20 / 212
パティの願い
しおりを挟む
ジョナサンはこのところ元気のないパティが心配でならなかった。パティは急にはしゃいだかと思うと、突然ふさぎ込んでいた。
何か心配な事があるのかと、それとなく聞いてみても、大丈夫と答えるばかりだった。
パティの友達が教会で共に暮らすようちなって、ジョナサンたちの生活はとても豊かになった。
水魔法を操るアクアのおかげで、パティは水くみをしなくてよくなったし、チャーミーの土魔法で畑の作物がたくさん育つようになった。マックスは暖炉の火をすぐにつけてくれるし、外出の際には大きくなったピンキーが空を飛んで連れて行ってくれた。
そんなある日、パティがジョナサンにお願い事を言った。教会の裏に井戸を掘ってよいかというのだ。ジョナサンはついに来たかと思った。
井戸を掘るという事は、パティとアクアたちが教会を出て行くという事だ。優しいパティは、自分が教会を出た後のジョナサンの事が心配なのだろう。
パティの気持ちもわからなくはない。村人たちはパティに冷たく当たり、この村にパティの居場所はない。
パティが無力な少女だったならば、ジョナサンはパティを手放さなかっただろう。だがパティが神さまから授かった友達は、強い魔力を持つ者たちだ。きっとパティを守ってくれるだろう。
ジョナサンは神父としてパティを手放す気持ちはあるが、養父としてはどうしてもふんぎりがつかなかった。十五年も愛し育ててきたパティが、ジョナサンの元を去る。考えただけでも身を切られるように辛かった。
しかしそれがパティのためになるならば、ジョナサンはパティの足かせになってはいけないのだ。
その日の夕食、パティはいつものように今日あった事を楽しそうに話していた。
「それでね、神父さま。マックスったらピンキーと同じくらい空を飛べるって言い張って、高い崖から飛び降りちゃったの。私たち慌ててピンキーに乗せてもらって崖下に降りたら、マックスは無傷だったんだけど、すねちゃって」
マックスは、そんな話しないでよ、と言うようにクウンと鳴いていた。パティは優しい笑顔でマックスの頭を撫でた。
ジョナサンは頃合いだと思い、口を開いた。
「なぁ、パティ。お前はここを出て行くつもりなんだな?」
パティはヒュッと息を飲んで身体をこわばらせた。ジョナサンはパティを驚かせないように笑顔で言った。
「パティ。本当の事を言うと、私は寂しい。だがパティのこれからの事を考えるなら、マックスたちとこの村を出る事は正しい選択だと私は思う」
驚いたパティの顔が、クシャリと泣き顔になった。パティは席から立ち上がると、ジョナサンに抱きついて言った。
「神父さま!私も、私も寂しい。でも、私外の世界を見てみたいの。外の世界には私と同じように黒い髪で黒い瞳の人もいるかもしれない。いろんな場所に行って、たくさんの人に出会えるかもしれない。だけど、神父さまと離れるのが怖いの!」
パティはジョナサンの死を怖がっているのだ。ジョナサンは高齢だ、パティが村を出て、再び戻って来た時に元気でいられるとは断言できない。パティが村を出る時が最後になるかもしれないのだ。
パティはジョナサンの胸に顔をうずめてわんわん泣きながら言った。
「神父さま、誕生日のプレゼント。私、神父さまとまた会える約束がほしいんです」
「・・・。パティ、人の寿命は神さまが決められる事なのだ。私がいつ神に召されるかなど誰にもわからないのだよ」
「・・・。神父さま、一つだけ方法があるんです。神父さまは、チコリおばあちゃんが急に元気になった事をとても驚いていたでしょ?」
ジョナサンは五年前の事を思い出していた。その頃チコリは持病の神経痛が悪化して、とても辛そうだった。だがある日突然、つえも無しにスタスタと歩き出したのだ。心なしか若くなったように見えた。
ジョナサンが驚いてチコリに聞くと、彼女は少女のようにイタズラっぽい顔で笑って内緒と答えた。チコリは今もすこぶる元気だ。
何か心配な事があるのかと、それとなく聞いてみても、大丈夫と答えるばかりだった。
パティの友達が教会で共に暮らすようちなって、ジョナサンたちの生活はとても豊かになった。
水魔法を操るアクアのおかげで、パティは水くみをしなくてよくなったし、チャーミーの土魔法で畑の作物がたくさん育つようになった。マックスは暖炉の火をすぐにつけてくれるし、外出の際には大きくなったピンキーが空を飛んで連れて行ってくれた。
そんなある日、パティがジョナサンにお願い事を言った。教会の裏に井戸を掘ってよいかというのだ。ジョナサンはついに来たかと思った。
井戸を掘るという事は、パティとアクアたちが教会を出て行くという事だ。優しいパティは、自分が教会を出た後のジョナサンの事が心配なのだろう。
パティの気持ちもわからなくはない。村人たちはパティに冷たく当たり、この村にパティの居場所はない。
パティが無力な少女だったならば、ジョナサンはパティを手放さなかっただろう。だがパティが神さまから授かった友達は、強い魔力を持つ者たちだ。きっとパティを守ってくれるだろう。
ジョナサンは神父としてパティを手放す気持ちはあるが、養父としてはどうしてもふんぎりがつかなかった。十五年も愛し育ててきたパティが、ジョナサンの元を去る。考えただけでも身を切られるように辛かった。
しかしそれがパティのためになるならば、ジョナサンはパティの足かせになってはいけないのだ。
その日の夕食、パティはいつものように今日あった事を楽しそうに話していた。
「それでね、神父さま。マックスったらピンキーと同じくらい空を飛べるって言い張って、高い崖から飛び降りちゃったの。私たち慌ててピンキーに乗せてもらって崖下に降りたら、マックスは無傷だったんだけど、すねちゃって」
マックスは、そんな話しないでよ、と言うようにクウンと鳴いていた。パティは優しい笑顔でマックスの頭を撫でた。
ジョナサンは頃合いだと思い、口を開いた。
「なぁ、パティ。お前はここを出て行くつもりなんだな?」
パティはヒュッと息を飲んで身体をこわばらせた。ジョナサンはパティを驚かせないように笑顔で言った。
「パティ。本当の事を言うと、私は寂しい。だがパティのこれからの事を考えるなら、マックスたちとこの村を出る事は正しい選択だと私は思う」
驚いたパティの顔が、クシャリと泣き顔になった。パティは席から立ち上がると、ジョナサンに抱きついて言った。
「神父さま!私も、私も寂しい。でも、私外の世界を見てみたいの。外の世界には私と同じように黒い髪で黒い瞳の人もいるかもしれない。いろんな場所に行って、たくさんの人に出会えるかもしれない。だけど、神父さまと離れるのが怖いの!」
パティはジョナサンの死を怖がっているのだ。ジョナサンは高齢だ、パティが村を出て、再び戻って来た時に元気でいられるとは断言できない。パティが村を出る時が最後になるかもしれないのだ。
パティはジョナサンの胸に顔をうずめてわんわん泣きながら言った。
「神父さま、誕生日のプレゼント。私、神父さまとまた会える約束がほしいんです」
「・・・。パティ、人の寿命は神さまが決められる事なのだ。私がいつ神に召されるかなど誰にもわからないのだよ」
「・・・。神父さま、一つだけ方法があるんです。神父さまは、チコリおばあちゃんが急に元気になった事をとても驚いていたでしょ?」
ジョナサンは五年前の事を思い出していた。その頃チコリは持病の神経痛が悪化して、とても辛そうだった。だがある日突然、つえも無しにスタスタと歩き出したのだ。心なしか若くなったように見えた。
ジョナサンが驚いてチコリに聞くと、彼女は少女のようにイタズラっぽい顔で笑って内緒と答えた。チコリは今もすこぶる元気だ。
214
お気に入りに追加
433
あなたにおすすめの小説
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
【完結】さようならと言うしかなかった。
ユユ
恋愛
卒業の1ヶ月後、デビュー後に親友が豹変した。
既成事実を経て婚約した。
ずっと愛していたと言った彼は
別の令嬢とも寝てしまった。
その令嬢は彼の子を孕ってしまった。
友人兼 婚約者兼 恋人を失った私は
隣国の伯母を訪ねることに…
*作り話です
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる