85 / 212
奇妙な親子
しおりを挟む
パティが驚いて声のした方に振り向くと、そこには小さな女の子がいた。十歳くらいだろうか。黒い髪に黒い瞳の、驚くほど可愛らしい女の子だった。
パティが女の子に見とれてぼうっとしていると、女の子は鋭い声で言った。
「店主、そのペンダントの宝石はクリスタルではないか。金貨十枚などと笑わせる。せいぜい銅貨十枚といったところだろう」
「何だこのガキ!営業妨害しやがって!どっか行け!」
店主はにこやかな表情から怖い顔になって女の子をいかくしようとした。女の子は店主など眼中にないようで、パティに振り向いてにこやかな笑顔を浮かべた。
「娘、ダイヤモンドを見た事がないのだな?これがダイヤだ」
女の子がパティの目の前にスッと右手を差し出す。彼女の中指にはキラキラと輝く大きな宝石をつけた指輪がはまっていた。
「わぁ、綺麗」
「そうであろう。お前はこの店の店主にだまされるところであったのだぞ?」
「はぁ、そうだったんですか。ありがとうございます」
「うむ。わたくしはお前を助けた。だから今度はお前がわたくしを助けてはくれぬか?」
どうやらこの女の子は困っているらしい。パティは女の子の身なりを観察した。彼女はとてもよいドレスを着て、イヤリングやネックレスや指輪など、たくさんの宝飾品を身につけている。
どうやらいいところの令嬢のようだ。パティの冒険者魂に火がついた。困っている人を放ってはおけないのだ。
「どうしたんですか?私にできる事なら何でも言ってください」
「うむ、実は親とはぐれてな。難儀していたところだ」
この女の子は迷子なのだ。こんな身なりが良く金目の物をジャラジャラと身につけていては、すぐに悪い奴に狙われてしまうだろう。パティはうなずいて女の子の小さな手を取って歩き出した。背後に、二度と来るなと店主の怒声を受けながら。
「娘、お前は旅姿をしているが、旅人なのか?」
「いいえ、私は冒険者です。依頼を終えてこれから王都に帰るところです」
「ほう、若い娘なのにたいしたものだな」
女の子はパティよりも小さいのに、ずっと年上のような表情で言った。パティは、ませた子供だなと苦笑しながら、女の子が母親とはぐれたであろう場所まで歩いた。
「アンジェさま!」
突然、商店街の道で大声を出す者がいた。その者は女性で、誰かを探しているようだった。パティと手をつないでいる女の子が嬉しそうな声をあげた。
「おお、お母さまだ」
そこでパティは少し変だな、と思った。街中で大声を出しているのが女の子の母親ならば、なぜ自分の娘を敬称で呼ぶのだろうか。
人だかりの中から、一人の女性が飛び出してきた。その女性を見て、パティはハッと息を飲んだ。驚くほど美しい女性だったからだ。
長い黒髪に、大きく美しい黒い瞳、くちびるはバラのように赤く、走っていたためか頬もピンク色に上気していた。
美しい女性は女の子をみとめると、目に涙を浮かべながらかけよった。
「アンジェさま!おけがはございませんか?!」
「大丈夫だ。そんなに慌てるでない」
「申し訳ありません。アンジェさまを見失うなど、大失態にございます」
そこで美しい女性は初めてパティに気づいたようだ。
「アンジェさま。この方は?」
「うむ、宝石店でだまされそうになっていたところを助けてやったのだ」
「まぁ」
パティは何となく察した。この二人は親子ではなく主従関係にあるのだ。だが何らかの理由で親子のふりをしているのだ。
パティが女の子に見とれてぼうっとしていると、女の子は鋭い声で言った。
「店主、そのペンダントの宝石はクリスタルではないか。金貨十枚などと笑わせる。せいぜい銅貨十枚といったところだろう」
「何だこのガキ!営業妨害しやがって!どっか行け!」
店主はにこやかな表情から怖い顔になって女の子をいかくしようとした。女の子は店主など眼中にないようで、パティに振り向いてにこやかな笑顔を浮かべた。
「娘、ダイヤモンドを見た事がないのだな?これがダイヤだ」
女の子がパティの目の前にスッと右手を差し出す。彼女の中指にはキラキラと輝く大きな宝石をつけた指輪がはまっていた。
「わぁ、綺麗」
「そうであろう。お前はこの店の店主にだまされるところであったのだぞ?」
「はぁ、そうだったんですか。ありがとうございます」
「うむ。わたくしはお前を助けた。だから今度はお前がわたくしを助けてはくれぬか?」
どうやらこの女の子は困っているらしい。パティは女の子の身なりを観察した。彼女はとてもよいドレスを着て、イヤリングやネックレスや指輪など、たくさんの宝飾品を身につけている。
どうやらいいところの令嬢のようだ。パティの冒険者魂に火がついた。困っている人を放ってはおけないのだ。
「どうしたんですか?私にできる事なら何でも言ってください」
「うむ、実は親とはぐれてな。難儀していたところだ」
この女の子は迷子なのだ。こんな身なりが良く金目の物をジャラジャラと身につけていては、すぐに悪い奴に狙われてしまうだろう。パティはうなずいて女の子の小さな手を取って歩き出した。背後に、二度と来るなと店主の怒声を受けながら。
「娘、お前は旅姿をしているが、旅人なのか?」
「いいえ、私は冒険者です。依頼を終えてこれから王都に帰るところです」
「ほう、若い娘なのにたいしたものだな」
女の子はパティよりも小さいのに、ずっと年上のような表情で言った。パティは、ませた子供だなと苦笑しながら、女の子が母親とはぐれたであろう場所まで歩いた。
「アンジェさま!」
突然、商店街の道で大声を出す者がいた。その者は女性で、誰かを探しているようだった。パティと手をつないでいる女の子が嬉しそうな声をあげた。
「おお、お母さまだ」
そこでパティは少し変だな、と思った。街中で大声を出しているのが女の子の母親ならば、なぜ自分の娘を敬称で呼ぶのだろうか。
人だかりの中から、一人の女性が飛び出してきた。その女性を見て、パティはハッと息を飲んだ。驚くほど美しい女性だったからだ。
長い黒髪に、大きく美しい黒い瞳、くちびるはバラのように赤く、走っていたためか頬もピンク色に上気していた。
美しい女性は女の子をみとめると、目に涙を浮かべながらかけよった。
「アンジェさま!おけがはございませんか?!」
「大丈夫だ。そんなに慌てるでない」
「申し訳ありません。アンジェさまを見失うなど、大失態にございます」
そこで美しい女性は初めてパティに気づいたようだ。
「アンジェさま。この方は?」
「うむ、宝石店でだまされそうになっていたところを助けてやったのだ」
「まぁ」
パティは何となく察した。この二人は親子ではなく主従関係にあるのだ。だが何らかの理由で親子のふりをしているのだ。
110
お気に入りに追加
433
あなたにおすすめの小説
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
【完結】さようならと言うしかなかった。
ユユ
恋愛
卒業の1ヶ月後、デビュー後に親友が豹変した。
既成事実を経て婚約した。
ずっと愛していたと言った彼は
別の令嬢とも寝てしまった。
その令嬢は彼の子を孕ってしまった。
友人兼 婚約者兼 恋人を失った私は
隣国の伯母を訪ねることに…
*作り話です
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる