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ギガルド国の王
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マリアンナは走り出した狼のシドに遅れて王の間に入った。本来ならば王の間には、沢山の兵士がいるはずなのに、そこはガランとした空間だった。マリアンナが最初に目にしたのは三つの檻だった。檻の中には裸の男と、子供が二人いた。
マリアンナは一目見て怒りが湧いた。子供たちはアイシャと同じくらい、マリアンナの生徒くらいの年なのだ。そんな子供を檻に入れるなんて。シドは怒り狂ったように檻に向かって走りだしていた。続いてアイシャも走り出す。マリアンナはため息をついた、アイシャは危機感が無さすぎる。誰かを助けたいという気持ちが強すぎるのだ。
しばらくすると、アイシャと少年を抱えたシドと、檻にいたもう一人の男が少女を抱えてやって来た。シドの顔は見るも無残に焼けただれていた。檻に何らかの魔法がかかっていたのだろう。シドは獣人の子供たちにマリアンナとアイシャと一緒に逃げろと諭していた。
ふと、シュラと呼ばれた男からの視線を感じた、シュラはマリアンナを見てから獣人の子供たちを見た。それだけの動作で、マリアンナにはシュラの意図が分かった。マリアンナに子供たちを託すというのだ。マリアンナも子供の命を預かる教師だ、シュラの気持ちはよく分かる。マリアンナも自分の命より生徒であるアイシャの安全の方が大事なのだ。
マリアンナは了解の意思表示で軽く頷く、するとシュラが笑ったのだ。マリアンナは獣人をこの時初めて見た。その時まで獣人とはどう猛で狡猾な生き物だと思っていた。だが獣人は人間と同じように、否それ以上に仲間を大切にしているのだと分かった。シュラは、一人残ると言うシドに自分も残ると言った。マリアンナは確信した、シドとシュラはここで死ぬかつもりだ。獣人の子供たちを助けるために。マリアンナはため息をついた。
「ちょっと待て、私はシンドリア国の者だ。私はギガルド国の王に拝謁しなければならない、話はそれからだ。それまでお前らはここに待機、いいな」
マリアンナはシドとシュラの話も聞かずに王の玉座の方に歩きだした。歩きながら王の間を観察する。天井が高い、これならスノードラゴンを召喚しても問題なさそうだ。マリアンナはスノードラゴンに乗ってギガルド国の上空を飛び、強い違和感を感じていた。国がひどく荒廃しているのだ。
ギガルド国の王は好戦的で残酷な王だ。だが良くも悪くも、分かりやすい王だった。支配欲が強く、強欲で金銀の宝飾品、美姫たちを強引に手に入れていた。近隣諸国にも攻撃を仕掛けては、金銀を要求していた。シンドリア国はギガルド国よりも大国であるため、あからさまな攻撃はされなかったが、定期的にギガルド国に使者を立て金品を届けさせていた。
つまり面倒くさい国なため、適度にご機嫌を取っていたのだ。だが数ヶ月前、シンドリア国の使者をギガルド国に派遣したのだが、その使者は未だに帰っていないのだ。マリアンナは王の前につくと、うやうやしく膝をついてひれ伏した。
「偉大なるギガルドの王、シンドリア国の特使マリアンナと申します」
「顔を上げな」
砕けた口調の王に、マリアンナは顔を上げた。そこにいたのは少年といってもいいくらいの王だった。マリアンナは愕然とした、聞いていたギガルド国の王とは似ても似つかなかったからだ。ギガルド国の王は歳の頃六十近くの白人だった。
しかしマリアンナの目の前にいる王と目される少年は黄色人種で、王の息子というわけでもなさそうだ。それに、少年王の顔や身体には、独特の入れ墨が彫られてていた。この入れ墨は、国を持たない少数民族のものではないだろうか。
「先日シンドリアの使者が拝謁したと存じますが、その者がまだ国に戻りませぬ。何か不都合がございましたでしょうか?」
少年王は少し首を傾げてから、側に控えている宰相に声をかけた。
「グレイグ、使者って?」
グレイグと呼ばれた宰相はおごそかに答えた。
「王に不敬を働いたので牢に投獄しました」
「ああ、あのおじさんね、俺の事王じゃないだなんて言うんだもん。腹立ったからさぁ」
マリアンナは焦った。このままではシンドリア国とギガルド国が戦争に発展してしまう。
「っ!王よ、どうか怒りをお沈めください。このままではシンドリア国との関係も悪化してしまいます」
「いいよ、悪化しても。俺には関係ないし、それに獣人にシンドリア国王の暗殺に向かわせたからね」
「・・・、一つ聞くが、前の王はどうした?」
「あはっ、それがお姉さんの素なの?そっちの方がいいね。前の王様は俺が殺したよ。面白いんだぜ、自分は沢山の人間を殺しているのに、いざ自分が殺される立場になったら、命乞いするんだ。勿論聞いてやらずに殺したよ」
これはギガルド国に起きたクーデターだ。この少年王はまだ諸外国にギガルド国の王と認められていない。ならばマリアンナが、この少年王を降伏させ、クーデターを鎮圧したとなればシンドリア国の面子は守られる。
「交渉決裂だな。ならば仕方ない、貴様らを倒して、獣人たちはシンドリア国で保護する。シド、シュラ戦闘態勢をとれ!」
マリアンナは素早く呪文を詠唱する。巨大なスノードラゴンが現れる。少年王の側にいた宰相、グレイグも素早く呪文を詠唱して霊獣を召喚した。グレイグの召喚霊獣は、サイによく似た霊獣だった。
「お姉さんすごい霊獣だね。でも俺の方がすごいよ、アーテル!」
どうやら少年王も召喚士のようだ。詠唱なしで霊獣を召喚した。少年王の召喚霊獣は大きな犬だった。ともするとマリアンナのスノードラゴンよりも巨大だ。しかもただの犬ではない、全身真っ黒で、顔が三つもある犬だった。ケルベロス。マリアンナは口の中で呟いた。とんでもない霊獣だが、戦わないわけにはいかない。
マリアンナはちらりと背後に目をやった、後方に控えるアイシャたちを球体の防御魔法がおおっている。どうやら霊獣の幼体、黒猫のドロシーの魔法のようだ。本来霊獣の幼体は弱い存在で魔法を使う事はできない。だがアイシャを守りたい一心で、魔法を使ったのだろう。これでアイシャと獣人の子供たちの安全は保たれるだろう。だがドロシーは初めて魔法を使ったのだ。あまり長くはもたないと考えたほうがいい、なるべく早くけりをつけなければ。
マリアンナの背後から狼になったシドとシュラがおどり出る。だがケルベロスの口から別々の魔法が溢れ出る。炎の魔法、氷の魔法、風の魔法がマリアンナたちに襲いかかった。シドとシュラは素早く、身を翻して攻撃をかわす。マリアンナのスノードラゴンは氷壁防御で攻撃を受け止める。宰相のグレイグの霊獣はどうやら風魔法を使うようだ。空気の弾丸を繰り出し、マリアンナたちに攻撃する。
敵の攻撃の手数が多すぎて、マリアンナたちは防御に徹してしまっている。マリアンナは霊獣の魔法ではなく、自身が持っている唯一の魔法を使う事にした。マリアンナは水派生魔法、蜃気楼〈ミラージュ〉を発動させた。魔法で大量の水蒸気を発生させ、冷たい水蒸気と温かい水蒸気を作り、蜃気楼を出現させるのだ。すなわち自身の幻影を作るのだ。マリアンナが作れる蜃気楼〈ミラージュ〉は二つ、マリアンナとスノードラゴンが三人と三頭いるように見えるのだ。獣人である狼は六頭になる。
マリアンナはスノードラゴンに命じてケルベロスと、サイの霊獣に氷の刃を放つ。氷の刃は三頭のスノードラゴンから放たれる。幻影に攻撃力は無いが、相手を撹乱する事ができる。シドとシュラは巧みにケルベロスとサイの霊獣の攻撃を避けながら、咆哮による空気の弾丸で攻撃をする。まるで風攻撃魔法のようだ、マリアンナは獣人が敵でない事に安堵する。だが、サイの霊獣と、ケルベロスの頭の一つは風魔法を使うため、シドとシュラは攻防を繰り返している。マリアンナにしても、火魔法を使うケルベロスの頭とは相性が悪く、氷魔法を使うケルベロスの頭とは同じ魔法属性のため力比べになってしまう。
「シド、シュラ、私はサイと風魔法の頭と戦う。残りの頭は任せた!」
シドとシュラは、一声ガウッと鳴くと、猛然と火魔法の頭と、氷魔法の頭に突進していった。ケルベロスにしても、マリアンナたちの作戦が分かったと見えて火魔法の頭と氷魔法の頭はシドとシュラに狙いを定めて魔法攻撃をしてきた。シュラは空中に咆哮の空気の弾丸を放ち、その弾丸の上をシドは器用に足場として跳んで行く。シドはまるで空中を飛んでいるようだ。
シドはようやくケルベロスまで近づくと、巨大なケルベロスの喉笛に食らいつく。ケルベロスは激しい咆哮をあげて首を力任せに降った、噛み付いたシドをふるい落すためだ。しかしシドは噛み付いたまま離さない、たまりかねたケルベロスは前脚で自身の首を引き裂こうとした。シドはひらりと前脚を避けて着地する。接近戦もできるシドとシュラ、遠方攻撃のスノードラゴン。マリアンナには、勝利の道筋が見えたかに思えた。
マリアンナは一目見て怒りが湧いた。子供たちはアイシャと同じくらい、マリアンナの生徒くらいの年なのだ。そんな子供を檻に入れるなんて。シドは怒り狂ったように檻に向かって走りだしていた。続いてアイシャも走り出す。マリアンナはため息をついた、アイシャは危機感が無さすぎる。誰かを助けたいという気持ちが強すぎるのだ。
しばらくすると、アイシャと少年を抱えたシドと、檻にいたもう一人の男が少女を抱えてやって来た。シドの顔は見るも無残に焼けただれていた。檻に何らかの魔法がかかっていたのだろう。シドは獣人の子供たちにマリアンナとアイシャと一緒に逃げろと諭していた。
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「ちょっと待て、私はシンドリア国の者だ。私はギガルド国の王に拝謁しなければならない、話はそれからだ。それまでお前らはここに待機、いいな」
マリアンナはシドとシュラの話も聞かずに王の玉座の方に歩きだした。歩きながら王の間を観察する。天井が高い、これならスノードラゴンを召喚しても問題なさそうだ。マリアンナはスノードラゴンに乗ってギガルド国の上空を飛び、強い違和感を感じていた。国がひどく荒廃しているのだ。
ギガルド国の王は好戦的で残酷な王だ。だが良くも悪くも、分かりやすい王だった。支配欲が強く、強欲で金銀の宝飾品、美姫たちを強引に手に入れていた。近隣諸国にも攻撃を仕掛けては、金銀を要求していた。シンドリア国はギガルド国よりも大国であるため、あからさまな攻撃はされなかったが、定期的にギガルド国に使者を立て金品を届けさせていた。
つまり面倒くさい国なため、適度にご機嫌を取っていたのだ。だが数ヶ月前、シンドリア国の使者をギガルド国に派遣したのだが、その使者は未だに帰っていないのだ。マリアンナは王の前につくと、うやうやしく膝をついてひれ伏した。
「偉大なるギガルドの王、シンドリア国の特使マリアンナと申します」
「顔を上げな」
砕けた口調の王に、マリアンナは顔を上げた。そこにいたのは少年といってもいいくらいの王だった。マリアンナは愕然とした、聞いていたギガルド国の王とは似ても似つかなかったからだ。ギガルド国の王は歳の頃六十近くの白人だった。
しかしマリアンナの目の前にいる王と目される少年は黄色人種で、王の息子というわけでもなさそうだ。それに、少年王の顔や身体には、独特の入れ墨が彫られてていた。この入れ墨は、国を持たない少数民族のものではないだろうか。
「先日シンドリアの使者が拝謁したと存じますが、その者がまだ国に戻りませぬ。何か不都合がございましたでしょうか?」
少年王は少し首を傾げてから、側に控えている宰相に声をかけた。
「グレイグ、使者って?」
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「王に不敬を働いたので牢に投獄しました」
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マリアンナは焦った。このままではシンドリア国とギガルド国が戦争に発展してしまう。
「っ!王よ、どうか怒りをお沈めください。このままではシンドリア国との関係も悪化してしまいます」
「いいよ、悪化しても。俺には関係ないし、それに獣人にシンドリア国王の暗殺に向かわせたからね」
「・・・、一つ聞くが、前の王はどうした?」
「あはっ、それがお姉さんの素なの?そっちの方がいいね。前の王様は俺が殺したよ。面白いんだぜ、自分は沢山の人間を殺しているのに、いざ自分が殺される立場になったら、命乞いするんだ。勿論聞いてやらずに殺したよ」
これはギガルド国に起きたクーデターだ。この少年王はまだ諸外国にギガルド国の王と認められていない。ならばマリアンナが、この少年王を降伏させ、クーデターを鎮圧したとなればシンドリア国の面子は守られる。
「交渉決裂だな。ならば仕方ない、貴様らを倒して、獣人たちはシンドリア国で保護する。シド、シュラ戦闘態勢をとれ!」
マリアンナは素早く呪文を詠唱する。巨大なスノードラゴンが現れる。少年王の側にいた宰相、グレイグも素早く呪文を詠唱して霊獣を召喚した。グレイグの召喚霊獣は、サイによく似た霊獣だった。
「お姉さんすごい霊獣だね。でも俺の方がすごいよ、アーテル!」
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マリアンナはちらりと背後に目をやった、後方に控えるアイシャたちを球体の防御魔法がおおっている。どうやら霊獣の幼体、黒猫のドロシーの魔法のようだ。本来霊獣の幼体は弱い存在で魔法を使う事はできない。だがアイシャを守りたい一心で、魔法を使ったのだろう。これでアイシャと獣人の子供たちの安全は保たれるだろう。だがドロシーは初めて魔法を使ったのだ。あまり長くはもたないと考えたほうがいい、なるべく早くけりをつけなければ。
マリアンナの背後から狼になったシドとシュラがおどり出る。だがケルベロスの口から別々の魔法が溢れ出る。炎の魔法、氷の魔法、風の魔法がマリアンナたちに襲いかかった。シドとシュラは素早く、身を翻して攻撃をかわす。マリアンナのスノードラゴンは氷壁防御で攻撃を受け止める。宰相のグレイグの霊獣はどうやら風魔法を使うようだ。空気の弾丸を繰り出し、マリアンナたちに攻撃する。
敵の攻撃の手数が多すぎて、マリアンナたちは防御に徹してしまっている。マリアンナは霊獣の魔法ではなく、自身が持っている唯一の魔法を使う事にした。マリアンナは水派生魔法、蜃気楼〈ミラージュ〉を発動させた。魔法で大量の水蒸気を発生させ、冷たい水蒸気と温かい水蒸気を作り、蜃気楼を出現させるのだ。すなわち自身の幻影を作るのだ。マリアンナが作れる蜃気楼〈ミラージュ〉は二つ、マリアンナとスノードラゴンが三人と三頭いるように見えるのだ。獣人である狼は六頭になる。
マリアンナはスノードラゴンに命じてケルベロスと、サイの霊獣に氷の刃を放つ。氷の刃は三頭のスノードラゴンから放たれる。幻影に攻撃力は無いが、相手を撹乱する事ができる。シドとシュラは巧みにケルベロスとサイの霊獣の攻撃を避けながら、咆哮による空気の弾丸で攻撃をする。まるで風攻撃魔法のようだ、マリアンナは獣人が敵でない事に安堵する。だが、サイの霊獣と、ケルベロスの頭の一つは風魔法を使うため、シドとシュラは攻防を繰り返している。マリアンナにしても、火魔法を使うケルベロスの頭とは相性が悪く、氷魔法を使うケルベロスの頭とは同じ魔法属性のため力比べになってしまう。
「シド、シュラ、私はサイと風魔法の頭と戦う。残りの頭は任せた!」
シドとシュラは、一声ガウッと鳴くと、猛然と火魔法の頭と、氷魔法の頭に突進していった。ケルベロスにしても、マリアンナたちの作戦が分かったと見えて火魔法の頭と氷魔法の頭はシドとシュラに狙いを定めて魔法攻撃をしてきた。シュラは空中に咆哮の空気の弾丸を放ち、その弾丸の上をシドは器用に足場として跳んで行く。シドはまるで空中を飛んでいるようだ。
シドはようやくケルベロスまで近づくと、巨大なケルベロスの喉笛に食らいつく。ケルベロスは激しい咆哮をあげて首を力任せに降った、噛み付いたシドをふるい落すためだ。しかしシドは噛み付いたまま離さない、たまりかねたケルベロスは前脚で自身の首を引き裂こうとした。シドはひらりと前脚を避けて着地する。接近戦もできるシドとシュラ、遠方攻撃のスノードラゴン。マリアンナには、勝利の道筋が見えたかに思えた。
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