109 / 118
グリフの娘
しおりを挟む
グリフたちが舞踏会会場に行くと、アスランが貴族の娘につかまった。グリフはニヤリと笑った、予想通りの展開だったからだ。現在貴族の間でまことしやかに語られているウワサがある。それは、トランド国王の後継者は勇者から選ばれるというものだ。トランド国王自身も元勇者だった。そしてトランド国王の子女は王女が二人。しかもその二人は貴族に嫁がせている。孫に男子がいないわけではないが、トランド国王は高齢であるが霊獣と契約しているため若々しくこれからも国王として国を治めていくだろう。だが今回勇者ヴイヴィアンを除いて五人の者に勇者の称号が授与された。貴族の娘たちは色めき立った、勇者になったアスランは容姿端麗、質実剛健。もし勇者アスランを射止める事ができれば将来は王妃になれるかもしれないのだ。
だがまずそんな事は起きないだろう。何故ならアスランは、見た目に反して中身はポンコツだからだ。しかし貴族の娘たちはそんな事はちっともわからない。ただうっとりとアスランを見つめていた。アスランが貴族の小娘どもとダンスを踊っていては、メリッサと踊る時間などないだろう。これでグリフは可愛いメリッサを一人占めできるのだ。
だがそこでグリフにとても腹立たしい出来事が起きた。アスランをダンスに誘ったジョセフィーヌという貴族の小娘が、メリッサを頭の先から足の先まで見て、あざけりの笑みを浮かべたのだ。メリッサはジョセフィーヌの視線を理解して、顔をこわばらせた。グリフは胸にどす黒い感情が湧き上がった。見た目だけ着飾った貴族の小娘が、メリッサを笑ったのだ。メリッサの事を何も知らないくせに。メリッサは見た目の美しさだけではない、気高く美しい心を持った強い娘だ。そしてグリフの可愛い可愛い娘でもあるのだ。
グリフはジョセフィーヌを頭のてっぺんから足の先までぶしつけな視線を送り、そしてニヤニヤとふべつの笑みを浮かべた。そしてメリッサの肩を抱いて、わざとメリッサの耳元でしゃべった。
「あんなクソガキよりメリッサの方が百倍綺麗だ。堂々としていろ」
メリッサは他人をおとしめて喜ぶような娘ではない。案の定くすぐったがって、メリッサはクスクス笑った。グリフがジョセフィーヌの顔を見ると、みにくくゆがんでいた。グリフとメリッサに笑われたとわかったのだろう。グリフのりゅういんは少し下がった。
アスランの元には、砂糖に群がるアリの群れのように貴族の娘たちが集まりだした。アスランはまるで売られる子牛のように不安そうな目でメリッサを見てから、ジョセフィーヌに引っ張られていった。
これで邪魔者が消えた。グリフはメリッサの手を取って歩き出そうとした。すると、グリフに声をかける者がいた。
「グリフィスさま。わたくしとダンスを踊っていただけませんこと?」
そこには美しく着飾った貴族の女がいた。だがアスランに群がった小娘よりだいぶ年かさがある。その女を皮切りに、グリフの側に女どもが群がりだした。きっと行き遅れか出戻りの貴族の女どもだろう、グリフはげんなりした。とうの立ったグリフですらも狙われているのか。まるでハイエナだ、グリフはうんざりしながらも表面上には笑みを浮かべ穏やかな声色で答えた。
「申し訳ありませんご婦人たち、娘のエスコートをしなければいけませんので。メリッサ、ごあいさつを」
かたわらのメリッサは、スカートのすそを持ち上げて可愛らしくおじぎをした。
「メリッサと申します」
群がったハイエナ女どもが息を飲むのがわかった。皆メリッサの若さと美貌にせんぼうの眼差しでみいっているのだ。グリフは上機嫌でメリッサの手を取り会場の真ん中まで歩いていった。
メリッサが不安そうにグリフを見上げて言う。
「グリフ、私ダンスなんてできないわ」
グリフは優しく微笑んでメリッサの右手を取ると、左手でメリッサの腰に手をそえた。そしてメリッサにグリフの腕に左手をそえるよううながした。グリフは曲をかなでる楽団のしらべに合わせてステップを踏み始めた。メリッサに後に続くように指示する。メリッサは最初はおっかなびっくり踊っていたが、次第に動きがなめらかになってきた。グリフがメリッサに言う。
「上手いじゃないかメリッサ!とても初めてとは思えないぞ?」
「グリフの教え方が上手なのよ。ダンスって楽しいのね!」
メリッサは頬を染めて微笑んだ。グリフはその表情の美しさに思わず息を飲んだ。メリッサは若く、そして美しい。そこでグリフはふと、娘のアーニャがもし生きていたら、このようにグリフとダンスを踊ってくれただろうかと考えた。成長せず五歳で亡くなった愛しい娘。成長したアーニャを想像しようとするがうまくいかなかった。グリフは苦笑しながらメリッサを抱いてコマのようにクルクルと回った。メリッサは嬉しそうにキャアキャアと笑い声をあげた。
これでいい、グリフは思った。娘のアーニャとの思い出は心の中の小箱に大切にしまっておこう。これからは、もう一人の大切な娘メリッサの成長を楽しみに生きていこうと。
だがまずそんな事は起きないだろう。何故ならアスランは、見た目に反して中身はポンコツだからだ。しかし貴族の娘たちはそんな事はちっともわからない。ただうっとりとアスランを見つめていた。アスランが貴族の小娘どもとダンスを踊っていては、メリッサと踊る時間などないだろう。これでグリフは可愛いメリッサを一人占めできるのだ。
だがそこでグリフにとても腹立たしい出来事が起きた。アスランをダンスに誘ったジョセフィーヌという貴族の小娘が、メリッサを頭の先から足の先まで見て、あざけりの笑みを浮かべたのだ。メリッサはジョセフィーヌの視線を理解して、顔をこわばらせた。グリフは胸にどす黒い感情が湧き上がった。見た目だけ着飾った貴族の小娘が、メリッサを笑ったのだ。メリッサの事を何も知らないくせに。メリッサは見た目の美しさだけではない、気高く美しい心を持った強い娘だ。そしてグリフの可愛い可愛い娘でもあるのだ。
グリフはジョセフィーヌを頭のてっぺんから足の先までぶしつけな視線を送り、そしてニヤニヤとふべつの笑みを浮かべた。そしてメリッサの肩を抱いて、わざとメリッサの耳元でしゃべった。
「あんなクソガキよりメリッサの方が百倍綺麗だ。堂々としていろ」
メリッサは他人をおとしめて喜ぶような娘ではない。案の定くすぐったがって、メリッサはクスクス笑った。グリフがジョセフィーヌの顔を見ると、みにくくゆがんでいた。グリフとメリッサに笑われたとわかったのだろう。グリフのりゅういんは少し下がった。
アスランの元には、砂糖に群がるアリの群れのように貴族の娘たちが集まりだした。アスランはまるで売られる子牛のように不安そうな目でメリッサを見てから、ジョセフィーヌに引っ張られていった。
これで邪魔者が消えた。グリフはメリッサの手を取って歩き出そうとした。すると、グリフに声をかける者がいた。
「グリフィスさま。わたくしとダンスを踊っていただけませんこと?」
そこには美しく着飾った貴族の女がいた。だがアスランに群がった小娘よりだいぶ年かさがある。その女を皮切りに、グリフの側に女どもが群がりだした。きっと行き遅れか出戻りの貴族の女どもだろう、グリフはげんなりした。とうの立ったグリフですらも狙われているのか。まるでハイエナだ、グリフはうんざりしながらも表面上には笑みを浮かべ穏やかな声色で答えた。
「申し訳ありませんご婦人たち、娘のエスコートをしなければいけませんので。メリッサ、ごあいさつを」
かたわらのメリッサは、スカートのすそを持ち上げて可愛らしくおじぎをした。
「メリッサと申します」
群がったハイエナ女どもが息を飲むのがわかった。皆メリッサの若さと美貌にせんぼうの眼差しでみいっているのだ。グリフは上機嫌でメリッサの手を取り会場の真ん中まで歩いていった。
メリッサが不安そうにグリフを見上げて言う。
「グリフ、私ダンスなんてできないわ」
グリフは優しく微笑んでメリッサの右手を取ると、左手でメリッサの腰に手をそえた。そしてメリッサにグリフの腕に左手をそえるよううながした。グリフは曲をかなでる楽団のしらべに合わせてステップを踏み始めた。メリッサに後に続くように指示する。メリッサは最初はおっかなびっくり踊っていたが、次第に動きがなめらかになってきた。グリフがメリッサに言う。
「上手いじゃないかメリッサ!とても初めてとは思えないぞ?」
「グリフの教え方が上手なのよ。ダンスって楽しいのね!」
メリッサは頬を染めて微笑んだ。グリフはその表情の美しさに思わず息を飲んだ。メリッサは若く、そして美しい。そこでグリフはふと、娘のアーニャがもし生きていたら、このようにグリフとダンスを踊ってくれただろうかと考えた。成長せず五歳で亡くなった愛しい娘。成長したアーニャを想像しようとするがうまくいかなかった。グリフは苦笑しながらメリッサを抱いてコマのようにクルクルと回った。メリッサは嬉しそうにキャアキャアと笑い声をあげた。
これでいい、グリフは思った。娘のアーニャとの思い出は心の中の小箱に大切にしまっておこう。これからは、もう一人の大切な娘メリッサの成長を楽しみに生きていこうと。
0
お気に入りに追加
1,161
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。
水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました!
死んだら私も異世界転生できるかな。
転生してもやっぱり腐女子でいたい。
それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい……
天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生!
最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。
父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!?
※BL要素ありますが、全年齢対象です。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる