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パティ動き出す

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〔パティ、パティ。返事して?〕

 パティは優しい声に起こされた。はじめパティは自分がどこにいるのかわからなかった。ソファにつっぷして不自然な姿勢で眠っていた。

「マイラ」

 そこでパティははっきりと意識が覚醒した。頭の中に響く優しい声の主は、姉のマイラの《ボイス》の魔法だ。

 そしてパティはザイラム盗賊団のアジトの中にいるのだ。眠るつもりはなかったのに、いつの間にやらウトウトしてしまっていた。

〔パティ、今話して大丈夫?〕

 パティは素早く部屋の中を確認する。ソファの上でロレーナが規則正しい寝息を立てている。パティが起きたので、ピンキーが肩にとまり、膝の上のショルダーバックの中からマックスとチャーミーとアクアが顔を出している。

 室内は真っ暗だった。あかりといえば窓から入る月明かりだけだ。パティはもう一人の同室の女性、ガラの姿を探した。だが彼女はいなかった。

 彼女は盗賊たちに呼び出されているのか。もしくは、盗賊たちの仲間なのか。

 パティはマイラに返事をした。

「大丈夫よ、マイラ」
〔パティ。ロレーナもマックスたちも皆無事?〕
「ええ」

 パティの返事に、マイラのほうっというため息が聞こえる。だいぶ心配させてしまったらしい。

〔囚われた女の子たちとは接触できた?〕
「ええ。最初に連れて行かれた部屋の見張りがアンチ魔法を使う人だったの。ロレーナが具合が悪くなってしまったから、部屋を変えてもらったわ。囚われた女の子たちは全員で十一人。部屋までの道順は、玄関のドアから右の廊下を進んで一番奥の部屋よ」
〔ええ、わかったわ。エラルドに伝えるわね。ねぇ、パティ。ロレーナは大丈夫なの?〕

 ロレーナの安否はマイラが一番聴きたかった事だろう。だがマイラは冷静に必要な情報を確認していた。マイラはどんな時でも冷静に仕事をするのだ。

「ええ。私も心配したけれど、ロレーナは今ぐっすり眠っているわ。ロレーナはとっても強い女の子なのよ」
〔ええ、そうね〕
「マイラ。私たちが閉じ込められた部屋に女の人がいたの。その人も、盗賊にとらえられたって言ってた。その人も《セルフヒーリング》の魔法だから、十一人の女の子たちがいる部屋にはいられないと言っていたの。だけどね、私、その人は何か変だなって思ったの」
〔パティは具体的に、彼女の何が変だと思ったの?〕
「ううん。そう言われると言葉にするのが難しいんだけど。なんか、その人は嘘をついているように思ったの」
〔私は彼女に会った事がないから何とも言えないわ。だけどね、パティは自分の直感を信じた方がいいと思う〕
「直感?」
〔ええ。冒険者の直感よ。パティは冒険者になって、たくさんの人たちと出会った。優しい人もいれば、嫌な人もいたと思う。パティはそこで人を見る目を養ったの。パティがその女性をおかしいと思ったのには、きっと何か根拠があるはずだわ。その女性は救護者かもしれない。だけどもしかしたら盗賊側かもしれない。もし盗賊側なら、パティたちが守らなければいけない人たちが危険にさらされる事になるわ〕
「・・・。そうね、慎重に行動するわ」
〔さぁ、パティ。夜明けまでもう少し時間があるわ。少し寝て体力を温存しなさい〕
「わかったわ、マイラ。おやすみなさい」
〔おやすみなさい、パティ〕

 それきりマイラの《ボイス》は聞こえなくなった。パティは目を閉じた。

 

 
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