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子供たちの母親

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 クレアは大きくなったウェントゥスの背中に乗って空を飛んでいた。行き先はアーントとカロリンの母親が働いている富豪の屋敷だ。

 アーントとカロリンの母親はグラシアという町で評判の美人だ。彼女は長患いの夫を必死に看病していたが、夫はこの間帰らぬ人になった。グラシアは幼い二人の子供を抱えて、働かなければいけなかった。

 グラシアが勤め出したのは、ゴンゾという富豪の屋敷の女中だ。このゴンゾという男は評判の悪い男で、悪らつな事で金を稼ぎ貧民をしいたげていた。それに女ぐせも悪く、働いている女中に手を出す事もあるのだそうだ。

 クレアは子供たちの話しを聞いて、グラシアが困った事になっているのではないかと心配したのだ。クレアはゴンゾの屋敷の下まで来ると、ウェントゥスに着地してもらい、荷車をひいて屋敷の門の前にやってきた。

 門の前には門番が立っていた。クレアは花の行商のフリをして言った。

「わたくしは花屋でございます。ゴンゾさまにぜひわたくしどもの花をお目にかけたくぞんじます」
「花だと?ご主人さまはそんな物好まぬ。帰れ帰れ」
「門番さま、わたくしどもが扱っている花は魔法の花でございます。きっとゴンゾさまの奥方さまもお気に召すと存じます」

 クレアの言葉に門番は考えるそぶりをしてから、しばらく待てと言った。だいぶ待たされてから、クレアとウェントゥスはゴンゾの屋敷の中へ通された。クレアは荷車を引きながら、中庭に案内された。中庭には二人の人物が待っていた。一人はこの屋敷の主人ゴンゾだ、でっぷりと太って油ぎっている男だ。そのとなりには美しい女性が立っていた。つややかなブロンド、魅惑的なむらさき色の瞳、抜けるような白い肌、グラシアだ。

 グラシアはクレアを見てハッとした。花屋のクレアだと気づいたのだ。クレアはゴンゾとグラシアにうやうやしく頭を下げた。ゴンゾはふんぞりかえって言った。

「お前の花はまことに魔法の花なのか?」
「はい。わたくしどもの花を見れば奥方さまもきっと気に入っていただけるでしょう」

 クレアの言葉にグラシアはサッと顔を青くしたが、ゴンゾはまんざらでもなさそうだ。ゴンゾはクレアに魔法を見せろと言った。クレアはうなずいて荷車からシャベルを取り出すと、ゴンゾに断ってから庭のすみに穴を掘った。そして大輪の赤いバラの鉢植えを土に植えた。

 大輪のバラが淡く輝くと、ツタはみるみる伸び出し、一輪しか咲いていなかったバラが沢山花開いた。ゴンゾもグラシアも驚きの声をあげた。ゴンゾは喜んで言った。

「これは面白い、買ってやろう。グラシア好きな花を選ぶがよい」

 ゴンゾはそれきり花に興味を失ったようで、屋敷の中に入っていってしまった。きっとグラシアを喜ばせるためだろう。

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