最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

プリシラの怒り

　プリシラたちは、エレナに先導され、スキーラ子爵の屋敷に侵入した。大きくなったタップに乗って、上空から城下町を見ても、マージとガイオの姿は確認できなかった。

　プリシラたちはスキーラ子爵の屋敷に行く事を選択した。エレナは父のガイオと共に、屋敷から逃げ出すために、何度も屋敷内を調べていたのだという。

　もしガイオたちが捕まったのだとしたら、屋敷の地下だろうとエレナが言ったのだ。屋敷内にはガラの悪い連中がウヨウヨしていた。スキーラ子爵が雇ったならず者たちなのだそうだ。

　スキーラ子爵の屋敷の警護をしているガラの悪い連中を、エレナは眠りの歌で眠らせ、エレナが眠らせ損ねた連中をプリシラとタップとトビーが風魔法で吹っ飛ばしながら進んだ。

　使用人用ドアから屋敷内に入り、エレナの案内で地下に通じる入り口を見つけた。タップの風攻撃魔法で地下の鉄格子の入り口を破壊してもらう。

　プリシラはタップにお願いして、隠しの魔法を解いて、ランプを出してもらった。ランプにあかりをつけて地下内を照らすと、長い階段が続いていた。

　地下に通じる長い階段を降りて行くと、カビ臭い臭いが辺りに充満していた。エレナは何度も地下に侵入した事があるようで、ランプを持ってスタスタと前を歩き出した。

　途中ガラの悪い連中に何度か行き会ったが、エレナとプリシラとタップとトビーの魔法で撃退した。

　人の出入りが多いとはいえない地下に人がウロウロしていると言う事は、エレナの読み通り、マージとガイオは地下の牢屋にいるのかもしれない。

　プリシラはさきほど吹っ飛ばしたガラの悪い男の一人を、風浮遊魔法で持ち上げると、天井に強めに押しつけた。気絶していた男は、苦しくなって目を覚ましたようだ。

　自分が天井に張り付いている事に気づいて悲鳴をあげている。

「ここにエレナのお父さんと女の人がいるはずよ？どこにいるの？白状しなさい！」
『おうおう、プリシラ。ずいぶんと機嫌が悪いなぁ』

　いつになくいらだっているプリシラに、腕の中のタップはからかい気味に言った。

「当たり前よ。スキーラ子爵たちがエレナたちにした事、絶対に許さないわ！」

　プリシラは硬く心に誓ったのだ。必ずエレナとガイオを助けると。

　通路の奥から、トビーの声が聞こえる。プリシラたちを呼んでいるのだ。プリシラは浮かしていた男の魔法を解いて、トビーの声のする方向に走り出した。後ろの方で男が地面に叩きつけられ、ギャっと悲鳴をあげているのを無視して。

「トビー！」

　プリシラが駆けつけると、そこには心配でたまらなかったマージとエレナの父親の姿があった。プリシラはホッとして叫んだ。

「マージさん！無事だったですね？！」
「無事なもんかよ！プリシラ、タップ。マージおばちゃん、ここの連中に殴られたんだぜ？」
　
　マージの代わりに、トビーが大声で答えた。プリシラは頭がヒヤリと冷えていくのがわかった。これは怒りの感情だ。プリシラは震える声でマージに言った。

「マージさん。大丈夫なんですか？」
「ええ。エレナが魔法で治してくれたから、もう大丈夫よ」
「マージさんを殴った相手の顔は覚えていますか？」
「？。会ったらわかると思うけど？」

　不思議そうに答えるマージに対して、プリシラは低い声で言った。

「では後で教えてください。きっちり落とし前はつけます」
「プリシラ、ぶっ殺そうぜ！」
『おうおう。殺っちまおうぜ』
「いいえ。トビー、タップ。殺してはマージさんの寝覚めが悪いわ。二度と悪い事を考えないように、しっかりと反省してもらいましょう」

　トビーとタップの過激な提案を、プリシラは訂正する。慌ててマージが止めた。

「あ、貴方たち。私は大丈夫よ？物騒な事しないで」

　マージを傷つけた怒りではらわたが煮えくりかえっているプリシラたちを、マージは困った顔で見つめていた。