上 下
13 / 40

元気になるにはスパイスです

しおりを挟む
 もみじ、もみじ。子供たちが私を呼んでいる。誰の声かはもうわかる、獣人のセネカとヒミカだ。可愛くて強い私の命の恩人。私は重い目を開ける。辺りを見回すと、もう日が暮れかけていた。どうやら一旦休憩するつもりが、大分寝過ぎたようだ。早くセネカとヒミカにご飯を作ってあげなくては。

 さて何を作ろうか、元気になるには辛いものがいい。そうだカレーにしよう!思い立ったら私はかまどを出現させる。セネカとヒミカに枯れ木をとってきてもらう。お米は洗って水につけておく。先ずは豚肉を一口大に切って、塩コショウしてフライパンで表面を焼く。にんじん、じゃがいもを切って、りんごはすりおろす。大鍋にオリーブオイルを入れて、すりおろしたショウガを炒める。続いてにんじん、じゃがいもを炒め、あらかじめ炒めておいた豚肉を入れて、すりおろしたりんごも入れて、水を入れてふっとうさせる。アクを取ってから、コンソメを入れて煮込む。

 次にカレー粉の準備だ。私は一人暮らしなので市販のカレールーはあまり買わない。一人じゃ使いきれないからだ。カレー粉なら食べたい時に少量のカレーを作れるし、辛さの加減もできるし、カレー粉を使った違うお料理もできるからだ。オリーブオイルで小麦粉を炒める。焦がさないように気をつけながら木ベラでこまめにかき回す。そしてカレー粉を入れてさらに炒める。カレーの香りがしてきたら、大鍋のスープを少しずつ加えながら、スープでのばしていく。ペースト状になったカレー粉を大鍋に加えて、ケチャップ、ウスターソースも加え、煮込む。カレーを煮込んでいる間に、お釜に火を入れてご飯を炊く。ご飯が炊けたら、カレーの味をみて、塩と砂糖で味を整え、最後にカレー粉で風味付けをしてカレーの完成。

 お釜で炊いたご飯にたっぷりのカレーをかける。スパイスの香りが食欲をそそる。子供のセネカとヒミカに辛いカレーは大丈夫かなと思ったけれど、二人にカレーは大好評だった。辛いけど美味しいと喜んでくれた。私もスプーンでひとさじ食べてみる。美味しい、りんごの甘さの後にピリッと辛さが広がる。普段私が食べているカレーよりかは辛さはかなり控えめだけど、これはこれですごく美味しい。

 辛い辛いと言っているセネカとヒミカに、牛乳とヨーグルト、ハチミツとレモン汁を入れたラッシーも出してあげる。辛い口の中が、ラッシーのまろやかさでさっぱりする。セネカとヒミカはおかわりをたくさんして、大鍋のカレーが無くなる勢いだったが、途中でストップをかける。ある計画のためだ。ブーブー言うセネカたちのためにデザートのアイスを食べさせる。

 ようやく満足してくれたセネカたちに、今度は温かいベッドを用意してあげなければいけない。私は地面に手をついて、目を閉じて頭の中にあるものを思い浮かべた。私の前にプレハブ小屋のような建物が現れた。その建物にはドアがある。そのドアを開けると、私の住んでいたマンションの一室になっていた。中に入って電気を点けてみるが、勿論点かない。仕方がないのでランプを取り出して火を入れる。ぼんやりと室内が照らされ、元の世界に帰って来たような錯覚におちいる。セネカとヒミカは初めて見るお部屋や家具にびっくりしっぱなしだ。私ははしゃぐセネカたちをそれとなく浴室に誘導する。お風呂に入れられる事に気づいたセネカたちが逃げ出そうとするが、トビラを閉めて逃がさない。

 妥協案で、温水プール並みのお風呂の温度で入ってもらった。セネカとヒミカをお風呂から出して、身体をよく拭く。セネカは髪が短いからいいけれど、ヒミカは長くて綺麗なブロンドだ。ドライヤーを使いたいけど電気がない。私はハタと思い出してあるものを出した。災害時に使う非常用バッテリーだ。はたしてバッテリーのコンセントでドライヤーを動かす事ができた。だけどセネカとヒミカはドライヤーの大音量に驚いて逃げ回る。仕方がないので弱冷風でヒミカの髪を乾かす。

 セネカたちに歯みがきをさせるとベッドに押し込む。ヒミカがお話してと言うが、私がお風呂からでたらね。と言って目をつぶらせる。良い子のセネカとヒミカはしばらくするとスースー寝息をたてる。私はしめしめと思いながらお風呂場に行く。セネカたちが入った水のようなお湯ではなく、四十一度の適温だ。あかりはランプではなく、アロマキャンドルをたく。くらやみの中に淡い光が灯る、香りはシダーウッド。ハァッ。私はゆっくり息を吐く。温かいお湯と、穏やかな香りで身体も心もほぐれていくのがわかる。私が異世界に来て三日目の夜だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女様に貴方の子を妊娠しましたと身に覚えがないことを言われて結婚するよう迫られたのでもふもふな魔獣と旅にでることにした

葉柚
ファンタジー
宮廷魔術師であるヒューレッドは、ある日聖女マリルリから、「貴方の子を妊娠しました。私と結婚してください。」と迫られた。 ヒューレッドは、マリルリと二人だけで会ったこともなければ、子が出来るような関係を持ったこともない。 だが、聖女マリルリはヒューレッドの話を聴くこともなく王妃を巻き込んでヒューレッドに結婚を迫ってきた。 国に居づらくなってしまったヒューレッドは、国を出ることを決意した。 途中で出会った仲間や可愛い猫の魔獣のフワフワとの冒険が始まる……かもしんない。

没落令嬢カノンの冒険者生活〜ジョブ『道具師』のスキルで道具を修復・レベルアップ・進化できるようになりました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 事業に失敗した父親の借金の返済期限がやって来た。数十人の金貸し達が屋敷に入って来る。  屋敷に一人残された男爵令嬢の三女カノン・ネロエスト(17歳)は、ペットの大型犬パトラッシュと一緒に追い出された。  長い金髪を切られ、着ていた高価な服もボロ服に変えられた。  そんな行く当てのない彼女に金貸しの男が、たったの2500ギルド渡して、冒険者ギルドを紹介した。  不幸の始まりかと思ったが、教会でジョブ『道具師』を習得した事で、幸福な生活がすぐに始まってしまう。  そんな幸福な日常生活の物語。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...