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急展開

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 マージとガイオはスキーラ子爵の屋敷の地下にある牢屋に入れられた。ガイオは呪いの首輪の呪文を唱えなければけろりとしていた。

 例の魔法使いは、牢屋の外で、ギロリとガイオをにらんでいる。ガイオは魔法使いを完全に無視して、痛ましそうにマージの顔を見て言った。

「すまなかった、マージ。俺のせいでひどい目にあわせてしまって」

 ガイオの心配顔を見ると、大柄な男に叩かれた頬が相当腫れているのだろう。マージは痛む顔で無理に笑って言った。

「大丈夫よ、これくらいたいした事ないわ」
「エレナだったらそんな傷すぐに治せるんだがな」
「へぇ。ガイオの娘さんは本当にすごいんだねぇ」
「ああ、俺の娘にしては、美人で気立てもいいんだ。きっと女房に似たんだな!」

 ガイオは娘の事をたくさん話してくれた。マージも甥のトビーの事を話した。話していないと恐怖で震えてしまいそうだったからだ。

 マージはとても怖かった。これから自分はどうなってしまうのだろうか。無事にここから出て、再びトビーに会えるのだろうか。

 トビー。マージがこの世で一番大切な可愛いトビー。早くトビーに会いたかった。

 魔法使いはガイオがおとなしくしているのを確認したようだ。二人のガラの悪い部下に何か言って、牢屋から離れてしまった。

 ガイオはしばらく雑談を続けてから、ゆっくりと立ち上がった。牢屋の鉄格子に寄りかかって、見張りの男たちに声をかけた。

「なぁ、あのクソチビの魔法使いはどこに行ったんだよ」
「スキーラさまに報告に行ったんだよ。おとなしくしてろ」
「ふうん。そう、」

 ガイオはそう呟くと、おもむろに両手で鉄格子を掴んだかと思うと、驚いた事に鉄格子を素手でひん曲げてしまった。

「貴様!何をする!」

 驚いた二人の見張りはガイオを取り押さえようとするが、ガイオは瞬時に二人の見張りを手刀を入れて昏倒させてしまった。

 一連の行動を、マージは口を開けて見ていた。ガイオがマージに手を差しのべて言った。

「マージ、逃げるぞ!」

 スキーラ子爵の地下道は、まるで迷路のようだった。ガイオは地下道の順路を知っているようで、スタスタと進んでいる。ガイオは正面をにらみながらマージに言った。

「マージ。これからお前を、この屋敷から逃す。会社には戻らないで、どこか安全な場所に隠れていてくれないか?」
「ええ、わかったわ。でもガイオはどうするの?」
「俺は、城下町の中に隠れる」

 マージはわかったとうなずいた。しばらく地下道を歩くと、反響する誰かの声が聞こえた。最初はスキーラ子爵の部下たちの声かと思って身がまえたが、よくよく耳をすますと、高い子供の声のようだった。その声は、お父さんと呼んでいた。
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