109 / 212
エラルドの思い
しおりを挟む
エラルドは慣れない夕食作りをしていた。刃物を使う事は慣れている。だが味付けがいつもいまいちなのだ。
小さい頃、台所に立つ母にいつも味見をねだっていた。母は大きなスプーンですくったジャガイモを、フゥフゥと息を吹きかけて冷ましてからエラルドの口に入れてくれた。
その美味しかった味を、今でも覚えている。
エラルドはジャガイモを小さく切ると、グツグツいいだしたナベの中に入れた。次はニンジンを切る。
エラルドは黙々と野菜を切りながら、今日起きた出来事を思い出していた。何ということもない依頼だった。
ケチな子悪党を捕縛しろという。標的の居場所もはっきりしていて、森の中に潜んでいるという。
だがこれはエラルドをおびき寄せるための罠だったのだ。数多くの犯罪者を捕らえたエラルドに逆恨みした犯罪者たちが仕組んだ事だった。
エラルドを襲ったのは若い冒険者だった。相当に腕に自信があるようで、エラルドにかかんに戦いを挑んできた。
当初エラルドは、相手のあまりの若さに驚いて手心をくわえていた。だが若い冒険者が、仲間の犯罪者をおとりにしてエラルドを倒そうとした戦略を目の当たりにして考えが変わった。
この男に強力な魔力を持たせておいてはいけない。この男は人を殺す事に何のちゅうちょもないのだ。
エラルドは普段通り男の両腕を切り落とした。いつものように《ファイヤーソード》が傷口を焼ききって、命だけは助けるつもりだった。しかしエラルドの予想に反して、男の出血は止まらなかった。
エラルドはその時相当に焦っていた。亡き父との約束を破ってしまうかもしれないと思った。
お前の剣は人を生かす剣だ。決して命を奪ってはいけない。
剣の師匠であるエラルドの父は、幼いエラルドにかんでふくめるように言っていた。
今思えば、父はエラルドの心の弱さを見抜いていたのだろう。エラルドには人を殺す勇気はなかった。きっとあやまって人を殺してしまったら、精神がおかしくなってしまうだろう。
エラルドには人を殺す覚悟はないのだ。
目の前の男の出血は止まらず、このまま人を殺してしまうのかと恐怖した時、突然少女があらわれた。
一体どこからあらわれたのだろうか。黒い髪に黒い瞳の美しい少女だった。あまりにも突然あらわれたので、エラルドは森の妖精ではないかと錯覚してしまった。
「私たちが助けてあげましょうか?マフサ」
どうやらこの少女は、男と知り合いのようだ。両手から血をドボドボとしたたらせた男は、憎悪の目で少女を見た。
少女は男の視線を完全に無視してから、エラルドに向き直って微笑んだ。ここは任せろというのだ。
エラルドは感謝をこめて小さくうなずくと、森を抜けるため足を早めた。
小さい頃、台所に立つ母にいつも味見をねだっていた。母は大きなスプーンですくったジャガイモを、フゥフゥと息を吹きかけて冷ましてからエラルドの口に入れてくれた。
その美味しかった味を、今でも覚えている。
エラルドはジャガイモを小さく切ると、グツグツいいだしたナベの中に入れた。次はニンジンを切る。
エラルドは黙々と野菜を切りながら、今日起きた出来事を思い出していた。何ということもない依頼だった。
ケチな子悪党を捕縛しろという。標的の居場所もはっきりしていて、森の中に潜んでいるという。
だがこれはエラルドをおびき寄せるための罠だったのだ。数多くの犯罪者を捕らえたエラルドに逆恨みした犯罪者たちが仕組んだ事だった。
エラルドを襲ったのは若い冒険者だった。相当に腕に自信があるようで、エラルドにかかんに戦いを挑んできた。
当初エラルドは、相手のあまりの若さに驚いて手心をくわえていた。だが若い冒険者が、仲間の犯罪者をおとりにしてエラルドを倒そうとした戦略を目の当たりにして考えが変わった。
この男に強力な魔力を持たせておいてはいけない。この男は人を殺す事に何のちゅうちょもないのだ。
エラルドは普段通り男の両腕を切り落とした。いつものように《ファイヤーソード》が傷口を焼ききって、命だけは助けるつもりだった。しかしエラルドの予想に反して、男の出血は止まらなかった。
エラルドはその時相当に焦っていた。亡き父との約束を破ってしまうかもしれないと思った。
お前の剣は人を生かす剣だ。決して命を奪ってはいけない。
剣の師匠であるエラルドの父は、幼いエラルドにかんでふくめるように言っていた。
今思えば、父はエラルドの心の弱さを見抜いていたのだろう。エラルドには人を殺す勇気はなかった。きっとあやまって人を殺してしまったら、精神がおかしくなってしまうだろう。
エラルドには人を殺す覚悟はないのだ。
目の前の男の出血は止まらず、このまま人を殺してしまうのかと恐怖した時、突然少女があらわれた。
一体どこからあらわれたのだろうか。黒い髪に黒い瞳の美しい少女だった。あまりにも突然あらわれたので、エラルドは森の妖精ではないかと錯覚してしまった。
「私たちが助けてあげましょうか?マフサ」
どうやらこの少女は、男と知り合いのようだ。両手から血をドボドボとしたたらせた男は、憎悪の目で少女を見た。
少女は男の視線を完全に無視してから、エラルドに向き直って微笑んだ。ここは任せろというのだ。
エラルドは感謝をこめて小さくうなずくと、森を抜けるため足を早めた。
71
お気に入りに追加
435
あなたにおすすめの小説

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる