召喚魔法で幼児が現れました僕がなりたい職業は保父さんではなく冒険者なのですが

ゴメスの本心

　どのくらい時間が経ったのだろうか。ゴメスの命を助けるべく、ドンとアルスが治癒魔法を発動し続けている。

　アルスはゴメスの傷口に視線を向けながら、ゴメスに話しかけた。

「のう、ゴメス。お前の剣技、見事であった」
「・・・。そうかよ、」

　ゴメスは出血量が多いせいか、弱々しい声で返した。アルスは気にせず言葉を続ける。

「じゃがのう、ゴメス。お前の剣技はヤケクソに見える。そしてお前、死にたがっているであろう？」

　アルスの指摘にレオンはギクリとした。ゴメスが死にたがっているだなんて。レオンは、チラリとゴメスの顔を見た。ゴメスの顔には痛みの苦痛の他に、あきらめのような表情が混じっていた。ゴメスはゆっくりため息をはいてから答えた。

「俺は、大きな罪をおかした。だから罪をつぐなわなければいけない」

　アルスは治癒魔法を続けたまま言った。

「自ら死を選ぶ事が贖罪か？それでバンスが喜ぶとでも思っているのか？」

　レオンはゴメスとアルスの会話を注意深く聞いていたが、突然バンスの名前が出て驚いた。ゴメスは小さな呼吸を一つしてから答えた。

「ジジィは怒るだろうな。だけど、俺は自分が許せないんだ。バカなガキだった俺は、バンスのジジィの忠告を無視して先走った。バンスは俺をかばって足に深傷を負った。バンスは冒険者でいられなくなった。冒険者のバンスを殺したのは俺だ。俺は、いつも考えてしまうんだ。依頼の最中、死んでしまった命を見て。もしこの場にいたのが、俺ではなくバンスだったら、って。もしバンスがいれば、この命は助かったかもしれない。俺がいたせいでコイツは死んだのかと」
「ゴメスがどう考えようとゴメスの勝手じゃ。だがこれだけは言っておくぞ？バンスはジジィじゃ。ケガをしなくてもいずれ冒険者は辞めておっただろう。人間とは、とても短い命じゃ。あっという間に死んでしまう。じゃがな、人間は意志をつなげる事ができるのじゃ。バンスの冒険者としての意志は、ゴメスにつながれた。そして若いレオンが、ゴメスの背中を見て、必死に冒険者の意志を学ぼうとしている。レオンが立派な冒険者になって、また若い冒険者を育てたのならば、バンスの意志をつなげているのではないか？」

　アルスは可愛らしい声で、ゆっくりと言葉を続けた。ゴメスの顔は次第にゆがみ、ついには涙を流しおえつした。アルスは幼い顔に不釣り合いな大人びた表情を浮かべて言った。

「ほれ、オレ様とドンのおかげで傷はふさがったぞ？感謝するがよい」

　レオンはフウッと大きく息を吐いた。ゴメスは命の危機を脱したのだ。