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魔物の危機

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 レオンは目をつむり、ひたすら寝たふりを続けていた。しばらくして、バタンとドアが閉じる音がした。

 レオンがドキドキしながら目をつむっていると、ギィッと音がして、レオンたちのいる部屋のドアが開いた。

「ぼうやたち、起きてちょうだい?」

 老婆の優しくも、せかすような声が聞こえた。レオンはちょうど今目を覚ましたようなていで答えた。

「おばあさん。どうかしたんですか?」
「夜中に起こしてごめんなさいね?時間が無いの。今すぐこの家から出て、森に逃げて?」
「どうしてですか?」

 レオンは今にも泣き出しそうな老婆に質問した。老婆は無理矢理微笑みながら言った。

「ごめんなさいね。詳しく説明しているヒマがないの。この家から出る事が貴方たちのためなのよ?」
「このままでいたら、オレ様たち魔物のエサになってしまうからであろう?」

 突然のアルスの言葉に、老婆はヒッと声をあげた。レオンは驚いて声をあげた。

「僕たちが魔物の食事になるの?!」
「ええ、そうなの。この村は年寄りしかいないわ。魔物が皆若い村人たちを食べてしまったの。私の息子も、」

 老婆はそこでこらえきれずに涙を流した。老婆は両手で顔をおおってから、グッと息を飲み、厳しい顔で言った。

「あなたたちのような良い子を魔物に食べさせるもんですか。さぁ、早く、」

 老婆が話しを終える前に、ドンッと激しい爆音がした。レオンが驚いて目を閉じた次の瞬間、老婆が倒れていた。

「おばあさん!」

 レオンが慌てて老婆を抱き起こす。老婆は腹から血を流していた。レオンたちは魔法で攻撃されたのだ。

「おい、ばばぁ。勝手に俺のメシを逃すなよ。万死に値するぜ?」

 レオンは老婆を抱きしめながら、声を発した相手をキッとにらむと、そこには人間離れした者が立っていた。

 身体中ウロコだらけのトカゲのような様相。口は大きくさけて、びっしりと鋭い歯が生えていた。

「お待ち下さいバドウ様!生け贄を差し出せば女房は助けてくださるとおっしゃったではないですか」

 ガサが魔物に取りすがる。魔物はガサを邪魔くさそうに見て答えた。

「ああ、言ったさ。ばばぁの肉は硬くてまずいからな。だから生かしておいた。だが俺の飯を逃すならば話しは別だ。ばばぁは処刑する」

 魔物はガサをレオンたちの所にけり上げた。レオンはガサを受け止めた。

「おじいさん!大丈夫ですか?!」

 レオンがガサの顔を確認すると、老人は泣いていた。泣きながら妻の名を呼んでいた。老婆は床に身体を横たえながら浅い呼吸を繰り返していた。

 レオンは気づいた。ガサは魔物に脅かされて、魔物のエサである人間をおびき寄せていたのだ。レオンは怒り震えながら魔物を見上げた。魔物は嘆き悲しんでいるガサを面白そうに見ていた。

 老婆の状態を観察していたアルスがレオンに言った。

「レオン。ばあさんはオレ様が治癒魔法をする。オレ様が治療する時間をかせげ」
「わかった!」

 レオンはスクッと立ち上がり、魔物に対して叫んだ。

「お前、僕をエサだと言ったな!僕を捕まえて食ってみろよ!」

 魔物は裂けた口でニヤリと笑った。
 

 
 


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