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喜びの再会
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マーサは慌てて首をふると、別な事を考えるようつとめた。先の事を考えたって仕方のない事だ。
それにしても今夜の旦那さまと奥さまはおかしかった。夕方に機嫌良さそうに社交界に出発したのに、帰って来た時にはとても怒っていた。一体何があったのだろう。
きっと翌日は荒れるに違いない。マッジのような見習い使用人が給仕に入れば、きっと難くせをつけて暴力を振るわれるだろう。
泣きじゃくるメイドをなだめるのはマーサなのだ。面倒な事は避けたい。マーサの頭の中で朝の給仕の人選が浮かぶ。ベテランばかりを並べてもそれはそれで奥さまの機嫌が悪くなるだろう。
ここは中堅どころとベテランを混ぜて給仕にあたらせるしかない。考えなければならない事がいっぱいで、今夜は眠れそうになかった。
翌日ベルニ子爵夫妻は何やらゴタゴタと忙しそうだった。突然別荘に移るというのだ。ベルニ子爵夫妻が別荘に行くのは避暑のためで、この次期に別荘に行くのは珍しい。
さらに驚いたのは、まるで二度とベルニ子爵家の屋敷に戻ってこないとでもいうような荷物の量なのだ。
奥さまのドレスや宝石は大量で、馬車何台分になるだろうという多さだった。ベルニ子爵夫妻に付き添うのは、ロナルドの代わりに雇い入れた執事だけだった。
この執事はいんけんな顔つきをしていて、マーサはあまり好きになれなかった。執事は万事わたくしにお任せくださいとベルニ子爵の財産を馬車に積み上げて別荘に出発した。
その後の数日間、ベルニ子爵家の屋敷はあるじ不在だった。数日後のある日驚くべき事が起きた。
魔法学校を卒業後、ベルニ子爵家の屋敷に近寄る事を敬遠していた長女のエスメラルダが戻って来たのだ。
エスメラルダは学校卒業後、冒険者となって代金を稼ぎ出した。そのためマーサとロナルドとエスメラルダで仕組んだ、プリシラの学費の書き換えは帳消しになったのだ。
エスメラルダは屋敷の使用人すべてを大広間に集めるように言った。マーサはメイドから使用人から下男から料理人、庭師まで大広間に集めた。皆エスメラルダを不安そうに見ている。エスメラルダはよく通る声で言った。
「ベルニ子爵夫妻はウィード国王のお怒りをかいました。そのためベルニ子爵夫妻は別荘に幽閉される事になりました。よってベルニ子爵の爵位は一代かぎり私が継ぐ事になりました。私は仕事がら屋敷を留守にする事が多い。ですが皆はこれからもベルニの屋敷のために働きなさい」
マーサはエスメラルダのあまりの発言に固まってしまった。これからどうすればいいのだろうかと使用人たちが不安になったところ、エスメラルダの鋭い言葉が放たれる。
「静かに!これからは私があなた達の主人です。これまで以上に私につかえるように。それと、」
そこでエスメラルダは口ごもってから、魔法を発動させた。エスメラルダの横に大きな空間の出入り口が出現した。
そこから、質素なドレスを着た美しい娘が入って来た。
「ああ、」
マーサは思わずため息をついた。会いたくて仕方なかったプリシラだったのだ。エスメラルダは恥ずかしいのか、少しぶっきらぼうな声で言った。
「これからは、プリシラも遊びに来るから、皆心して私たちに使えなさい」
「皆さん、お久しぶりです。お姉ちゃんがベルニ子爵になったので、この屋敷に出入りする事ができるようになりました。皆さんよろしくお願いします」
昔からベルニ子爵家に使える使用人たちは歓喜の声をあげた。マーサは嬉しさのあまり目から涙をポロポロ流した。プリシラはマーサに駆け寄って抱きついて来た。
「マーサおばさん!会いたかった!」
「プリシラお嬢さま。マーサもどれほどお会いしたかった事か」
「私城下町で働いているの、だからここに来るのはたまにになるけど、マーサおばさんにお話ししたい事が山ほどあるのよ?」
「ええ、お嬢さま。ぜひお話しを聞かせたください」
プリシラは庭師の老人に駆け寄って抱きついた。
「ジョナサンおじいさん!会いたかった!腰が痛いのは大丈夫?」
「プリシラお嬢さま。大きくなられましたなぁ。わしも歳を取るわけです」
「タップが回復の魔法をかけてくれるわ。腰が痛い時はいつでも言ってね?」
プリシラは使用人一人一人の名前を呼び、言葉をかけていった。皆涙を流してプリシラとの再会を喜びあった。
エスメラルダはみけんにしわを寄せながらプリシラに言った。
「プリシラ、皆へのあいさつは後にして。こっちに戻って来て」
「ごめんなさい、お姉ちゃん」
プリシラは可愛らしく舌を出してエスメラルダのとなりに立った。プリシラの後ろには翼の生えたねずみが飛んでいる。
エスメラルダはマーサたち使用人たちを一べつしてから言った。
「私は忙しくてあまり子爵の仕事ができない。よってロナルドにもう一度執事になってもらう事にしました」
エスメラルダはもう一度、空間の出入り口を開くと、そこからつえをついた老人が現れた。懐かしいロナルドだ。
プリシラはロナルドに優しくハグをすると、彼の腕をとって支えた。エスメラルダはロナルドにうなずいてから言った。
「この通りロナルドは高齢です。皆これからロナルドの事を手助けしてください。そして使用人の中に、体調のすぐれない者がいれば、しっかりと休みを取らせるように。私はまだまだ未熟です。だから皆の力を借りたい。皆でこのベルニ子爵家を守っていってほしい」
使用人の誰かが拍手をした。その拍手はやがて皆に広がった。
それにしても今夜の旦那さまと奥さまはおかしかった。夕方に機嫌良さそうに社交界に出発したのに、帰って来た時にはとても怒っていた。一体何があったのだろう。
きっと翌日は荒れるに違いない。マッジのような見習い使用人が給仕に入れば、きっと難くせをつけて暴力を振るわれるだろう。
泣きじゃくるメイドをなだめるのはマーサなのだ。面倒な事は避けたい。マーサの頭の中で朝の給仕の人選が浮かぶ。ベテランばかりを並べてもそれはそれで奥さまの機嫌が悪くなるだろう。
ここは中堅どころとベテランを混ぜて給仕にあたらせるしかない。考えなければならない事がいっぱいで、今夜は眠れそうになかった。
翌日ベルニ子爵夫妻は何やらゴタゴタと忙しそうだった。突然別荘に移るというのだ。ベルニ子爵夫妻が別荘に行くのは避暑のためで、この次期に別荘に行くのは珍しい。
さらに驚いたのは、まるで二度とベルニ子爵家の屋敷に戻ってこないとでもいうような荷物の量なのだ。
奥さまのドレスや宝石は大量で、馬車何台分になるだろうという多さだった。ベルニ子爵夫妻に付き添うのは、ロナルドの代わりに雇い入れた執事だけだった。
この執事はいんけんな顔つきをしていて、マーサはあまり好きになれなかった。執事は万事わたくしにお任せくださいとベルニ子爵の財産を馬車に積み上げて別荘に出発した。
その後の数日間、ベルニ子爵家の屋敷はあるじ不在だった。数日後のある日驚くべき事が起きた。
魔法学校を卒業後、ベルニ子爵家の屋敷に近寄る事を敬遠していた長女のエスメラルダが戻って来たのだ。
エスメラルダは学校卒業後、冒険者となって代金を稼ぎ出した。そのためマーサとロナルドとエスメラルダで仕組んだ、プリシラの学費の書き換えは帳消しになったのだ。
エスメラルダは屋敷の使用人すべてを大広間に集めるように言った。マーサはメイドから使用人から下男から料理人、庭師まで大広間に集めた。皆エスメラルダを不安そうに見ている。エスメラルダはよく通る声で言った。
「ベルニ子爵夫妻はウィード国王のお怒りをかいました。そのためベルニ子爵夫妻は別荘に幽閉される事になりました。よってベルニ子爵の爵位は一代かぎり私が継ぐ事になりました。私は仕事がら屋敷を留守にする事が多い。ですが皆はこれからもベルニの屋敷のために働きなさい」
マーサはエスメラルダのあまりの発言に固まってしまった。これからどうすればいいのだろうかと使用人たちが不安になったところ、エスメラルダの鋭い言葉が放たれる。
「静かに!これからは私があなた達の主人です。これまで以上に私につかえるように。それと、」
そこでエスメラルダは口ごもってから、魔法を発動させた。エスメラルダの横に大きな空間の出入り口が出現した。
そこから、質素なドレスを着た美しい娘が入って来た。
「ああ、」
マーサは思わずため息をついた。会いたくて仕方なかったプリシラだったのだ。エスメラルダは恥ずかしいのか、少しぶっきらぼうな声で言った。
「これからは、プリシラも遊びに来るから、皆心して私たちに使えなさい」
「皆さん、お久しぶりです。お姉ちゃんがベルニ子爵になったので、この屋敷に出入りする事ができるようになりました。皆さんよろしくお願いします」
昔からベルニ子爵家に使える使用人たちは歓喜の声をあげた。マーサは嬉しさのあまり目から涙をポロポロ流した。プリシラはマーサに駆け寄って抱きついて来た。
「マーサおばさん!会いたかった!」
「プリシラお嬢さま。マーサもどれほどお会いしたかった事か」
「私城下町で働いているの、だからここに来るのはたまにになるけど、マーサおばさんにお話ししたい事が山ほどあるのよ?」
「ええ、お嬢さま。ぜひお話しを聞かせたください」
プリシラは庭師の老人に駆け寄って抱きついた。
「ジョナサンおじいさん!会いたかった!腰が痛いのは大丈夫?」
「プリシラお嬢さま。大きくなられましたなぁ。わしも歳を取るわけです」
「タップが回復の魔法をかけてくれるわ。腰が痛い時はいつでも言ってね?」
プリシラは使用人一人一人の名前を呼び、言葉をかけていった。皆涙を流してプリシラとの再会を喜びあった。
エスメラルダはみけんにしわを寄せながらプリシラに言った。
「プリシラ、皆へのあいさつは後にして。こっちに戻って来て」
「ごめんなさい、お姉ちゃん」
プリシラは可愛らしく舌を出してエスメラルダのとなりに立った。プリシラの後ろには翼の生えたねずみが飛んでいる。
エスメラルダはマーサたち使用人たちを一べつしてから言った。
「私は忙しくてあまり子爵の仕事ができない。よってロナルドにもう一度執事になってもらう事にしました」
エスメラルダはもう一度、空間の出入り口を開くと、そこからつえをついた老人が現れた。懐かしいロナルドだ。
プリシラはロナルドに優しくハグをすると、彼の腕をとって支えた。エスメラルダはロナルドにうなずいてから言った。
「この通りロナルドは高齢です。皆これからロナルドの事を手助けしてください。そして使用人の中に、体調のすぐれない者がいれば、しっかりと休みを取らせるように。私はまだまだ未熟です。だから皆の力を借りたい。皆でこのベルニ子爵家を守っていってほしい」
使用人の誰かが拍手をした。その拍手はやがて皆に広がった。
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