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ゼノの願い

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 ヒョウの霊獣セレーナはため息をついた。彼女が見た辺り一面メチャクチャになっていたからだ。セレーナは自身の水魔法を使った。沢山の大きな水の玉を出現させ、その水の玉が花火のように飛び散る。すると、水の粒が当たった所は元の姿に戻っていった。ノーマの土魔法でできた大きなツタの要塞はみるみる縮んでいき、ルプスが放った雷の魔法で傷ついた木々や地面は元に戻っていった。あかりはセレーナの魔法に感嘆した。

「すごい!セレーナ!」
『私の水魔法は、他の魔法を押さえ込んで、元に戻す事ができるのよ。とても時間がかかるけどね』
「セレーナありがとう!」

 あかりは傷ついた森が元どおりになったのを見て、嬉しくなってセレーナの首抱きついた。セレーナはのどをゴロゴロさせた。

 狼の霊獣ルプスは大きく遠吠えをした。ウォーンと辺り一面に響き渡る。すると今まで上空と地上で繰り広げられていた戦いが止まった。リーダーのルプスの合図で仲間の霊獣が戦うのをやめたのだ。ルプスの周りに、雄鹿の霊獣、クマの霊獣、牡牛の霊獣が集う。

 アポロンに乗ったアスランも、小さくなったグラキエースも、ティグリスもあかりの周りに集まって来た。あかりはティグリスとグラキエースを抱きしめると、二人にケガはないかと聞いた。二人は自慢げに、無傷だと言った。あかりは二人にほおずりをした。アスランとアポロンを見ると、彼らも無事のようだ。あかりは心の底から安堵した。

 狼の霊獣ルプスはゼノとノーマに言った。

『人間のゼノ、精霊のノーマ。そなたたちの言葉を信じず済まなかった。これからは私たち霊獣に助力を願いたい』

 ノーマはうなずき。ゼノは笑顔で答えた。

「こちらこそよろしく頼む。お主ら霊獣に迷惑をかけているのはわしら人間じゃからの。誠に恥ずかしいかぎりじゃ。ルプス、ノーマとリンクをしてくれんか?わしらからの情報をお主に伝えたい。そしてお主らに、何か困った事があればわしらに知らせて欲しい」
『ありがたいかぎりだ』

 霊獣のルプスと精霊のノーマが同時に目をつむる。すると二人から金色の糸のようなものが伸びて、くっついた。するとその糸は消えてしまった。あかりはびっくりして、グラキエースに聞いた。グラキエースが答える。

『リンクとはな、霊獣や精霊や、わしらドラゴンが心をつなげる方法じゃ。簡単に言うとな。ノーマがルプスに何か話したい時にルプスに念じればノーマの意思が伝わるのじゃ』

 あかりは自分がいた前世の世界の事を思い出す。前の世界にはスマートフォンというものがあり、簡単に相手と連絡が取れたものだ。あかりが納得していると、ルプスはあかりの側にやって来た。ルプスがあかりに言う。

『人間の娘、私たちのために心をつくしてくれて感謝する。怖がらせて済まなかった。娘、そなたの名前は何という』
「メリッサです」
『メリッサ。メリッサのおかげで人間を信じる事ができた。メリッサはゼノと同じ信頼に値する人間だ。メリッサ、私と契約してくれまいか』
「ルプス、貴方は人間が嫌いでしょ?私と契約していいの?」
『人間はいまだに許す事はできない。だがゼノとメリッサは好きだ。どうか承諾してくれまいか』
「ええ、私でよければ。ねぇルプス、私とお友達になってくれる?」
『友か、よい言葉だ。真の名において契約する。我が友メリッサ、私はお前を守る』

 あかりとルプスの周りを光が包んだ。契約が完了したのだ。ルプスはあかりに言う。

『私は雷の魔法を使う。メリッサ、何か困った事があれば私を呼べ。仲間と駆けつけるからな』
「ありがとう、ルプス」

 あかりは嬉しくなってルプスに抱きついた。ルプスは恥ずかしそうだったが、あかりのするままにしていた。


 セレーナはあかりの安全を確認たので帰る事にした。あかりはセレーナに礼を言った。

「セレーナ、来てくれてありがとう」
『メリッサ会えて嬉しかったわ。何か困った事があったらいつでも私を呼ぶのよ?』
「ありがとう、セレーナ。養い子は大丈夫だった?」
『ええ、仲間が無事に守ってくれていたわ。うちの子にメリッサの話しをしたら、メリッサに会いたいって言っていたわ』
「本当?!私も会いたいわ」
『なら約束よ』
「ええ、約束」

 セレーナは言葉を言い終えると、その場から消えた。あかりは小さな声で、もう一度ありがとうと言った。セレーナにこっぴどく怒られたゼノとノーマとルプスは、セレーナが帰るまですみっこで小さくなっていた。



 ゼノたちはルプスたち霊獣に別れを告げると、巨大化したドラゴンのグラキエースに乗り、家へ帰る事にした。心配して待っていた孫娘のエイミーと、テイマーのバートが出迎えてくれた。夜はささやかな宴がもたれた。アスランとメリッサは、これからもゼノの仕事を手伝う気満々だった。ゼノはそんな二人に切り出した。

「アスラン、メリッサこの度は本当に世話になったのぉ。お主たちはわしたちの活動を手伝ってくれると言ってくれたがの。アスラン、お主は勇者の称号を取ってくるのじゃ。メリッサ、お主はきちんとテイマーの学校を卒業して、ご両親の許可を取ってから、わしの仕事を手伝ってくれ」

 ゼノの言葉にアスランとメリッサは黙りこんでしまった。アスランはグッと息をつめてから答えた。

「ゼノ殿のお気持ちは痛み入ります。メリッサはテイマーの学校に通わせるのは賛成です。ですが、私はゼノ殿の手伝いをさせていただきたい」
「アスラン、お主逃げているのではないか?」

 ゼノの言葉にアスランは黙ってしまった。痛い所をつかれたのだろう。ゼノは厳しい顔をゆるめ、穏やかな顔で言った。

「アスラン。わしはお主のような若者が、わしの志しに賛同してくれるのはとても嬉しい。だが、わしはお主に堂々と人生を送ってほしいのだ。お主にはそのつもりはないだろうが、諦めや妥協でやってほしくはないのだ」

 アスランは黙り込んでしまった。それまで黙っていたメリッサが口を開く。

「私もアスランには勇者の称号を手に入れてほしい。今日だって立派に霊獣たちと戦っていたじゃない!」
「それは、アポロンとグラキエースがいてくれたからだよ」

 アスランの弱気な答えにメリッサはイライラしてきたらしい。メリッサは語気を強めて言った。

「言い訳しない!アスランは本当は強いの!ゼノおじいちゃんだって言ってたでしょ?!私とゼノおじいちゃんがこんなにアスランの事信じているのに、何でアスランは自分の事信じられないの?!」

 メリッサの剣幕にアスランはタジタジだ。それを見たゼノは我慢できずに笑い出してしまった。

「ワッハッハ。アスラン、すっかりメリッサの尻の下にひかれておるのぉ。二人とも、待っておるぞ」

 ゼノの大笑いに、アスランとメリッサは顔を見合わせてから、はい!と返事を返した。
 



 
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