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マージの思い2

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 ガイオと話していて、マージは気になった事を質問した。エレナの母親はどうしたのかと。ガイオは悲しそうな笑顔で答えた。

「エレナが五歳の時に病気で死んじまった。だから俺たちはずっと二人暮らしだ」

 ガイオは伴侶と死別しているのだ。悪い事を聞いてしまった。すぐに謝らなければと思ったのに、身体がこわばって声が出なかった。

 マージが夫と死に別れたのは、八年前の事だ。いつものように行商の仕事に出て、帰って来た時には冷たくなっていた。暴走した馬車から子供を守って死んだのだという。

 マージは、笑顔で行ってくると言った夫の事が忘れられず、今でもふらりと夫が帰って来てくれるのではないかと、ふと思ってしまうのだ。

 マージのこわばった表情を見たガイオは、何かを察したらしく笑って話題を変えた。

「そろそろ俺は行くぜ。子爵の追手がくるからな。合間を見てここに寄るから、エレナをどこの船に乗せたか教えてくれ。代金は遅くなるが必ず払う」

 ガイオはそれだけ言うと、ドアから出て行こうとした。マージは考えた。マージとトビーはしがない配達屋だが、従業員のプリシラとタップは違う。

 タップは小さなモルモットで、いつもピーピーとうるさく鳴いているが、霊獣という尊い存在なのだそうだ。プリシラはタップと契約した召喚士なのだ。プリシラとタップなら、ガイオ親子の窮地を救ってくれるのではないか。

 マージはそう思ってガイオを呼び止めようとした時、またもや乱暴にドアが開いた。

「ガイオ!ようやく見つけたぞ!娘はどこだ!」

 マージの小さな会社に、わらわらとガラの悪い連中が入って来た。その人数は十人。

「チッ、追ってきやがった。マージ、巻き込んですまねぇ。もう少し付き合ってくれ」

 ガイオはそう言うと、マージを荷物のようにこわきにかかえ、窓からヒョイと飛び出した。

 ガイオはそのまま跳躍すると、家の屋根に飛び上がり、ピョンピョンと屋根の上を飛んだ。その速さはものすごく、マージはやっとの思いで悲鳴を飲み込んで言った。

「ちょっとガイオ!貴方いったいどうなってるの?!」
「エレナほどじゃねぇけど、俺も少し魔法が使えるんだ。火魔法の派生魔法で、体力を向上させる事ができるんだ。悪りぃけど、エレナの行方を知られないために、城下町中を走り回るぜ?」
「もう、どうにでもしてくれ!」

 マージは大声で叫んだ。のりかかった船は降りるわけにはいかないのだ。
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