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リベリオの苦悩3

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 リベリオはいち早く社交界の開場である大広間に来ていた。まだ数えるほどの貴族しか来てはいなかった。

 リベリオは社交界という場所が苦手だった。お互いの利益だけを求めた腹の探り合いは性に合わなかった。それはリベリオの父前デムーロ伯爵も同じで、ちっとも足を運ぶ事はなかった。

 顔見知りの貴族たちとうわっつらだけのあいさつを交わしていると、だんだんと人が集まってきた。その中にパルヴィス公爵家族もいた。両親に守られるようにプリシラがいた。

 プリシラは神々しいほどの美しさだった。純白のドレスに、結い上げた髪にティアラを飾り、手には白い手袋。リベリオの目はプリシラに釘づけになった。

 社交界デビューをする令嬢たちが次々に集まって来た。これからウィード国王に拝謁するのだ。どの令嬢たちも美しかったが、中でもプリシラは抜きん出ていた。

 無事に国王への拝謁が終わると、ダンスが始まる。リベリオはプリシラの最初のダンスを任されているのだ。

 リベリオは激しく緊張していた。令嬢のダンスのエスコートなど、何度もした事がある。だが今回ばかりは勝手が違う。リベリオが心から愛する女性をエスコートするのだ。

 リベリオは緊張がばれないようにプリシラにうやうやしく礼をし、彼女の手を取った。

「プリシラさま。今夜は一段とお美しい」
「ご冗談ばっかり。わたくし、ダンスのレッスンはした事がありますが、実際に踊るのは初めてなの。足を踏んだらごめんなさい」
「私の足でよければ、何度でも」

 リベリオの冗談に、緊張しきりだったプリシラが微笑んだ。その笑顔の美しさは、まるで天使のようだった。否、リベリオは天使を見た事がない。天使という存在がいるとすれば、きっとプリシラのようだと思ったのだ。

 プリシラのダンスは初めてとは思えないほど優雅だった。一曲踊り終えて、リベリオがプリシラを休ませようと手を引いていると、無作法な男女が現れた。

 ベルニ子爵夫妻。プリシラを捨てた憎き相手だ。パルヴィス公爵の養女になったプリシラに、ベルニ子爵夫妻がすり寄ってくるのは予測済みだったが、リベリオは気分を害した。この二人がプリシラを傷つけたのだ。

 リベリオは手はず通り、パルヴィス公爵夫妻に合図を送った。パルヴィス公爵夫妻の登場で、一度はベルニ子爵夫妻を追い払う事ができたが、これからも目を光らせていなければいけない。

 リベリオが心配しなければいけないのは、ベルニ子爵夫妻だけではなかった。若き貴族たちがこぞってプリシラにダンスを申し込むのだ。

 たいがいの貴族が、爵位を受け継ぐ事のできない次男三男が多い。もしプリシラのハートを射止めれば公爵の座を得る事ができるのだ。若い貴族たちは目をぎらつかせながらプリシラに擦り寄った。

 リベリオはすかさずプリシラを背後にかばって、相手を追い払った。リベリオの態度を見たら、きっとプリシラの結婚相手はリベリオだと思うだろう。

 だが実際はまったくもってそうではない。リベリオはパルヴィス公爵の厳命を受けて、番犬のような役回りをしているにすぎない。

 リベリオがプリシラを守ってやると、背後にかばっていたプリシラが、リベリオのそでを小さく引っ張った。リベリオが振り向くと、プリシラは照れくさそうに笑って言った。

「リベリオさま。ありがとうございます」

 その仕草も笑顔もとびきりに可愛くて、リベリオは自分の顔がやにさがるのを必死でこらえた。

 
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