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アルスの変化

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「起きろ、レオン。朝飯に遅れるぞ?」

 レオンは自身をゆり起こす誰かの手で目を覚ました。誰だろう、子供である事は確かだ。だがアルスのようにしたったらずではない。もっとしっかりと言葉を話している。この部屋に、自分とアルス以外に誰かいる。レオンが慌てて飛び起きると、目の前に男の子がいた。五歳くらいだろうか。レオンは震える声で聞いた。

「君、誰?」
「何じゃレオン。オレ様の顔も見忘れたか?」
「君、アルなの?!」
「そうじゃ。レオンの魔力が向上したから、オレ様の成長が進んだのじゃ。見ろ、わずかじゃが、人間の姿でも魔法が使えるようになったぞ?」

 五歳児に見えるアルスは、手のひらをレオンに差し出した。手のひらからは炎の魔法が出現した。

 レオンの成長と共に、アルスも成長したのだ。レオンは嬉しくなってアルスをギュッと抱きしめた。

 いつもアルスを預かってくれている食堂のおばちゃんたちに、おばちゃんたちの料理が美味しいから大きくなったといったら、おばちゃんたちは嬉しそうにしていたが、ガブリエルは納得しなかった。

「ありえない、育ちすぎだろ」

 朝食を一緒に食べたガブリエルは、アルスの急成長に疑いの目を向けた。レオンは、口周りに食べかすをいっぱいつけているアルスの口をぬぐいながら答えた。

「子供の成長って早いよね」
「そうじゃ。オレ様は育ち盛りなのじゃ」

 ガブリエルは疑わしそうな目でアルスを見ていたが、それ以上は何も言わなかった。

 レオンとガブリエルは午後の訓練を終え、休けいをしていた。昨夜ガブリエルに乱暴しようとしていた研修生たちは、レオンを見ると、恐ろしいバケモノを見た者のように顔をこわばらせた。

 バケモノ扱いされる事は心外だが、これでガブリエルに危害を加えないのなら、それでいいと思った。

 レオンがガブリエルと話していると、レオンたちに声をかける者がいた。振り返るとアルスが棒きれを持って立っていた。

 朝食堂のおばちゃんたちに預けて来たアルスが研修場所に来てしまったのだ。レオンが危ないととがめると、アルスはどこ吹く風で、胸を張って答えた。

「オレ様は大きくなったから一人で出歩いても平気なのじゃ。手足が伸びて、動きやすくなったからの。お前たちに剣の指導をしてやろうと思ってやって来たのだ」

 レオンはアルスの事を戦の神だと知っているが、ただの子供と思っているガブリエルはにわかに怒って言った。

「アルのような子供に剣を向けられるわけないだろう!」
「ほう?ではガブ。その模擬刀でオレ様に勝てるのか?」
「当たり前だろう。俺はやらないからな!」
「ふふん。そんな事言って、オレ様に負けるのが怖いのだな?」
「何だと?!」

 ガブリエルは顔を真っ赤にして、木に立てかけてあった模擬刀を手に取った。どうやらガブリエルは相当短気なようだ。

 アルスは棒きれをくるくる回しながら、首をかしげている。ガブリエルは、アルスに模擬刀を振りかぶった。すると驚いた事に、ガブリエルの一太刀は、アルスの持った棒きれになぎ払われてしまった。

 ガブリエルはぼう然としながら、小さなアルスを見下ろしていた。アルスは可愛く首をかしげながら、もう終いかと言った。

 ガブリエルは咆哮しながら、アルスの首目がけて剣を打ち込んだ。ガブリエルの渾身の剣は、またもやアルスの棒きれに止められてしまった。

 ガブリエルは渾身の力をこめて、アルスの持つ棒きれを弾き飛ばそうとするが、アルスは棒きれを持ったまま微動だにしない。

 しばらく一方的な打ち合いが続き、ガブリエルはその場にしゃがみこんでアルスに言った。

「アル。俺の完敗だ。どうか俺に剣を教えてくれまいか?」
「よいぞ?ガブはレオンの魔力を向上させてくれた恩人じゃからの」

 レオンとガブリエルは、時間の許す限り、アルスに剣を習う事にした。


 
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