前世で百人殺した殺し屋の俺は地獄行きを回避するため現世で百人助けます

迫り来る危機

　カイルたちがアルフレドと話しをしていると、天使のリリアーヌがあらわれて言った。

「カイル。アルフレドはもうすぐ死ぬわ」

　カイルは顔色を変えずにうなずいた。リリアーヌは言葉を続けた。

「アルフレドはこれから、自身の考えに賛同する者たちと大きな会合を開くわ。それをグザヴィエが聞きつけて、暗殺者たちを送り込むの。無関係な町の人たちも巻き込んで、沢山の人たちが死ぬわ」

　カイルがチラリとリリアーヌを見ると、顔色が真っ青だった。カイルは小さくうなずてからアルフレドに切りだした。

「アルフレドどの。そろそろ妹に腹を割って話した方がいいですよ？さもないと貴方の妹は剣を持って城に殴りこみに行ってしまいますよ？」

　カイルの言葉にアルフレドは困った顔をして妹を見てから、カイルに向きなおって言った。

「カイルどの。どのていど察しているのですか？」
「貴方がおろか者のフリをしながら、かげでは仲間をつのってグザヴィエを摂政から失脚させようとしているというところまでです」

　カイルの言葉にレベッカは驚いて叫んだ。

「お兄さま！ずっとお父さまのご意志に背いていたくせに！」

　アルフレドは深いため息をついてから妹に言った。

「父上の言いつけだったのだ。私は表向きは、ぐ鈍な領主を演じ、裏では父上の志しに賛同する人々ときがじゅくすのを待っていたのだ。だが、ようやくそのときが来た。カイルどの、サイラスどの、今のガンドル国王をどう思われますか？」

　アルフレドはカイルとサイラスに質問した。カイルは転生してからずっと山奥で暮らしていたので、最近のガンドル国王の事はよく知らない。前世の知識で、前王が崩御し、第一王子が王座についた事しか知らなかった。カイルがそう答えると、サイラスが言葉を引き継いだ。

「ガンドル国王は弱虫の腰抜けだ。自分は病弱だからといって、ちっとも表には顔を出さねぇ。表に出てくるのは摂政のグザヴィエっていううさん臭え奴だけだ。王さまになるんだったら、第二王子か第三王子の方がよっぽど骨があったぜ」

　サイラスの吐き捨てるような言葉に、アルフレドは黙ってうなずいてから答えた。

「サイラスどのの言う通り、賢王とうたわれた前王が突然崩御され、次に即位されたのが病弱なヤニク国王だ。だがヤニク国王が即位される前は、第二王子のテオドールさま、第三王子のシモンさまを国王におす大臣たちもおりました。ですが、」

　そこでアルフレドは黙ってしまった。カイルは口を開いた。

「彼らをおしていた大臣たちがことごとく死んだ」

　カイルの言葉にアルフレドは鎮痛そうにうなずいてから再び口を開いた。

「はい。ヤニクさまが国王になるのを反対する者たちが死んでしまい、テオドールさまとシモンさまは無理矢理修道院にいれられ、僧にさせられてしまいました。ヤニク国王はグザヴィエの言うがままです。現在、グザヴィエがこの国を牛耳っているのです」

　アルフレドは一呼吸おいてから、言葉を続けた。

「ですが、前王にはもう一人王子がいたのです。グザヴィエの陰謀に気づいた忠臣が、側室に生ませた王子を隠したのです。前王の第四王子にあたるエクトルさまは、今年で十七歳になられます。我々はエクトルさまをようして現国王を退任させようと考えております」

　アルフレドたちは現国王に反旗をひるがえそうとしているのだ。アルフレドたちの賛同者はガンドル国内では大きな勢力になっているようだ。もうすぐガンドル国内に潜伏している賛同者たちが、このスマフの町に集結するという。そこにグザヴィエの手の者たち、おそらくブラックスコーピオンの暗殺者たちがやって来る。