召喚魔法で幼児が現れました僕がなりたい職業は保父さんではなく冒険者なのですが

レオンの気持ち

　アルスはジラードと対じすると、風浮遊魔法を使ったのか、フワリと空中に浮かんだ。ジラードもそれに続く。

　おそらく森の被害を避けるためだろう。レオンはゴクリとツバを飲み込んだ。これからアルスと上位の魔物の戦いが始まるのだ。

　最初に動いたのはジラードだった。ジラードは手から、強力な攻撃魔法を作り出し、アルスに向かって放った。アルスは抜いた剣で、攻撃魔法を一刀両断し、無効化してしまった。

　ジラードはなおも攻撃魔法を繰り返していた。アルスはジラードの攻撃魔法を冷静に斬っている。

　どうやらジラードはとても強力な魔法が使えるようだ。レオンはイエーリ団の統領の事を思い出した。イエーリ団の統領は、フードをかぶった魔物から、魔物の力をもらったといっていた。

　もしかすると、イエーリ団の統領をそそのかしたのはジラードかもしれない。レオンは無意識に両手を組んで、祈るような気持ちで、戦いの行く末を見上げていた。

　ジラードは魔法ではアルスを傷つけられないと悟ったのか、自らも魔法で大剣を作り、アルスに斬りかかった。

　アルスがジラードの一刀を受けると、ドンッと衝撃が起きた。アルスとジラードの剣の応酬はすさまじく、人間のレオンの肉眼ではとらえられないほどだった。

　だがレオンにも一つだけわかる事があった。アルスはこれまでに戦った時よりも、手こずっている。ジラードがそれだけ強敵という事なのだろう。

　レオンは途端に目頭が熱くなった。もしかしたらアルスが死んでしまうかもしれない。

　アルスはレオンの契約神。レオンの命の半身だ。そのアルスが死んでしまう。考えただけでも身が引き裂かれそうなほどに辛かった。

　レオンは召喚の契約の時、初めてアルスと出会った事を思い出した。アルスは目をキラキラさせて、レオンを見上げていた。

　小さなアルスを抱き上げると、無意識なのか、アルスは小さな手でレオンの服をギュッとつかむのだ。その仕草がいじらしくて、レオンは生涯アルスを守ろうと誓ったのだ。

　レオンにとってアルスは、自分を守護してくれる頼もしい兄のような存在であると同時に、守らなければいけない愛おしい弟のような存在なのだ。

　レオンは大切な存在を、同時に二つも失ってしまうかもしれないのだ。レオンはこらえきれずに泣き出していた。

　レオンに何かできる事はないのだろうか。神と上位魔物の戦いに、人間のレオンがいては、邪魔以外の何ものでもない。

　レオンは何をしたいのだろうか。もしアルスが死んでしまうのならば、最後にアルスの側にいたかった。最後にアルスの目を見て、いかに自分はアルスの事が大好きなのか、感謝をしているのかを伝えたかった。

　そのためには防御ドームを破らなくてはいけない。レオンは手に持っていた拳銃を構えた。