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悲しい知らせ

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 数ヶ月経ったある日、バジーレの奥さんからクレアたち宛に手紙が届いた。クレアは郵便配達員から手紙を受け取り首をかしげた。

 どんな要件だろう。メロディはバジーレの家を辞す時、りんごの木の具合が悪くなったら連絡をくださいと言っていた。りんごの木の具合が悪くなったのだろうか。だがメロディはりんごの木の植えられた地面を、土魔法でいい土壌に変えたので、ちょっとやそっとでは具合が悪くなる事はないのだが。

 メロディはクレアの側で、早く手紙を読んでとせかす。クレアはいぶかりながら手紙を開き、目を通した。そして、ヒュッと息を飲み込んだ。メロディが大きな瞳でクレアを見つめる。

 クレアは泣き出しそうになるのをこらえながらメロディに言った。

「メロディ、落ち着いて聞いて?バジーレさんが、冒険者の任務中、亡くなったんだって」

 メロディから笑顔が消えた。彼女は小さな声で、ウソ。と呟いた。クレアだとて嘘だと思いたい。バジーレの奥さんからは、夫が任務中に亡くなったので、王都の冒険者協会に遺体の確認に来てほしいという手紙が届いたというのだ。奥さんは子供たちがいるので、すぐに王都に行けない。そこでバジーレの顔を知っているクレアたちに確認に行ってほしいという事だった。

 クレアとメロディ、小さなドラゴンのウェントゥスは冒険者協会に急いだ。道すがら、メロディはクレアに、きっと間違いだよね。バジーレさんじゃないよね。と言っていた。クレアはその質問に答える事ができなかった。クレアだとてバジーレが死んだとは、間違いであってほしい。

 だが冒険者は危険な職業だ。任務中に亡くなる可能性も高い。そのため冒険者は自身の身分が分かるように、自分の名前、冒険者番号を記した金属のタグを常に身につけているのだ。

 冒険者協会に安置されている遺体が、バジーレのナンバータグを持っているという事は。そこまで考えて、クレアは考える事をやめた。

 冒険者協会に到着すると、受付の人にバジーレの知り合いである事を告げた。受付の男性は、クレアたちを協会の建物の後ろの建物に案内した。そこは、簡易的な教会だった。亡くなった冒険者を、一時的に安置する場所なのだ。

 メロディは無言でクレアの手を握った。クレアもメロディの手を強く握り返す。ウェントゥスはクレアたちの後ろをパタパタと飛んでいた。
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