最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平

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エレナ

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 やっとトビーが落ち着いた頃、銀髪の少女が震える声で言った。

「ごめんなさい、貴方のおばさんを怖い目にあわせて。だけどこれだけは信じて?お父さんは決して善良な人を傷つけない」

 トビーはプリシラから離れると、赤くなった目を手の甲でこすってうなずいた。プリシラはホッと息を吐いてから、銀髪の少女に向かって手を差し伸べた。少女はおずおずとプリシラの手につかまった。プリシラは彼女を木箱から出すと、自己紹介をした。

「私はプリシラ。この子は相棒のタップ。そしてこの子は弟のトビーよ貴女の名前は?」
「・・・、私はエレナ」
「エレナ。いい名前ね?会社に残った銀髪の男の人はエレナのお父さんなのね?」

 エレナはこくりとうなずく。プリシラもうなずき返してから口を開いた。

「エレナ、貴女の事を見ていたら、貴方のお父さんは優しい人なんだと信じられるわ。ねぇ、教えて。どうしてエレナの優しいお父さんが、あんな事までして、エレナ一人を外国に逃がそうとしたの」

 エレナは顔をくしゃりとゆがめてから、ポロポロと涙を流して言った。

「わ、私のせいなの」

 プリシラはタップにお願いして、隠しの魔法を解いて、紅茶のセットを出してもらった。紅茶はアッサム。茶葉を蒸らした状態で保存してもらったので、すぐに飲めるのだ。

 三つのティーカップに紅茶を注いで、トビーとエレナに渡す。トビーは猫舌なのでしきりにフーフーと息を吹きかけている。紅茶のお供はダニエラとイヴァンの作ったクッキーだ。トビーとエレナにはダニエラの美味しいクッキーを。プリシラは覚悟を決めてイヴァンの作った苦味のあるクッキーを食べた。タップはりんごをかじっている。

 紅茶を飲んだエレナは少し落ち着いてから、ゆっくりと話し始めた。

「私はお父さんと旅芸人として旅をしていたの。お母さんは私が小さい頃亡くなってしまったけど、お父さんがいてくれるから寂しくなかったわ」

 エレナの生い立ちにトビーは顔をゆがめた。自分の生い立ちと重ねているのだろう。

「私、魔法が使えるの。歌の魔法」
「歌の魔法?」

 プリシラの質問に、ティーカップを持ったエレナが微笑んだ。口で説明するより実際に見てもらった方がわかりやすいと、エレナは歌を歌い出した。

 朝露に濡れた大地に若葉があふれる。色とりどりの花が咲き乱れる。赤、黄色、ピンク。

 エレナの透き通った歌とともに、大地から芽が生えて、やがて見事な花畑になった。エレナの歌の通り、色とりどりの花が咲いている。

「キャァ、何て綺麗なの!」
「土植物魔法じゃねぇか。珍しくもない」

 歓声をあげるプリシラに対し、トビーはつまらなさそうだ。トビーのぼやきにエレナは微笑み、歌を続けた。

 花の香りに誘われて、小鳥が空から舞い降りる。彼らの翼は艶やかで、青、緑、黄色。お日さまの光で輝くの。

 エレナの周りに小鳥がやって来た。エレナの歌の通り、小鳥は青や緑や黄色の羽をした美しい鳥たちだ。

「ウソ、歌の通りだわ」

 プリシラは思わず呟いた。エレナの肩や頭には、小鳥たちがとまり、エレナの歌に合わせて美しい鳴き声を奏でていた。



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