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エラルドとドム
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エラルドは盗賊たちに常に目を配っていた。盗賊たちは縛られたまま無言でうなだれていた。
エラルドはアンチ魔法の二人の盗賊を見た。二人の盗賊たちは気を失っているが一番目を離せない者たちだ。
ロレーナはアクアとチャーミーとマックスと一緒に、水や果物を少女たちに勧めていた。我が妹ながらよく気がつく。
ロレーナと一緒に、同い年くらいの少年が果物を配る手伝いをしていた。
少年は盗賊団のアジトには相応しくない。エラルドは不思議に思ってロレーナに声をかけた。
「ロレーナ、この少年は誰だ?」
「あ、お兄ちゃん。この子はノアだよ」
「ノア?」
どこかで聞いた名前だ。エラルドが首をかしげていると、ノアという少年がエラルドの前に駆け寄ってきた。
「ロレーナの兄ちゃん!盗賊のお頭倒したんだろ?!」
「ああ」
「すっげぇ!かっけぇ」
ノアは子供らしくキャッキャッとはしゃいでいる。ロレーナは自分の事のように得意げにしていた。
屋敷から太った男が、切った果物のトレーを運んできた。それに気づいたノアは、素早く太った男からトレーを受け取り娘たちに配り出した。
太った男はエラルドに軽くえしゃくしてから口を開いた。
「ダンナがザイラム盗賊団の奴らを倒してくれたんですね?」
「いや、俺だけではない。妹のロレーナとパティがいてくれたから制圧できたのだ」
「ええ。パティとロレーナは幼いながらも立派な冒険者です」
妹と弟子を褒められて気分が良くなったエラルドは太った男に自己紹介をした。男は人の良い笑顔で答えた。
「私はドムといいます」
「ドム?貴方がハイバネの料理人か!」
「ええ。ダンナはハイバネをご存知で?」
「ああ、フロンの町に滞在した時に世話になった。では、ノアというのは、」
「ええ。ハイバネの店主の息子です」
「そうか、生きていたのか。良かった、宿屋の主人がとても心を痛めていた。もう死んでいるかもしれないと」
エラルドの言葉に、ドムは困った顔をしてから口を開いた。
「ダンナ、私は生きてここから出られるとは思っていませんでした。こうやってフロンの町に帰れるようになって、ある懺悔をしたいんです。これはハイバネの親父さんには絶対に話せない事なんです。ダンナ、一つ私の話しを聞いていただけますか?」
エラルドは断る理由もないのでうなずいた。ドムは軽く微笑んでから口を開いた。
「私はザイラム盗賊団の統領に、料理を気に入られてアジトまで連れて行かれました。ところがノアが私を連れ戻しにアジトまで来てしまったんです。ノアは私の作った料理が大好きで、大きくなったら私の弟子になるんだと言っていました。ノアは盗賊に啖呵を切って言ったんです。私を返してくれって。もちろん盗賊は怒り出しました。そして、」
そこでドムはだまった。口にするのも辛いといった表情だ。ドムは意を決したように言葉を続けた。
「怒った盗賊は、小さなノアに剣で斬りつけたのです。その傷は一目でもう助からないものだとわかりました。私は、ノアを殺してしまっては、もう親父さんにあわす顔がないと思い、自分も死のうとしたんです。その時、あの人がやって来たんです。とても長身の強そうな方でした。その人は治癒魔法でノアの傷を治してくれたんです」
きっとゼゴだ。エラルドは胸が熱くなった。ゼゴはザイラム盗賊団に入って人助けをしていたのだ。
「その人は私に、ノアは息子なのかと聞いてきました。私は違うと答えましたが、その人は私の息子だという事にしておけと言いました。私がうなずいてしばらくすると、ノアと一緒にアジトで暮らす事が許されたんです。あの人は、とても盗賊には見えない人でした」
話しを終えたドムは、やっと肩の荷が降りたようにため息をついてから、捕えられた盗賊たちを眺めた。きっとゼゴの姿を探しているのだろう。
エラルドはドムを見ながら言った。
「子供を助けるなんておよそ盗賊らしくない奴だ。そんな奴、きっと盗賊をクビになっているだろうよ」
「そうですね、私もそう思います。あの人は盗賊なんかじゃない。とても立派な人です」
そう言ってドムは嬉しそうに笑った。
エラルドはアンチ魔法の二人の盗賊を見た。二人の盗賊たちは気を失っているが一番目を離せない者たちだ。
ロレーナはアクアとチャーミーとマックスと一緒に、水や果物を少女たちに勧めていた。我が妹ながらよく気がつく。
ロレーナと一緒に、同い年くらいの少年が果物を配る手伝いをしていた。
少年は盗賊団のアジトには相応しくない。エラルドは不思議に思ってロレーナに声をかけた。
「ロレーナ、この少年は誰だ?」
「あ、お兄ちゃん。この子はノアだよ」
「ノア?」
どこかで聞いた名前だ。エラルドが首をかしげていると、ノアという少年がエラルドの前に駆け寄ってきた。
「ロレーナの兄ちゃん!盗賊のお頭倒したんだろ?!」
「ああ」
「すっげぇ!かっけぇ」
ノアは子供らしくキャッキャッとはしゃいでいる。ロレーナは自分の事のように得意げにしていた。
屋敷から太った男が、切った果物のトレーを運んできた。それに気づいたノアは、素早く太った男からトレーを受け取り娘たちに配り出した。
太った男はエラルドに軽くえしゃくしてから口を開いた。
「ダンナがザイラム盗賊団の奴らを倒してくれたんですね?」
「いや、俺だけではない。妹のロレーナとパティがいてくれたから制圧できたのだ」
「ええ。パティとロレーナは幼いながらも立派な冒険者です」
妹と弟子を褒められて気分が良くなったエラルドは太った男に自己紹介をした。男は人の良い笑顔で答えた。
「私はドムといいます」
「ドム?貴方がハイバネの料理人か!」
「ええ。ダンナはハイバネをご存知で?」
「ああ、フロンの町に滞在した時に世話になった。では、ノアというのは、」
「ええ。ハイバネの店主の息子です」
「そうか、生きていたのか。良かった、宿屋の主人がとても心を痛めていた。もう死んでいるかもしれないと」
エラルドの言葉に、ドムは困った顔をしてから口を開いた。
「ダンナ、私は生きてここから出られるとは思っていませんでした。こうやってフロンの町に帰れるようになって、ある懺悔をしたいんです。これはハイバネの親父さんには絶対に話せない事なんです。ダンナ、一つ私の話しを聞いていただけますか?」
エラルドは断る理由もないのでうなずいた。ドムは軽く微笑んでから口を開いた。
「私はザイラム盗賊団の統領に、料理を気に入られてアジトまで連れて行かれました。ところがノアが私を連れ戻しにアジトまで来てしまったんです。ノアは私の作った料理が大好きで、大きくなったら私の弟子になるんだと言っていました。ノアは盗賊に啖呵を切って言ったんです。私を返してくれって。もちろん盗賊は怒り出しました。そして、」
そこでドムはだまった。口にするのも辛いといった表情だ。ドムは意を決したように言葉を続けた。
「怒った盗賊は、小さなノアに剣で斬りつけたのです。その傷は一目でもう助からないものだとわかりました。私は、ノアを殺してしまっては、もう親父さんにあわす顔がないと思い、自分も死のうとしたんです。その時、あの人がやって来たんです。とても長身の強そうな方でした。その人は治癒魔法でノアの傷を治してくれたんです」
きっとゼゴだ。エラルドは胸が熱くなった。ゼゴはザイラム盗賊団に入って人助けをしていたのだ。
「その人は私に、ノアは息子なのかと聞いてきました。私は違うと答えましたが、その人は私の息子だという事にしておけと言いました。私がうなずいてしばらくすると、ノアと一緒にアジトで暮らす事が許されたんです。あの人は、とても盗賊には見えない人でした」
話しを終えたドムは、やっと肩の荷が降りたようにため息をついてから、捕えられた盗賊たちを眺めた。きっとゼゴの姿を探しているのだろう。
エラルドはドムを見ながら言った。
「子供を助けるなんておよそ盗賊らしくない奴だ。そんな奴、きっと盗賊をクビになっているだろうよ」
「そうですね、私もそう思います。あの人は盗賊なんかじゃない。とても立派な人です」
そう言ってドムは嬉しそうに笑った。
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