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黒幕

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 クレアは、メロディの足元で転がっているクジネ子爵の側に駆け寄ると、クジネ子爵の胸ぐらを掴んで叫んだ。

「言いなさい!ナターシャさんを誘拐して、ボリビエさんを操ったのは誰の差し金なの?!」

 クレアの剣幕に、クジネ子爵はオタオタしながら答えた。

「俺は何も知らねぇよ!俺は貴族でも何でもねぇ、ただのゴロツキだ!そこにいたフードの男に雇われたんだ。貴族のふりをして男からある人物生存の証拠を受け取るようにってな。だが本当かウソか、国王の王子は死んだようだな」
  
 クジネ子爵をかたったゴロツキがニヤニヤと笑った。クレアは舌打ちした。またしても黒幕につながる証拠は得られなかった。クレアは望みは薄いと思いながらゴロツキに言った。

「あんたを雇った奴に、思い当たる人物はいるの?」
「そんなの決まってるじゃねぇか、そいつは、」

 ゴロツキがある人物の名を言おうとした途端、ゴロツキが首にしていたネックレスが勢いよく締まった。ゴロツキはぐぐぅとうなり声をあげた。このネックレスは口封じの魔法具だったのだ。クレアはウェントゥスに叫んだ。

「ウェン!風魔法でネックレスを破壊して!」
「ピィッ」
 
 ウェントゥスはゴロツキの首を傷つけないようにネックレスを破壊してくれた。だがゴロツキはぐったりしていた。首の骨を折って死んでいたのだ。

 メロディが震えながらウェントゥスに言った。

「ねぇ、ウェン。治癒魔法して?」

 ウェントゥスは困ったようにメロディを見上げた。いくらドラゴンのウェントゥスといえども、死んだ者を生き返らせる事はできないのだ。

 クレアは悔しさに下くちびるを噛んだ。ジョスト大公とは、己れの欲望を満たすために、どれほどの人間を殺せば気が済むのだろうか。

 クレアたちは屋敷の中を調べたが、人っ子一人いなかった。皆すでに逃げたのだろう。屋敷には哀れなゴロツキの遺体だけが残った。

 ゴロツキの遺体はこの屋敷の庭に埋めた。

 クレアたちはボリビエとナターシャを連れて城に戻る事にした。クレアはドラゴンのウェントゥスの背中の上で固く抱きしめ合う父娘を見て心配になった。

 おそらくジョスト大公はボリビエとナターシャを消すつもりでいたのだろう。これからボリビエとナターシャはタンドール国で暮らしていけるのだろうか。
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