていたかったな。翔の夢、私は全力で応援してるからね!あと、笑顔でいてね。翔の笑顔は周りの人を幸せにするんだから。私の心の中にいつもいたのは、他の誰でもない。翔だよ。笑顔で話しかけてくれる翔。その翔を見るだけで私は幸せだった。ありがとう。そして、沢山の人にも出会うと思う。運命の人にも。その時は自分の心に正直になって。真っ直ぐにその人のことを愛してあげてください。これが私の願いです。
じゃあ、さようならかな。翔。今まで本当にありがとう。沢山、たくさん感謝しています。
私に会えなくて寂しくなったら、海を見て。私はずっとそこにいるから。
翔、好きになってくれてありがとう。
本当に大好きでした。翔を好きになれてよかった。
私の分まで生きてください。
橘 かな
僕は泣いた。かなが書いた手紙に涙が落ちる。声を出しながらひたすら泣いた。この時、かなが亡くなってから初めて涙がでた。初めて泣いた。かなの気持ちに気づけなかったこと。病気だと気づいてあげられなかったこと。本当は辛かったはずなのに、僕は…僕は。かなのことを何一つとしてわかってあげられてなかった。僕の脳裏にかなとの思い出が一気に蘇ってきた。かなの隣にいた時。どれだけ幸せだったか。かなの笑顔を一番近くで見れて、こんなに幸せでいいのかなって。僕の願いが叶ったみたい。かなが僕のことを好きだったなんて。全然気が付かなかった。かな。どうしてだよ。どうしていなくなっちゃったの。僕はかなに何もしてあげられなかった。ほんとにごめん。ごめんね。ずっと僕の一番はかなだよ。僕はかなからの手紙を大切に、持っていた鞄にしまった。
「ありがとうございました」と橘さんに言って帰宅した。
かながかけてくれた言葉。笑顔でいないと。かなが見ているかもしれない。僕たち、両片想いだったのか。かな、苦しかっただろな。だから、あんな言葉を沢山かけてくれたのか。その言葉を聞く度に、僕は違う意味だと勝手に解釈してた。何やってんだ僕は。素直に受け止めればよかった。かなが言ってくれた言葉を。だから、最期に僕に残してくれた言葉を大切にしよう。絶対、夢を叶えてみせる。そのためにはちゃんと高校卒業しないと。明日から学校に行こう。そして、卒業できるように全力で頑張る。かなのためにも。
僕は第一志望の料理の専門学校に見事合格した。今日は卒業式。かなと出席したかったな。僕は制服のポケットにかなの写真を入れてきた。かなも一緒に出席してもらおうと思って。
卒業証書を頂いた。写真撮影会が始まる。
僕は色んな子と写真を撮った。もちろん、智とも。
「あー俺も無事卒業出来てよかった。お前のおかげだよ。ありがとな」
「ほんとに、一時はどうなる事かと思ったけど、良かったよ」
「お前もだけどな。かなが亡くなってお前もう、生きられないんじゃないかと思ってた」
「かなに言われたんだ。私の分まで生きてって。笑顔でいてねって。だから、僕は前を向いて生きるよ」
「それでこそ、翔だ!」
「ありがと!」
僕は笑顔だった。高校最後の日。みんなと笑顔で過ごした。僕が笑顔になれたのも、かなのおかげ。大好きなかな。かなに出逢えてよかった。
校門に立てられてる「卒業式」の看板。その前で、僕はかなの写真と一緒に写真を撮った。かなと一緒に出る最後の卒業式。
「ふふ、ありがとう。翔卒業おめでとう」とかなの声が聞こえた気がした。「かなも卒業おめでとう」と言い、先生に頼み込んで無理して作ってくれたかなの卒業証書を出す。かな見てるかな。届いてるかな。かなのおかげで無事に卒業できたよ。ありがとう。僕の一番大切な人。これからも僕の一番はずっとかなだからね。
帰りにコンビニによって、今日撮った画像を現像した。家に帰って、写真を部屋に飾る。みんなとのたくさんの写真。そして、かなとの写真。浅草で撮った写真も、夏祭りで撮った写真も現像してきた。写真立てに入れ綺麗に飾る。かなの部屋には飾られることはなかった、高校の卒業式の写真。ちゃんと、僕の部屋に飾ったよ。かなとの最期のツーショット。僕の人生は幸せだ。そう思えるのはかなのおかげ。僕の部屋から見える広くて青い海。そこにかなはいる。ずっとどこか儚さを感じていた。だけど、そんなものはかなが追い払ってくれた。今は灼熱の太陽に照らされて、綺麗に輝いている。まるで、かなみたいだ。
橘かなに捧ぐ。僕の一生分の愛をここに。
「お、翔おはよ!」
「智おはよ」
「かなまだ来てないね」
「そうだね」
かながこんなに遅いなんて珍しい。先生が来て出欠確認が行われる。
「あ、橘は今日お休みだな」
かな休みなんだ。やっぱり、僕と会いたくないのかな。そりゃ、気まづいよね。会いたくないよね。
全ての授業が終わり、帰りのSTの時、先生が「翔、橘と家近いよな?ちょっとこれ、持って行ってくれないか?」と言ってきたので、「わかりました」と答えざるおえなかった。
帰りにかなの家に行く。チャイムを押すとかながでてくれた。
「はーい」
「あ、翔だけど、先生から荷物預かってて」
「あ、ありがと。ちょっと待っててね」
「うん」
かなは静かにドアを開けてくれた。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがとね」
「うん」
明らかに大丈夫そうじゃなかった。僕と会いたくないからか。僕がこんなにしょんぼりしていてどうするんだ。次、かなが学校に来た時、何も無かったかのように元気に迎えよう。
だけど、その日が訪れることはなかった。
次の日もまた、その次の日もかなが学校に来ることはなかった。僕のせいだと凄く責任を感じていた。だけど、毎日かなの家に荷物を届け続ける。チャイムは押さず、ポストに入れて静かに帰る毎日を過ごした。
一ヶ月くらい経った日。いつものように学校に行くと、先生が深刻な顔で教室に入ってきた。なんだろうと不思議に思っていると、思わぬ言葉が僕の耳に飛び込んできた。
「昨日、橘かなは亡くなりました」
信じられない。なにかの間違えではないか。それとも、なにかのサプライズ?お願いだから、嘘だと言って欲しい。かなが亡くなった?え、なにそれ。信じれるわけないじゃん。そんなの突然すぎるよ。
僕は、息ができなかった。上手く呼吸ができなくて、過呼吸になってしまって、意識を失った。
気づいたら、そこは保健室のベットの上。何があったのか状況を理解できない。もしかしたら、かなが亡くなったのも全部、悪い夢でも見たのではないか。
「翔、お前大丈夫か?」
「あ、智。何で僕」
「先生からかなのこと聞いてお前意識失ったんだよ」
夢じゃなかった。現実だった。訳が分からない。何が起きているのか。全くわからない。
「先生が、翔はもう帰っていいよだってさ」
「うん」
僕は抜け殻のような状態で教室に戻り、荷物を持って家に帰った。
「ただいま」
「翔どうしたの?」
そっか。今日、お母さんお仕事夜勤か。
「かなが亡くなったって」
「え、…?」
「それで、僕、意識失って担任の先生がもう帰っていいって」
「かなちゃんが亡くなったってほんとなの?」
「うん…」
大好きなかなを失ったと言うのに、僕は涙さえも出てこなかった。何も考えられなかった。考えることができなかった。そんな時、家のチャイムがなった。
「福永さん。橘です。お話があります」
「あ、どうぞ」
来たのはかなのお母さん。放心状態の僕を見て、橘さんは悟ったみたいだ。
「かなが昨日亡くなりました。生前、かなはずっと病気と闘っていました」
かなが病気?嘘でしょ?あんなに元気だったのに?僕の頭は更に混乱した。
「そうでしたか。それはお気の毒に…」
お母さんも悲しそうに言った。
「明日、かなのお葬式があるので是非来ていただけませんか」
「わかりました。行かせて頂きます」
「ありがとうございます」
少し話したあと、橘さんは帰って行った。
事がどんどん進んで行く。かなが亡くなったという事実をまだ受け入れられないというのに。この日僕は一睡もできなかった。ご飯も喉をとおらない。声も出ない。何もする気がおきない。誰か、助けてよ。
お葬式。かなが静かに眠っていた。浅草に一緒に行った時に、僕の肩に頭を乗せて眠っていたみたいに。とても、亡くなったようには見えなかった。凄く綺麗で美しかった。僕の大好きなかなだ。
「かな」やっと声が出た。
「ねぇ、かな起きてよ」かなはピクリとも動かない。あの時みたいに起きてくれない。そこでやっと、かなは死んだんだと理解することができた。でも、まだ信じられない。僕は後悔した。かながどういう気持ちでいたのか最後までわからなかった。僕が告白してしまったばっかりに、僕に会いたくないから学校に来ないと思っていた。でも、それは僕の憶測に過ぎなかったみたい。お線香をあげ、お花を添えた。今日が最後だ。かなと会えるのは。わかっているんだけど、もう一度かなの顔を見ることはできなかった。かなが死んだと言う事実を受け入れないといけなくなるから。僕はその場に居られなくなり、お母さんを連れて帰った。
かなが亡くなって一ヶ月。僕の気持ちは少し落ち着いた。あれから、一度も学校には行っていない。そして、一度も泣いていない。
僕は線香をあげにかなの家を訪れた。まだ現実が受け止められない。心に大きな穴が空いたみたいだ。橘さんに会うのはかなのお葬式以来。橘さんは温かく僕を向かい入れてくれた。線香をあげた後、かなの部屋に案内してくれた。そこには、かなが病気と闘っていたことがひと目でわかるくらいの、薬の量。そして、点滴や呼吸器。この光景を見ただけで、胸が苦しい。あの時覚えた違和感はこれか。別にソファに寝かせなくてベットに寝かせに行けばよかったのに、かなの部屋には沢山の病気と奮闘しているのが分かるものが置かれているから僕を部屋には通してくれなかったのか。そういうことか。それと、僕との写真が沢山飾られていた。小さい頃よく遊んでいた公園で、僕が転んで泣いてるのをかなが慰めてる写真。幼稚園の卒園式。小、中の入学式。卒業式。高校の入学式。一緒に行った浅草での写真。夏祭りで撮った写真。どの写真にも僕の姿があった。そして、僕は見つけた。机の上の一通の手紙。洋封筒を見ると〝翔へ〟の文字。僕はそれだけで泣きそうになった。渋々、その手紙を手に取る。きちんと机の中にしまわれていた椅子を出して腰をかける。そしてゆっくり封筒を開け、二つ折りの手紙を開いた。
翔へ
ごめんね翔。勝手にいなくなったりして。
約束守れなかったや。
でも、私に残された運命はこれしかなかったみたい。お医者さんから余命宣告を受けた時、正直絶望した。夜寝るのが怖くて仕方なかった。寝てしまったら、明日は来ないかもしれなかったから。いつ、死んでもおかしくなかったから。だから、朝がくるのが幸せで、よかった、今日も生きてるって思えた。翔の家で寝ちゃった時、ちょっと体調悪くなっちゃって、心配かけたくなかったから寝たフリしようと思ってたら、ほんとに寝ちゃってた。それくらい、翔が傍にいてくれてるだけで安心できた。寝る前に、翔と沢山遊んだことを思い出してたの。一緒に行った浅草の食べ歩き楽しかったなとか。夏祭りでみた花火すっごい綺麗だったなとか。翔、笑ってたなとか。そういうこと考えてると安心して眠りに着けたんだよね。ほんとに、翔の力ってすごいよ。でも、どうしても夏休み明けてからは体調が優れなくて学校に行けなかった。沢山心配かけてほんとにごめんなさい。毎日、ポストに先生からの荷物運んでくれたの知ってるよ。ほんとにありがとう。
病気が見つかったのは高一の時。実はずっと病院通いだったんだよね。心配かけたくなかったら、翔には言えなかった。ごめんね。
翔と過ごした夏。最高だったよ。最後の夏だって分かってたから、より一層楽しまないとって思ってた。それを翔はわかっているかのように、沢山私を楽しませてくれた。本当にありがとう。
ちょっと話変わるけど、私昔から男の子に恋愛感情を抱けなくて、初めて恋愛感情というものを抱いたのが女の子だった。翔には話したと思うけど。そこから、私は女の子に恋をするようになったの。男の子のことを好きになったことはなかった。
だけどね、ある日から私は翔に恋をしてた。いつも翔のことを目で追ってしまう。
翔がみんなに勉強を教えているのを見ているのも好きだった。優しくて、いつも笑顔でいてくれるところ。みんなに気を配れるところ。私を傷つけるかもと好きだという気持ちを隠してくれていたところ。努力家なところ。みんなから好かれているところ。全部全部。翔の全てが大好きです。実は朋花に彼氏ができたって言った時、既に翔のこと好きだったんだよね。朋花に彼氏ができたって翔に言ったのは、翔に気にかけて欲しかったから。あの時、翔は朋花に向けて「大好き」って言ったと思ってるんだろうけど、あれは翔に向けてだよ。私の伝わらない想い。でも、それで良かった。伝わらなくてよかった。
不思議だった。男の子に恋をすること。異性を好きでいることが。私は、男の子には恋愛感情を抱けないと思っていたから。でもその時、思えたんだ。性別なんて関係ないんだって。女の子だから好き。男の子だから好きになれないって別にないんだなって。人が好きになるのって、性別じゃない。その人自身なんだなって。しかも翔なんて、昔から一緒にいるから友達としか思ったことがなかったし。だから、翔に想いを伝えたら混乱させると思った。同時にがっかりさせるとも。
翔の想いには気づいてたよ。告白してくれた時も涙が出そうになるほど嬉しかった。やっと言ってくれたって思って。あの時そのまま時が止まればいいのにって思った。忘れてって翔は言ったけど、忘れられるけないよ。私の大切な思い出だよ。ありがとう。でも、ダメだと自分を抑え込んだんだ。もし、付き合うことができたとしても翔を傷つけるだけだから。本当のことを知ったら、きっと翔は全てを失ってでも私を救おうとしてくれたと思うから。
あとちょっとしか生きられないと知っていたら、翔は私を愛してくれたのかな。
異性で初めて好きになったのが翔で、好きで好きでどうしようもなくて、いっそのこと翔の胸に飛び込んでしまいたかった。だけど、そんなことは許されない。あとちょっとで死んでしまうと言うのに、私にそんな権利はない。だから、ずっと翔には朋花のことが好きだと言い続けることにした。朋花のことが好きだったのは事実。でも、それ以上に翔に恋をしてしまった。どうしようもなく好きになってしまった。翔がいつしか言ってくれた「僕はかなの一番にはなれないのか」っていう言葉。あの時友達として一番って言ったけどほんとは違う。ほんとは、全人類の中で一番だよって言いたかった。私の中で翔は一番。一番大切な人。もし、私が翔に想いを伝えていたら翔はどんな反応をしたのかな。喜んでくれたかな。浅草行った時さ、私一回お手洗い言ったじゃん?あの時、鞄別に置いてってよかったのにって言われたけど、薬入ってたから…。このまま薬飲まないと、多分倒れちゃうって思ったから。翔にはずっと元気な私を見せたかった。ごめんね翔。
こんな惨めな私をどうか許してください。
翔の人生はまだまだこれからなんだから、強く生きてください。翔の夢叶えてね。翔の手料理食べた時、美味しすぎて感動した。ずっと食べていたかったな。翔の夢、私は全力で応援してるからね!あと、笑顔でいてね。翔の笑顔は周りの人を幸せにするんだから。私の心の中にいつもいたのは、他の誰でもない。翔だよ。笑顔で話しかけてくれる翔。その翔を見るだけで私は幸せだった。ありがとう。そして、沢山の人にも出会うと思う。運命の人にも。その時は自分の心に正直になって。真っ直ぐにその人のことを愛してあげてください。これが私の願いです。
じゃあ、さようならかな。翔。今まで本当にありがとう。沢山、たくさん感謝しています。
私に会えなくて寂しくなったら、海を見て。私はずっとそこにいるから。
翔、好きになってくれてありがとう。
本当に大好きでした。翔を好きになれてよかった。
私の分まで生きてください。
橘 かな
僕は泣いた。かなが書いた手紙に涙が落ちる。声を出しながらひたすら泣いた。この時、かなが亡くなってから初めて涙がでた。初めて泣いた。かなの気持ちに気づけなかったこと。病気だと気づいてあげられなかったこと。本当は辛かったはずなのに、僕は…僕は。かなのことを何一つとしてわかってあげられてなかった。僕の脳裏にかなとの思い出が一気に蘇ってきた。かなの隣にいた時。どれだけ幸せだったか。かなの笑顔を一番近くで見れて、こんなに幸せでいいのかなって。僕の願いが叶ったみたい。かなが僕のことを好きだったなんて。全然気が付かなかった。かな。どうしてだよ。どうしていなくなっちゃったの。僕はかなに何もしてあげられなかった。ほんとにごめん。ごめんね。ずっと僕の一番はかなだよ。僕はかなからの手紙を大切に、持っていた鞄にしまった。
「ありがとうございました」と橘さんに言って帰宅した。
かながかけてくれた言葉。笑顔でいないと。かなが見ているかもしれない。僕たち、両片想いだったのか。かな、苦しかっただろな。だから、あんな言葉を沢山かけてくれたのか。その言葉を聞く度に、僕は違う意味だと勝手に解釈してた。何やってんだ僕は。素直に受け止めればよかった。かなが言ってくれた言葉を。だから、最期に僕に残してくれた言葉を大切にしよう。絶対、夢を叶えてみせる。そのためにはちゃんと高校卒業しないと。明日から学校に行こう。そして、卒業できるように全力で頑張る。かなのためにも。
僕は第一志望の料理の専門学校に見事合格した。今日は卒業式。かなと出席したかったな。僕は制服のポケットにかなの写真を入れてきた。かなも一緒に出席してもらおうと思って。
卒業証書を頂いた。写真撮影会が始まる。
僕は色んな子と写真を撮った。もちろん、智とも。
「あー俺も無事卒業出来てよかった。お前のおかげだよ。ありがとな」
「ほんとに、一時はどうなる事かと思ったけど、良かったよ」
「お前もだけどな。かなが亡くなってお前もう、生きられないんじゃないかと思ってた」
「かなに言われたんだ。私の分まで生きてって。笑顔でいてねって。だから、僕は前を向いて生きるよ」
「それでこそ、翔だ!」
「ありがと!」
僕は笑顔だった。高校最後の日。みんなと笑顔で過ごした。僕が笑顔になれたのも、かなのおかげ。大好きなかな。かなに出逢えてよかった。
校門に立てられてる「卒業式」の看板。その前で、僕はかなの写真と一緒に写真を撮った。かなと一緒に出る最後の卒業式。
「ふふ、ありがとう。翔卒業おめでとう」とかなの声が聞こえた気がした。「かなも卒業おめでとう」と言い、先生に頼み込んで無理して作ってくれたかなの卒業証書を出す。かな見てるかな。届いてるかな。かなのおかげで無事に卒業できたよ。ありがとう。僕の一番大切な人。これからも僕の一番はずっとかなだからね。
帰りにコンビニによって、今日撮った画像を現像した。家に帰って、写真を部屋に飾る。みんなとのたくさんの写真。そして、かなとの写真。浅草で撮った写真も、夏祭りで撮った写真も現像してきた。写真立てに入れ綺麗に飾る。かなの部屋には飾られることはなかった、高校の卒業式の写真。ちゃんと、僕の部屋に飾ったよ。かなとの最期のツーショット。僕の人生は幸せだ。そう思えるのはかなのおかげ。僕の部屋から見える広くて青い海。そこにかなはいる。ずっとどこか儚さを感じていた。だけど、そんなものはかなが追い払ってくれた。今は灼熱の太陽に照らされて、綺麗に輝いている。まるで、かなみたいだ。
橘かなに捧ぐ。僕の一生分の愛をここに。
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