薄幸召喚士令嬢もふもふの霊獣の未来予知で破滅フラグをへし折ります

盛平

文字の大きさ
上 下
14 / 87

レティシア出軍

しおりを挟む
 レティシアとマティアスは王国ゆかりの教会で慌ただしく結婚式をあげ、その直後にイグニア国へ出軍する事になった。

 軍人ではないレティシアには馬車が用意されていたが、過保護なチップが納得しなかった。

『大事なレティシアをダカダカ揺れる馬車に何時間も乗せられないよ。レティシアは僕の背中に乗ればいいよ』

 チップはそう言うと、レティシアの肩から飛び降り、魔法を発動させた。チップの小さな身体はグングン大きくなり、ライオンほどの大きさになった。

「わぁ、チップすごい」
『へへん、驚くのはこれからさ。僕は飛行魔法でどこまでだってすぐに飛んでいけるんだ。イグニア国なんてひとっ飛びだよ』

 レティシアが恐々チップの背中に乗ると、フワフワの毛が気持ち良かった。チップはレティシアが怖がらないように、出兵する兵士の列と同じ速度で飛んでくれた。

 夕方になると兵士たちは簡易テントを立てて野宿を始める。レティシアたち王族はそれよりも豪華なテントで休む事ができた。

「レティシア。疲れてはいませんか?」

 マティアスは気遣わしげにレティシアに言った。

「いえ、私はチップに乗せてもらっていたので平気です。王子殿下こそお疲れになられたのではありませんか?」
「いえ、私は軍生活が長いので苦にはなりません。レティシア、辛くなったらすぐに言ってください」
「はい、ありがとうございます」

 マティアスは小さく微笑んでからレティシアのテントを出て行った。

 レティシアは自分のテントを見回した。小さいながらも居心地がいい。マットを敷いたふかふかのベッド。小さなテーブルにイス。灯をとるためのランプ。

 レティシアはベッドにもぐりこんだ。これからこのような日が何日続くのだろうか。

 レティシアの枕元にチップが丸くなった。チップの愛らしい姿にレティシアは微笑んだ。

 本音を言えば不安で仕方がない。しかし契約霊獣のチップがいてくれれば何とかなるかもしれない。

 レティシアはそう考えてから目を閉じた。

 レティシアたちは着々とイグニア国の国境まで足を進めていた。マティアスは夕食の時に現れ、明日イグニア軍の本隊と対戦すると言った。

「明日、ですか?」
「ああ、今夜はレティシアもそのつもりで霊獣殿と過ごしてくれ」
「ですが、王子殿下。何故そのように断言できるのですか?」
「私には優秀な隠密がいるのだ。その者から確実な情報が入ったのだ」

 マティアスはそれだけ言うと、サッサとレティシアのテントから出て行った。

「チップ」
『うん』

 レティシアの呼びかけに霊獣チップが姿をあらわす。

「私、怖いわ」
『大丈夫だよ、レティシア。君は必ず僕が守るよ』
「ありがとう、チップ。だけど私、人が死ぬのが怖いの。ザイン王国軍の兵士の人たちが死ぬのは嫌だけど、イグニア軍の兵士の人たちにも死んでほしくないの」
『イグニア軍は、これからレティシアたちを傷つけようとしている奴らだよ?それでも傷つけたくないの?』
「うん。イグニア軍の人たちだって、きっと普通の人たちよ。心配している家族がいるはず」
『わかったよ、レティシア。僕が一人の人間の命も奪わないように、この戦争を終わらせてあげる』
「本当?!チップ」
『僕を誰だと思っているの?僕は尊い霊獣だよ』
「ありがとう!チップ」

 この時レティシアは、チップに危険な願いをしてしまった事をのちに死ぬほど後悔する事になる。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...