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俊作とココ
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俊作は焼酎の水割りを飲み干し、ふぅと息を吐いた。俊作のベッドの上でピョンピョン飛び跳ねていたテディベアのココが怒ったように言う。
「ぱぱ、おさけはもうおしまいだからね?しょうちゅうのみずわりはさんばいまでってべにことやくそくしたでしょ?」
「はいはい、わかってるよ?ココ。紅子さんとの約束もね?」
俊作はベッドの上にしつらえてある棚の写真立てを手に取った。写真の中には俊作と、俊作が抱いている赤ん坊の結、その横にはトトとココを抱いて微笑んでいる妻の紅子の姿があった。
俊作は亡き妻の笑顔を見て微笑んだ。亡き妻が残してくれたテディベアのココとトトはとにかく口うるさい。妻の紅子にそっくりだ。
俊作は、酒を飲んだのだからうがいをしてきてと言うココを軽くあしらって言った。
「はいはい、わかっているよ。ココもトトも紅子さんにそっくりなんだから」
「あたりまえだよ。ぼくとととはべにこのいのちがはいっているんだから」
「そうだね」
俊作は台所でうがいを済ませると、ベッドに横になった。枕元のランプを小さくする。室内はうす闇に包まれた。俊作は横に寝ているココにたずねた。
「ココは結を襲おうとした人形に心当たりがあるのかい?」
「ううん、しらないにんぎょうだった。だけどにんぎょうをあやつっていたのはにんぎょうつかいだった」
「・・・。紅子さんと結の他にも人形使いがいるのか。しかも人を傷つけようとするなんて」
「あのにんぎょうつかいは、ぼくのことをいくさにんぎょうとよんでいた」
「いくさ人形?」
戦人形と書くのだろうか。俊作はひとり言のように呟く。ココは可愛らしく首をコクリとかたむけて言った。
「むかしべにこがいってた。いくさにんぎょうはかなしいおにんぎょう。わたしはいくさにんぎょうをうごかしたくないって」
「そうか、」
ココの言葉に俊作は考え込んだ。そして妻紅子と初めて出会った時の事を思い出した。
俊作は自宅兼工房で人形修理の修行をしていた。人形修理の師匠は父親だった。とても厳しくて、若かった頃の俊作には決して人形に触れさせてもらえなかった。俊作はひたすら父親の技術を見て勉強した。
技術は教わるものではない、盗むものだ。というのが父親の口ぐせだった。だから俊作は父親から技術を習った事は一度もなかった。
あの日は父親が依頼人に修理した人形を届けに外に出ていた時だった。突然工房のドアが開いた。
そこには美しい女性が立っていた。長く艶やかな髪、大きな黒い瞳。まるで人形のような女性だった。その女性は泣いていた。目から涙をポロポロ流して。
俊作は驚きのあまり声も出せず立ちつくしていた。女性が口を開いた。
「あ、あの。ここで人形を修理してくれると聞いたのですが」
「は、はい!ですが今は職人が不在でして、」
女性はとても悲しそうな顔をした。手には二体のテディベアをしっかりと抱いていた。俊作はたまらず声をかけた。
「そのテディベアたちが壊れたんですか?」
女性はかぶりをふって答えた。
「ココとトトがケガをしてしまったの。早く治してほしくて」
彼女はそれだけ言うと、ドアの前でしゃがみこんでしまった。顔をおおってシクシクと泣いている。
すると驚くべき事が起きた。二体のテディベアがスクッと立ち上がり、しゃがみこんでいる女性の頭と背中をなで出したのだ。
まるで、僕たちは大丈夫だから泣かないでと言っているようだった。
「ぱぱ、おさけはもうおしまいだからね?しょうちゅうのみずわりはさんばいまでってべにことやくそくしたでしょ?」
「はいはい、わかってるよ?ココ。紅子さんとの約束もね?」
俊作はベッドの上にしつらえてある棚の写真立てを手に取った。写真の中には俊作と、俊作が抱いている赤ん坊の結、その横にはトトとココを抱いて微笑んでいる妻の紅子の姿があった。
俊作は亡き妻の笑顔を見て微笑んだ。亡き妻が残してくれたテディベアのココとトトはとにかく口うるさい。妻の紅子にそっくりだ。
俊作は、酒を飲んだのだからうがいをしてきてと言うココを軽くあしらって言った。
「はいはい、わかっているよ。ココもトトも紅子さんにそっくりなんだから」
「あたりまえだよ。ぼくとととはべにこのいのちがはいっているんだから」
「そうだね」
俊作は台所でうがいを済ませると、ベッドに横になった。枕元のランプを小さくする。室内はうす闇に包まれた。俊作は横に寝ているココにたずねた。
「ココは結を襲おうとした人形に心当たりがあるのかい?」
「ううん、しらないにんぎょうだった。だけどにんぎょうをあやつっていたのはにんぎょうつかいだった」
「・・・。紅子さんと結の他にも人形使いがいるのか。しかも人を傷つけようとするなんて」
「あのにんぎょうつかいは、ぼくのことをいくさにんぎょうとよんでいた」
「いくさ人形?」
戦人形と書くのだろうか。俊作はひとり言のように呟く。ココは可愛らしく首をコクリとかたむけて言った。
「むかしべにこがいってた。いくさにんぎょうはかなしいおにんぎょう。わたしはいくさにんぎょうをうごかしたくないって」
「そうか、」
ココの言葉に俊作は考え込んだ。そして妻紅子と初めて出会った時の事を思い出した。
俊作は自宅兼工房で人形修理の修行をしていた。人形修理の師匠は父親だった。とても厳しくて、若かった頃の俊作には決して人形に触れさせてもらえなかった。俊作はひたすら父親の技術を見て勉強した。
技術は教わるものではない、盗むものだ。というのが父親の口ぐせだった。だから俊作は父親から技術を習った事は一度もなかった。
あの日は父親が依頼人に修理した人形を届けに外に出ていた時だった。突然工房のドアが開いた。
そこには美しい女性が立っていた。長く艶やかな髪、大きな黒い瞳。まるで人形のような女性だった。その女性は泣いていた。目から涙をポロポロ流して。
俊作は驚きのあまり声も出せず立ちつくしていた。女性が口を開いた。
「あ、あの。ここで人形を修理してくれると聞いたのですが」
「は、はい!ですが今は職人が不在でして、」
女性はとても悲しそうな顔をした。手には二体のテディベアをしっかりと抱いていた。俊作はたまらず声をかけた。
「そのテディベアたちが壊れたんですか?」
女性はかぶりをふって答えた。
「ココとトトがケガをしてしまったの。早く治してほしくて」
彼女はそれだけ言うと、ドアの前でしゃがみこんでしまった。顔をおおってシクシクと泣いている。
すると驚くべき事が起きた。二体のテディベアがスクッと立ち上がり、しゃがみこんでいる女性の頭と背中をなで出したのだ。
まるで、僕たちは大丈夫だから泣かないでと言っているようだった。
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