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キシルの村

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 クレアは依頼されたキシルの村の村長の話しを注意深く聞いていた。メロディはドラゴンのウェントゥスを抱っこしながらぼんやり側に立っていた。

 キシルの村の依頼は、突然村から若く美しい娘が何人も失踪してしまった。その娘たちを探し出してほしいという依頼だった。

 だが冒険者協会に出されたこの依頼は、とても依頼料の低いものだった。それを見た、冒険者協会の受付のサーラがぼやいたのだ。

 王都から遠い小さな村の依頼は、たいていの冒険者はやりたがらないのだと。それを聞いたクレアがすぐさま名乗りをあげた。ドラゴンのウェントゥスに乗せてもらえば遠い村へもひとっ飛びだからだ。

 クレアは冒険者として、困っている人たちを助けたいのだ。メロディも同意見だった。

 キシルの村の村長はがっくりと肩を落としてクレアにせつせつとうったえた。娘たちをどうか探し出してほしいと。クレアは厳しい顔でうなずいた。

 クレアは村長に村内を調べる許可をとり、メロディたちをうながして外に出た。村の案内は姉が行方不明になったデルクが買って出てくれた。デルクは姉がいなくなって不安なのに、気丈に振る舞っていた。

「この村は村人が五十八人しかいないんだ。だから皆知り合いさ。皆姉ちゃんたちの事を心配してる」

 メロディは村の人たちは仲がいいのだと思い嬉しくなり、いなくなった娘の事をとても心配していると思い悲しくなった。メロディがチラリとクレアを見ると、厳しい顔をしてあごに手をおいていた。クレアが何か考えている時のクセだ。
 
 デルクが先頭を歩いていると、声をかける者があった。五十代くらいの男だ。

「デルク、この方たちは?」
「あ、オゾックさん。こんにちわ。この人たちは王都から来た冒険者だよ。姉ちゃんたちを探してくれるんだ!」

 メロディはぺこりとおじぎをして言った。

「あたしはメロディです。こっちはウェンであっちはクレアちゃんです」

 オゾックはニコニコとうなずいてくれた。デルクが笑顔でオゾックの紹介をしてくれた。

「オゾックさんはとってもいい人なんだよ?姉ちゃんがいなくなってから、毎晩見回りをしてくれているんだ」

 デルクの言葉にクレアがピクリと身体を震わせて言った。

「オゾックさん。毎晩の見回りで、不審な人間を目撃しませんでしたか?」

 クレアの問いに、オゾックは顔をくもらせて答えた。

「いいえ、残念な事ですが。でも私はこれからも見回りを続けます。私にとっても村の娘さんたちは家族ですから!」

 クレアは黙って黙礼をした。それからデルクは娘が行方不明になった家に案内したり、娘たちの恋人の家に話しを聞きに行ったりしてくれた。

 デルクを家に返してから、メロディたちは村長の家に戻った。村長に茶をすすめられて、テーブルに着くとクレアは口を開いた。
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