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ドウマ国王

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 三階の一室に近づくと、強い魔力を感じた。この部屋に国王がいるのだ。だらしない事に、その部屋のドアは少し開いていた。

 エスメラルダは物音をたてないように注意しながら、室内を覗き込んだ。そこには、イスにふんぞり返った一人の男が座っていた。年の頃は五十代くらいか、ヒゲをたくわえていて、目がギョロギョロとしていて、人相が悪かった。

 この男がドウマ国の王なのだ。エスメラルダはドウマ国の王に魔力感知をおこなった。そこそこの魔力を有しているが、エスメラルダの敵ではなかった。

 エスメラルダが、これからどうやって国王を倒してやろうかと考えていると、国王は機嫌良さそうに言った。

「そこのネズミ。隠れていないで出て来い」

 どうやらエスメラルダはドウマ国王に気づかれていたようだ。エスメラルダは仕方なく姿隠しの魔法を解き、国王の前に姿をさらした。

 ドウマ国王は驚いた表情をしてから、ニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべて言った。

「これはこれは美しい。ドウマ国の城へようこそ。わしはこの国の王サクマスだ。女、名は何という?」
「これが城ですって?こんなあばら屋を城と呼んでいるなんて、何てこっけいな王さまなのかしら。私が名を名乗るまでもないわ。貴方はこれから私に倒されて騎士団に連行されるの」
「この国はこれからどんどん大きくなる、国民も増える、そしてわしの子供が増える。女、喜ぶがいい。お前をわしの妃にしてやろう」

 ドウマ国王の妄言に、エスメラルダはしばし言葉を失ってから、ケラケラと笑い出した。

「私が貴方の妃ですって?冗談にしてもくだらないわ!不愉快よ取り消しなさい!」

 エスメラルダは、魔法が制限されている状態で、最大の攻撃魔法をドウマ国王に放とうとした。突然、部屋の中に四人の魔法使いが現れた。

 四人の魔法使いは空間魔法を使って現れたのではない。最初からこの部屋にいて、姿隠しの魔法を使っていたのだ。エスメラルダはうかつな事に、この四人の魔法使いの魔力を感知する事ができなかったのだ。

 エスメラルダは驚きを悟られないように、手の中に作った攻撃魔法を放たずに、様子をうかがった。

「この者たちの魔力を感知できなくて驚いているのか?無理もない。この者たちは魔力を放出しない事に長けているのだ。女、お前はわしらに気づかれずにドウマ国に入ったと思っているが、わしらは数日前からお前が国の周りを調べているのを知っておったぞ?」

 エスメラルダは表情には出さなかったが、内心かなり驚いていた。エスメラルダはドウマ国を監視し、国内に入るのに、並の魔法使いでは魔力感知できないほど、魔力を抑えこんでいたからだ。

 エスメラルダが黙っていると、ドウマ国王サクマスは上機嫌で言った。

「女、お前の魔力は大したものだ。ドウマ国の国民の中に、お前ほどの魔女はいない。だがな、この国の国民になれる者は、一つでも秀でた魔法を持っている者なのだ。一つでも秀でている者たちが集まれば、お前のような魔女にも勝つ事ができよう」

 

 

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