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セシルの戦い

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 セシルはハッとした。自分は何をしているのだ。テオは小さいのに、母親とはぐれて心細いのに、さらに山賊の恐怖に怯えている。

 セシルは魔法使いだ。大いなる力を持つ者は、助けを求める者を救わなければならない。セシルはテオの頭を優しく撫でて言った。

「大丈夫よ?テオ。こんな奴お姉ちゃんが倒してあげる」

 セシルは山賊をにらむと、鳥かごの中のアピに言った。

「アピ、出ておいで」
「ピッ」

 セシルは静かにアピを自分の肩に乗せた。山賊はセシルに対してまったく警戒していないようだ。ニヤニヤしながらセシルの手を掴もうと、手を伸ばしてくる。セシルはアピに叫んだ。

「アピ!火攻撃魔法!」
「ピッ」

 セシルの肩から飛びあがったアピは、強力な火魔法で目の前の山賊を包んだ。ギャアッと山賊が叫び声をあげて地面に転げ回った。

 セシルは肩で息を吐いた。ついに火魔法で敵を倒したのだ。

「うふふ。セシル、ついに魔法を操れるようになったわね?」

 突然、背後で女性の美しい声が聞こえた。セシルが驚いて振り向くと、そこにはテオしかいなかった。テオは口を開いた。

「もう、この鳥かごは必要ないわね?」

 テオはアピを入れていた鳥かごを消してしまった。セシルは驚いてテオに聞いた。

「テオ、あなたは一体?」

 そこでテオは自分の姿を見下ろしてからクスリと笑った。するとテオの小さな姿がグニャリとゆがむと長身の美しい女性に変化した。セシルは驚いて叫んだ。

「モニカさん!」

 小さな少年のテオは魔法使いモニカだったのだ。セシルはわけがわからなくてぼう然と立ちつくしていた。モニカが微笑んで答えた。

「クレアたちに頼まれたの。セシルは他に守る者がいたら、きっとその人を守るために魔法を使ってくれるはずだって」

 セシルがなおもぼう然としていると、メロディがセシルに抱きついて叫んだ。

「やったね!セシルちゃん。火魔法をちゃんと使えるようになったね!」

 セシルが後ろを振り向くと、クレアとウェントゥスも側にいた。その後ろには、メロディの植物魔法でグルグル巻きにされている山賊たちがいた。

 この冒険者の依頼は、クレアたちがセシルが魔法を使えるように考えてくれたものなのだ。セシルは嬉しくなると共に不安でもあった。

 これまでアピが火を吐かなかったのは、鳥かごに入れていたからだ。だがもう鳥かごは必要ないとモニカはいうが、もしセシルの感情が不安定になってアピが暴走してしまったらどうしようと考えたのだ。

 それを聞いたモニカが笑って言った。

「あら、セシル。私が渡した鳥かごは、魔法の鳥かごなんかじゃないわ。ただの鳥かごよ?セシルはずっとアピをコントロールできていたのよ?」

 驚いているセシルの肩にアピがとまって、嬉しそうに頬にすりよっていた。

 

 

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