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アンジェの提案

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 アンジェはパティの話をふむふむと聞いていたが、ふと別な質問をした。

「パティ、お前は今いくつになる」
「はい、十五歳です」
「ほう、そうか。なぁパティ、あと二十年ほど経ったら、わたくしの母親になってはくれぬか?」

 アンジェの言葉に、パティは頭の中がはてなマークでいっぱいになった。あと二十年経ったら、パティがアンジェの母親になる。意味がわからない。アンジェにはターニャという美しい母親がいるではないか。

 パティは混乱した頭でフリーズしていると、ターニャがこわばった顔でソファから立ち上がった。

「アンジェさま!私は私は、その頃にはお役御免なのですか?!」
「どうしたターニャ。そんなにいきどおって」

 ターニャはこわばった表情から、小さな子供のような泣き顔になって、アンジェの膝にとりすがって泣き出した。

「嫌です、嫌でございます。私はずっとアンジェさまの母親でいたいのです!」
「まぁ、どうしたのですターニャ。お客さまの前で泣き出すなんて」

 わんわんと泣き続けているターニャの頭を、アンジェは優しく撫でていた。その姿は母親が幼子をあやしているようだった。

「ターニャ、安心しなさい。わたくしがパティを母親にするのはずっと先の事ですよ?その頃にはターニャはわたくしのおばあさまになるのです」
「ひっく、ひっく。では私をお側から手ばなしたりしませんか?」
「バカな事を。可愛い可愛いわたくしのターニャ。よくお聞き、ターニャがわたくしの側にいたいと思い続けるかぎり、わたくしはお前を離しません。ですが、ターニャに好いた男が現れたら、お前はその男と一緒になる事もできるのですよ?」
「嫌です!私はずっとずっとアンジェさまのお側から離れません!」

 ターニャはキッパリと宣言すると、それきりアンジェの膝に顔をうずめてシクシクと泣き続けた。

 アンジェは手のかかる愛し子に苦笑する母親のような顔になった。

「さぁ、ターニャ。少し休みなさい。マーサ」
「はい、アンジェさま」

 アンジェの声に、部屋の外に控えていたのであろう、先ほど紅茶を運んでくれた年老いたメイドがあらわれた。

「マーサ。ターニャを部屋に連れて行って、休ませなさい」
「はい、かしこまりました」

 マーサと呼ばれた老メイドは、ターニャを助け起こして部屋を出て行った。

 パティがポカンとしたまま固まっていると、アンジェが苦笑しながらわびた。

「すまないパティ。最近屋敷に出入りしている行商の若者と、ターニャが仲良くなってな。そこでわたくしは、老婆心を働かせて、ターニャと行商の若者の縁談を進めようとしたのだ。それに気づいたターニャは大泣きしてしまって、少々ナーバスになっているのだ」

 パティは口をパクパクさせた。おそらくパティの考えている事は正しいだろう。だがそれを口に出す事は、そら恐ろしく思えた。

 パティの葛藤を察したのだろう、アンジェは苦笑しながら答えた。

「そうだ。わたくしの魔法は《不老不死》もうかれこれ千年は生きている」





 
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