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捨てた娘

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 ベルニ子爵夫人はヒステリックな声でグチを言っていた。ベルニ子爵は妻のみにくい顔をぼんやりと見ていた。どうしてこんな事になってしまったのだろう。ベルニ子爵は先ほどまでに起きた出来事が現実とは思えなかった。

 捨てた娘が公爵令嬢になって現れ、父親であるベルニ子爵を知らない相手のように見たのだ。

「バカにして、プリシラなんてエレメント使いのくせに。エレメント使いはおとなしく魔法使いのいう事を聞いていればいいのよ!」

 妻のグチにベルニ子爵はハッとした。プリシラはベルニ子爵たちのした仕打ちに怒っているのだ。妻の言う事ももっともだ。プリシラは崇高な魔法使いではない。ただのエレメント使いなのだ。

 ならばベルニ子爵夫妻に従わなければいけないはずた。ベルニ子爵は妻に向きなおって言った。

「プリシラは私たちが捨てた事を根に持っているのだ」
「まぁ、なんてずうずうしい!」
「まぁ、仕方ない。プリシラはエレメント使いだから高貴な私たちの考えが理解できないのだ。だが姉のエスメラルダには恩があるはずだ。エスメラルダはプリシラを召喚士養成学校に入れてやった。エスメラルダの言う事なら聞くだろう。エスメラルダから、私たちを実父母としてパルヴィス公爵夫妻に紹介してもらえばいい。それにしてもあのバカ娘、一体いつになったらやって来るのだ!」

 ベルニ子爵は思わず、ここにはいない娘に怒鳴った。必ず来ると約束させたエスメラルダは、一向に来る気配がなかった。

 ベルニ子爵はイライラしながら辺りを見ていると、プリシラは若い貴族の令息たちにひっきりなしにダンスに誘われていた。

 無理もないだろう。決して養子を取らなかったパルヴィス公爵が養女を迎えたのだ。プリシラのハートを射止めれば、将来は公爵の座が約束されている。それに、プリシラはこの社交界で、どの令嬢よりも美しい。

 プリシラは令息たちのダンスの誘いに困っているようだ。デムーロ伯爵が、騎士よろしくプリシラを背にかばい、貴族の令息から守っていた。

 プリシラとデムーロ伯爵は初対面ではないのだろう。とても打ち解けた様子が見てとれる。

 会合が終盤に差しかかると、ダンスは終わり、貴族たちの世間話が始まった。だがこれはただの世間話ではない。ここで行われたたわいもない会話が、今後の政治に影響する事も多大にあるのだ。

 パルヴィス公爵夫妻の側にいるプリシラには、なんとドリス王女が話しかけていた。

 ドリス王女は美しく聡明な王女だ。この間も、こう着状態におちいっていた、森の民との抗争を、話し合いで解決し、和平条約まで結んでしまったのだ。

 時期ウィード国王は、ドリス王女がなるのではないかともっぱらのうわさだ。ドリス王女はプリシラに気さくに声をかけていた。

「プリシラ、ひどいではないか。わたくしのお茶の誘いを無視するとは」
「申し訳ありません、ドリス王女さま。仕事が立て込んでおりましたもので」

 プリシラはドリス王女に臆するでもなく、友人に対するように穏やかな会話をしていた。

「仕事か、ならば仕方ない。ならばいつが空いているのだ?チコとサラも誘ってお茶会をしよう」
「わたくしよりも、ドリス王女さまの方がはるかにお忙しいではありませんか」
「それはいいのだ。重要な会議に出席すると言えば時間は作れる」

 ドリス王女の無茶な誘いに、プリシラが困り顔でいると、パルヴィス公爵夫人がクスクス笑いながら言った。

「まぁまぁ、ドリス王女。まるで子供みたいな事を言って」
「大おばさま。わたくしだって年頃の娘ですよ?友達と一緒に遊びたいのです」
「まぁ、それならわたくしたちの屋敷にいらっしゃいな。ドリス王女もプリシラのお友達も呼んで」
「本当ですか?!大おばさま!」

 ドリス王女はプリシラの手を取ってキャラキャラ笑った。
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