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プリシラを取り巻く環境

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「おば上、そんなにドリスを甘やかさないでください」

 ベルニ子爵が苦虫を噛みつぶした顔で、プリシラたちを見ていると、何とそこにウィード国王がやって来たのだ。

「あら、お父さま。せっかく大おばさまが提案してくださったのよ?辞退するなんてできないわ?」

 ドリス王女は父親であるウィード国王をにらみつける。ウィード国王は娘を慈愛の目で見つめながら苦笑した。

「よいではないか国王よ。可愛い娘たちの願いだ、聞き入れてやろう」

 それまで黙っていたパルヴィス公爵が、プリシラの肩を抱きながら言った。ウィード国王は、いたずらが見つかった子供のような顔で答えた。

「おじ上まで、そんな事をおっしゃって」

 困り顔の国王に、プリシラは苦笑しながら言った。

「国王陛下。ドリス王女はわたくしが必ず送り迎えをいたします。ご安心ください」
「うむ。プリシラがそう言うのならば安心だ」

 国王の言葉に今度はドリス王女がむくれる。

「お父さま。プリシラの意見は聞き入れてくださるのに、何でわたくしの意見は聞いて下さらないのですか?」
「む、そうではない。ただ私は、」

 ウィード国王は娘の不機嫌にたじろいだように言葉をにごした。プリシラがすかさず加勢に入る。

「国王陛下はドリス王女さまの事が心配なのですよ?ですが、ドリス王女さまが本当に、お時間の空いている時しかいけませんよ?」
「わ、わかっておる。会議をサボると言ったのは冗談だ。ちゃんと空いている時間に大おじさまのお屋敷でお茶会をするのだぞ?」
「はい、ドリス王女さま。楽しみにしております」

 ドリス王女はやっと機嫌がなおったようで、満足そうにうなずいた。

 ベルニ子爵は、あの場にいるプリシラが羨ましくて仕方なかった。プリシラがベルニ子爵家の実子である事がパルヴィス公爵夫妻に認められれば、あの場に自分もいられるのだ。

 国王と言葉を交わす事ができる立場。貴族にとってこれほど栄誉な事はない。

 ベルニ子爵が歯噛みしながらプリシラたちを見ていると、会場のドアの方がざわざわとうるさくなった。ベルニ子爵が振り向くと、娘のエスメラルダが入って来るのが見えた。

 あれほど普通のドレスを着てこいと言ったのに、エスメラルダは真っ黒なドレスを着込んで堂々と歩いていた。髪はゆいあげずに、長い髪を肩までたらしている。美しくないわけではない。否、エスメラルダはこの世のものとも思えないほど美しかった。

 その美しさは清楚とは程遠い、妖艶な美しさなのだ。貴族たちは口々にエスメラルダのうわさをする。

 まぁ、見て、何て恥さらしなのかしら。社交界にあんないでたちで来るなんて。

 きっと目立ちたいのよ。何とかと煙は高いところが好きというではありませんか。

 ベルニ子爵は大声をあげたい衝動にかられたが、何とか飲み込んだ。今は愚息女のエスメラルダの事はどうでもいい。捨てたプリシラの事が先決だ。

 

 
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