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セシルの気持ち

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 ドスンと大きな音がして、ブノワトとバベットが地面に転がった。二人は火矢のケガの痛みと落下の痛みでうなっていた。セシルは彼女たちにゆっくり近づいた。

 それを見たブノワトとバベットは悲鳴をあげた。

「きゃあ!よるなバケモノ」
「先生!助けて!」

 担任教師はブルブル震えてブノワトたちを助ける事はしなかった。セシルは冷めた声で言った。

「バケモノですって?バケモノは貴女たちよ。私がどれだけ貴女たちに魔法で傷つけられて、泣いてやめてと言っても、貴女たちはやめなかった。風魔法で上空まで持ち上げられて、地上に落とされて、足を折って痛がる私を見て、貴女たち笑っていたわよね?」

 いつもと違うセシルに、ブノワトとバベットは顔を青ざめさせてブルブルと震えていた。セシルは感情的にならないようにフウッと息を吐いてから静かに言った。

「貴女たちは、自分よりも弱い私を痛めつけて、自分が偉い人間だと思いたいだけなのよ。貴女たちみたいな人間を、私は心のそこからけいべつするわ。二度と私の前に現れないで!」

 セシルは火傷で傷だらけのクラスメイトを見下すと、その場を立ち去った。

 セシルはアピと共に走った。大好きな友達に会いに行くために。セシルが森に到着すると、そこにはクレアとメロディ、ウェントゥスがいた。

 セシルは嬉しくなって駆け寄った。メロディは走ってセシルを抱きしめながら言った。

「セシルちゃん!見てたよ。いじめっ子たちに圧勝だったね?!」
「すごいわ、セシル。貴女は優秀な魔法使いよ?」
「ピィー!」

 クレアはセシルの背中に手をおいてほめてくれた。ウェントゥスも喜んでくれている。

 セシルは胸がいっぱいになって泣き出した。それまで下ばかり向いていたのに、メロディたちに出会って自分は変わった。アピと心を通わせて、魔法使いとして自信を持つ事ができたのだ。

 だが同時に、もうセシルはメロディたちの特訓を受ける必要はない。つまりメロディたちと別れる事になるのだ。そう思うと悲しくてさらに涙が出た。

 メロディは優しくセシルの頭を撫でながら言った。

「セシルちゃん。王妃さまの特訓の許可は、セシルちゃんが卒業するまで有効だから、これからも一緒に遊んだりご飯食べに行ったりしようね?」
「そうよ、セシル。貴女の魔法上達のために、これからも私たちの仕事を手伝ってもらうわよ?」

 メロディの言葉にクレアも続く。セシルは涙にぬれた顔をあげてメロディたちを見て言った。

「私はこれからも貴女たちと一緒にいられるの?」
「当たり前だよ!友達だもの!」
「ええ。何か困った事があったらすぐに言って?ウェンに乗って駆けつけるから」

 不安げなセシルに、メロディとクレアは微笑んで答えた。
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