上 下
115 / 175

エスメラルダの執着

しおりを挟む
 それまで余裕の笑みを浮かべていたエスメラルダの顔が急にこわばったかと思うと、彼女は悪魔のような恐ろしい顔になって言った。

「私のプリシラへの気持ちを、流感みたいな感情に例えないでくれる?プリシラは私のすべてなの、私がこの世にいる理由はプリシラを幸せにするためだけなの。そのためには貴方は邪魔なの。消えてちょうだい」

 エスメラルダは背後の巨大な火の鳥に合図を送った。すると火の鳥は、無数の火のかたまりを作り出した。まずい、リベリオは慌てて水のドラゴンに合図を送った。最大限の水魔法で火魔法の攻撃に対抗しろ、と。

 水のドラゴンは激しく咆哮すると、何本もの水柱を発生させた。水柱は、火のかたまりめがけて、うねりぶつかった。

 火のかたまりは水柱に当たり、相殺されたのだ。安心したのも束の間、火の鳥は後から後から火のかたまりを作り出した。

 水のドラゴンは水柱を操り、火のかたまりを撃破していく。だが数が多すぎた。

 水のドラゴンが撃破し損ねた火のかたまりが、リベリオめがけて飛んできた。リベリオは風防御魔法を発動させようとした。だが、見えない風の壁は発生しなかった。魔力切れだ。リベリオは火のかたまりの直撃を受けると、地上に落下し始めた。

 最後の魔力を振り絞って、水のドラゴンに合図を送る。水のドラゴンは、火の鳥への攻撃をやめて、リベリオめがけて飛んできた。あわや地面にたたきつけられる直前、水のドラゴンはリベリオを空中でキャッチした。

 リベリオは全身の火傷の痛みにうめきながら、ゆっくりと地上に着地した。地面に着地した直後、水のドラゴンは役目を終えて消えていった。

 リベリオはか細いため息をついた。どうやらエスメラルダは、リベリオにとどめを刺す気はないらしい。これは脅しなのだろう。もうプリシラに近づくなという。それにしても念が入っている。

 リベリオは全身火傷を負い、服はぼろぼろになってしまった。早く治癒魔法をしなければ感染症にかかってしまう。

 リベリオは今にも気絶しそうな状態になりながらも、細く呼吸を繰り返した。魔力の回復を促すのは呼吸だ。自然界の火、水、風、大地からのわずかな魔力を吸収するのだ。

 どれほど時間が経っただろうか。何度も気絶しそうになりながら、やっと治癒魔法ができるだけの魔力が回復した。リベリオは、最後の力を振り絞り治癒魔法の呪文を唱えた。

 リベリオの身体中を光が包む。焼けるような痛みがじわじわと引いていく。リベリオは死の危機から脱したのだ。

 次にリベリオが目を覚ますと、あたりは真っ暗になっていた。身体を動かしてみると何とか動く事がわかった。リベリオは土生成魔法で着ている衣服を元に戻すと、ゆっくりと飛行魔法で空を飛んだ。早く屋敷に帰らなければ、年老いた執事や使用人が心配するだろう。

 リベリオは星の輝く空を飛びながら、先ほどの出来事をぼんやりと考えていた。プリシラの姉エスメラルダは、けた外れの魔女だった。

 リベリオはもっと魔法を磨こうと思った。リベリオは自分よりも強い魔法使いに初めて出会ったのだ。今後もエスメラルダの妨害に合うだろうが、プリシラの事も絶対諦めないと決めた。

 これからの目的が決まって、リベリオはすっきりした。エスメラルダとの戦いは、少しだけ愉快だったのだ。魔力を最大限まで出す魔法戦は初めてだった。リベリオはニヤリと笑ってから、空を飛ぶ速度を速めた。


 

しおりを挟む

処理中です...