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グリフとメリッサとあかり

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 グリフはラナと別れてから様子がおかしくなった。変に陽気だったり、急にぼんやりしたりしていた。火を焚いて、野宿の準備をしている時だった。急にグリフが立ち上がって言った。

「俺ちょっと出てくる」

 何処かに行こうとするグリフにアスランが怒鳴る。

「何処に行くんだ?火の見張りがあるんだからすぐ戻って来いよ!」

 グリフはアスランをにらんで答えた。

「レディには色々あるんですぅ、ほっといてくださぁい」

 グリフは、あかりが以前言ったようなセリフを言った。するとアスランが顔を青ざめさせて言った。

「レディって、グリフお前女だったのか?」
「・・・、アスラン、テメェは見た目で性別の判断がつかないのか?テメェと話してると頭痛くなる。じゃあな」

 そう言うとグリフは森の中に消えて行った。あかりは悪い予感がした。あかりもアスランに言った。

「アスラン、皆。私もちょっと出てくる」
「メリッサ、何処に行くんだい?一人じゃ危ない」

 心配顔のアスランに、あかりは怖い顔で言った。

「レディには色々あるの!ついて来ないで!」
「えっ!メリッサも男の子だったの?!」
「何言ってるのアスラン。とにかく私は一人で行くの!」

 訳のわからない事を言うアスランは無視して、心配そうなティグリスとグラキエースに大丈夫と言ってあかりは小走りにその場を離れた。あかりは確信に近い予感がした、今グリフを一人にしてはいけないと。

 あかりは真っ暗な森の中を走った。グリフはあかりと歩く時、あかりの歩く速度に合わせてゆっくりと歩いてくれる。だがグリフが一人で歩く時はとても速いのだ。あかりはハァハァと息を弾ませて走り続けると、森を抜けて平野に出た。

 夜空には大きな満月が輝いていた。平野を見ると座って満月を見上げているグリフがいた。あかりはホッとしてグリフに声をかけた。グリフはゆっくりと振り向くとあかりを手招いた。あかりはグリフのとなりに腰を下ろした。あかりはグリフにたずねた。

「ねぇグリフ、アーニャとラナは似てるの?」

 穏やかな笑顔だったグリフが渋い顔になって言った。

「ご主人さまだな?メリッサに余計な事言いやがって」
「ううん、私がノックスに教えてって頼んだの。ノックスは悪くないわ」

 グリフはため息をついて、満月に視線を戻しながら呟くように答えた。

「いや、アーニャとラナは似てない。でもな、ラナを抱き上げた時、ラナは無意識に俺の服を掴んだんだ。そういやアーニャもそうだったなと思い出したんだ。俺はアーニャの事を絶対に忘れないと心に誓っていた。アーニャの声、しぐさ、笑顔。だけどいつの間にか忘れていく、すくった砂が手からこぼれ落ちるように。俺はアーニャの事を忘れなければアーニャは死なないと思っていた。だけど俺の中でアーニャはどんどん消えていく」

 グリフは満月から、視線を自分の両手のひらに移した。グリフはジッと手のひらを見つめて言った。

「だからエッタを手放せたのかもしれない」
「エッタ?」

 あかりの質問にグリフが寂しい笑顔で答える。

「ラナにあげた人形だよ。アーニャは引っ込み思案な性格で友達もいなかった。俺があげた人形にエッタという名前を付けて可愛がっていたんだ。アーニャが死んだ時、棺にアーニャのお気に入りの人形やオモチャをつめたんだけど、エッタだけは一緒に入れてやれなかった。俺はアーニャの思い出と別れる勇気がなかったんだ」

 うなだれるグリフをあかりは痛ましい気持ちで見つめていた。グリフが言葉を続ける。あかりに話すと言うより独り言のようだった。

「アーニャはまだ五歳だったのに。これから幸せになるはずだったのに。実の父親はたまにしか帰らない、母親は若い男に入れあげてアーニャは相手にしてもらえない。寂しかったろうなぁ、何でアーニャだったんだろう。俺が代わりに死ねばよかったのに。何で優しいいい子のアーニャが死んで、人間のクズの俺が生きてるんだろう」

 あかりはたまらなくなってグリフの手をギュッと握った。最愛の娘を失ったグリフの気持ちは、あかりにしかわからない。あかりはグリフの心を救いたかった。もしかするとグリフにおかしなヤツだと思われるかもしれない。あかりは震える声でグリフに言った。

「ねぇ、グリフ。私が前世の記憶があるって言ったら信じてくれる?」

 グリフは一瞬驚いたようにあかりを見てから、柔らかい笑顔で答えた。

「メリッサは嘘つくような子じゃない。信じるよ」

 あかりはホッと息を吐いてから、ありがとうと言って言葉を続けた。

「私は前世で二十歳で死んだわ。事故だったの。だけど転生の女神って人が、私は良い人間だったからって別な世界に転生させてくれたの、それが今の私。だからねグリフ、アーニャはとてもいい子だったから何処かの世界に転生して、幸せに暮らしているかもしれない。だからね
・・・」

 あかりは話しているうちに鼻の奥がツンとして、涙があふれそうになった。娘のアーニャを失って打ちひしがれているグリフの姿が前世の父親と重なったのだ。

 前世のあかりは幼い頃から父親も母親も姉も大好きだった。だが姉のひかりがお母さん子だったので、あかりはお父さん子だった。だが日中父親は会社に行っていて、家にはいない。父親が仕事から帰って来ると、あかりはいつも父親の膝の上に我が物顔で座り込んだ。母親が、お父さんがお夕飯食べづらいでしょう、おりなさいと注意しても動かなかった。父親は困りながらも嬉しそうな顔であかりの頭をなでてくれたのだ。

 あかりは必死に涙をこらえながらグリフにうったえた。

「だからねグリフ。死にたいなんて言わないで、アーニャも、きっと悲しむわ」

 あかりだって前世の父親があかりが死んだ事で、ふさぎ込んでいたら悲しい。だけどあかりの事をずっと忘れないでほしいとも思ってしまう。あかりはグリフの手を両手でギュウギュウ握りしめながら、耐えきれずに涙をポロポロ流した。グリフが優しい声であかりに言った。

「メリッサ、前世の名前は何でいうんだ?」
「あかり」

 あかりは鼻をグズグズさせながら答えた。グリフはあかりの手に自分の手を重ねて言った。

「あかり、お父さんはあかりと二度と会う事ができなくても、永遠に愛してる」

 あかりは驚いてグリフを見た。グリフは泣き笑いの表情であかりを見つめていた。あかりは耐えきれなくなって、グリフの広い胸にしがみついて泣き出した。

「お父さん、私も、私もよ!ずっとずっと大好きよ。お父さん、お父さん会いたいよぉ」

 大声で小さな子供のように泣きじゃくるあかりをグリフはしっかり抱きしめて、ずっと頭をなでてくれた。

 どれほど時間が経ったのだろうか。あかりとグリフの時間を破ったのは、アスランの大声だった。

「おい、グリフ!何メリッサを泣かせてんだよ!メリッサから離れろ!!」
「バーカ!俺はメリッサをなぐさめてるの!どっか行けデバガメ野郎!」

 グリフとアスランが口ゲンカを始めても、あかりの涙は止まらなかった。

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