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泥棒

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 その日メロディは一人で花屋の店番をしていた。クレアとドラゴンのウェントゥスは植木の依頼に出かけていた。タンドール王妃は花好きなので、城の周りの花をメロディの花にしたいといってくれたのだ。

 メロディは王妃の好む花の鉢植えを沢山作り、クレアとウェントゥスは沢山の鉢植えを乗せた荷車を持って飛んで行った。

 メロディはあくびをかみ殺しながら店先の小さなイスに腰かけていた。先ほどから客足はぱったりととだえ、日の光がポカポカして眠くなってしまう。メロディはふと目を閉じた。

 このままだと店先で居眠りをしてしまうだろう。またクレアに怒られてしまう。メロディは眠いまぶたに力を入れて、目をカッと開いた。目の前に男の子がいた。十歳くらいだろうか、手には店先に並んでいたかりんの木の鉢植えを持っている。

 お客さんが来ていたのだ。メロディは慌てて言った。

「お客さん、ごめんなさい。そちらをおもとめですか?」

 少年は顔をこわばらせてから、鉢植えを腕に持ち、一目さんに走り出した。メロディはそんな男の子の後ろ姿をポカンと口を開けて見ていた。遅れて鉢植えを盗まれた事に気づき、走って追いかけた。

 メロディは自慢ではないが極度の運動おんちだ。かけっこも遅い。男の子は身軽な身体でどんどん小さくなって行く。メロディは荒い息をしながら追いかけた。

 不思議な事に、メロディはいつまで経っても男の子を見失わなかった。男の子がメロディが自分を見失わないように、所々ゆっくり走っているという事に遅れて気づいた。

 メロディはとうとう足を止めて、肩で大きく呼吸をした。すると目の前に鉢植えを持った男の子が戻って来た。顔は不機嫌にしかめられていた。メロディはハァッハァッと激しい息をついてから、ようやく言葉を発した。

「君、かりんが好きなの?」

 男の子は驚いた顔をした。もっと別な事を言われると思ったのだろう。男の子が持ち去った鉢植えは、かりんの木だったからだ。男の子はメロディの問いには答えず、口をつぐんだ。メロディはやっと呼吸を整えてから、もう一度男の子に声をかけた。

「かりんの実はそのままじゃ食べられないよ?」
「・・・。知ってる」

 男の子が初めて返事をしてくれた。メロディは嬉しくなって言葉を続けた。

「かりんはシロップ漬けにする美味しいよね?!」

 男の子はコクリとうなずいた。メロディは優しい声で言った。

「お店の品物を勝手に持っていっちゃう事は悪い事だよね?」

 男の子は再びコクリとうなずいた。メロディは微笑んで言った。

「今度うちにお客さんとしておいでよ。クレアちゃんにかりんのシロップ漬け作ってもらうから。あっ、かりんを漬け込むのは一年くらい時間がかかるからなぁ。じゃあ、普通にお友だちとしてうちにおいで?」

 男の子は驚いた顔でメロディを見上げてから、おずおずと鉢植えを手渡すと、走ってどこかに行ってしまった。メロディはまた追いかけようとしたが、お店を開けっぱなしにしていた事を思い出し、いったん花屋に帰る事にした。

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