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セシルのひとり言

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「それでね、クレアちゃんがね、」

 メロディは実年齢にしては幼くしたったらずなしゃべり方をする。そんなメロディが可愛くて、セシルはうんうんと彼女の話しを聞いていた。

 メロディはセシルの女子寮の部屋の窓から、突然ドラゴンのウェントゥスと入って来た。花屋の配達の帰りなのだという。

 一脚しかない部屋のイスをメロディに座らせ、セシルはベッドの上に座る。ドラゴンのウェントゥスはベッドの上で、火の小鳥のアピと一緒になって遊んでいる。

 セシルは少し前まで、目の前にいるメロディと、彼女の友達のクレアに魔法の指導を受けていた。彼女たちの助力のかいあって、セシルは火魔法を操れるようになった。

 メロディたちの指導が終われば、彼女たちとの縁も切れてしまうと思っていた。だがメロディは配達の仕事の合間をぬって、セシルの所に油を売りに来てくれるのだ。

 セシルはそれがとても嬉しかった。だがクレアの目を盗んでというのが少し心配だ。

 メロディは先ほどからずっとクレアの話しをしている。メロディはクレアの事が大好きなのだ。メロディの話しのしゅしは、いつもお世話になっているクレアに何かお礼がしたいので、何をすればいいかという相談だ。

 セシルは考えた。クレアは高価なプレゼントを喜ぶ女の子ではない。それよりも気持ちのこもった贈り物がいいのではないか。セシルは一つ案を出した。

「じゃあメロディがクレアに食事を作ってあげるのはどう?」

 セシルの提案に、メロディはううんとうなってから答えた。

「お料理はいい考えだと思うけどぉ。前にあたしがクレアにちゃんにスープを作ってあげた事があるの。クレアちゃん一口食べたら、ナベの残りのスープを全部飲んじゃって、美味しかったよって言ってくれたの。その後腹痛で三日間寝込んじゃって、それ以来メロディは食事を作らなくていいからねって言われてるの」

 セシルは察した。メロディはとてもお料理が苦手なのだろう。そして悪い事に、自分が料理が不得手だという事に気づいていないようだ。

 セシルは、それではなおの事メロディがお料理をできるようになった方がいいのではないかと考えて言った。

「それなら私も一緒に作るわ。クレアには私もすごくお世話になったもの。放課後の調理室でクレアに食事を作りましょう」
 
 メロディは嬉しそうに笑ってうなずいた。
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