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エレナの魔法

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 エレナが歌を歌い終わると、小鳥たちは何事もなかったように空に飛び立っていった。

「エレナ。貴女の歌は、現実になるの?」

 プリシラが上ずった声で聞くと、エレナはさみしそうに微笑んだ。プリシラの膝の上でくつろいでいたタップが口を開いた。

『プリシラ。この小娘の魔法、すげぇぞ』
「すごいのは私にもわかるわ。だけどどこらへんがすごいのかしら?」
『この小娘の歌に魔法がやどっているんだ。つまり言霊だ』
「言霊」
『ああ、古代から言葉には魂がやどる。小娘の歌った歌が現実になっちまう。つまりだ。プリシラが牢屋にぶち込まれたとするだろ?プリシラは風魔法で牢屋の扉をぶっ壊すだろ?小娘は違う。扉を開いて、と歌えばいい。プリシラが牢屋から抜け出した事を悪人が気づけば追いかけてくるだろ?プリシラは風魔法でそいつらを吹っ飛ばす。だが娘は、悪人たちに眠ってと歌えばいい』
「エレナの歌の魔法がすごいのはわかったわ。だけど私の風魔法って、客観的に見ると物騒ねぇ」
『それは仕方ねぇ。プリシラは風のエレメントを使って風の現象を起こしているんだ。だが小娘の魔法はすべてのエレメントの融合、この世のことわりさえねじ曲げてしまえる魔法だ。もし小娘が殺したいほど気に食わねぇ奴がいたとする。小娘はただ歌えばいいんだ。崖に向かってそのまま歩き続けろって。気に食わねぇ奴は勝手に崖から落ちておだぶつだ』
「エレナはそんな事しないわよ!」
『例えばの話だ。小娘はそれが嫌でも、大切な人間を人質に取られたら言う事を聞くだろう?』

 そこでプリシラは思い出した。エレナの父親の事を。エレナの父親は、マージを危険な目にあわせても、エレナを逃したかった。つまり何かから逃げているのだ。プリシラは青ざめた顔でエレナを見つめた。エレナは悲しそうに言葉を続けた。

「お父さんは笛の名人で、私の歌にすぐ伴奏をつけてくれるの。私歌う事が大好き。私はお客さんの前で、たくさんの歌を歌ったわ。お花の歌、小鳥の歌、虹の歌。私が歌う通りに、お花が咲き乱れ、小鳥が遊びに来て、空には大きな虹がかかった。生活は貧しかったけど、私はとても幸せだった」

 そこでエレナは顔をくもらせた。しばらく黙ってから、意を決したように口を開いた。

「だけど、王都に来てから状況が変わってしまったの。私とお父さんは、城下町で興行をしたわ。私たちの芸は城下町で評判になって、貴族さまのお屋敷に招かれたの。貴族さまは私たちの芸をとても気に入ってくださって、しばらく滞在するようにと言ってくれたわ。だけど、」

 エレナはそこまで話すと、顔をゆがめた。目には涙が浮かんでいる。プリシラはタップをトビーに預けると、エレナの側に寄り、彼女の肩を抱いて言った。

「辛い話しをさせてごめんなさいね?ここからは私が話すわ。間違っていたら訂正してね?」

 エレナはプリシラを見てからコクリとうなずいた。プリシラはタップから聞いた言葉を思い返しながら言った。

「貴族さまには考えがあった。エレナの歌の魔法を我が物にする事。エレナが歌えば、どんな事も自分の思い通りになるから」

 エレナはコクリとうなずく。プリシラは言葉を続けた。

「最初は簡単なお願い事。だけど、段々と受け入れ難いお願いをされるようになった。貴女のお父さんは貴族さまに、娘にはこのような歌は歌わせたくないと拒否をした。すると貴族さまは、お父さんを人質にした。歌を歌わないと、父親を酷い目にあわせる、と」

 プリシラがそこまで話すと、エレナは耐えられなくなったようで、小さな子供のように泣き出した。エレナは泣きながら言った。

「ヒック、ヒック貴族さまは、魔法使いを使って、お父さんの首に呪いの首輪をつけたの。もし私が歌を歌わなければ、魔法使いが魔法でお父さんの首を絞める魔法を使うの。お父さんを守りたくて、私、」

 エレナはそこまで言うと、わんわんと泣き出した。プリシラはエレナを強く抱きしめて言った。

「エレナは悪くないわ。悪いのはエレナを利用するその貴族よ!その貴族の名前は?」

 エレナは小さな声で言った。スキーラ子爵と。

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