90 / 175
夕陽の誓い
しおりを挟む
「綺麗ねぇ」
プリシラは思わず呟いた。夕陽は海の水面を淡く照らし、キラキラと輝いている。タップはプリシラの腕の中で、大あくびをしながら答えた。
『人間ってのは変わってるなぁ。日がのぼって沈むなんて当たり前だろう。何で見たがるんだ?』
「そうねぇ。当たり前な事を見る事ができる幸せをかみしめているんだと思う」
『当たり前が幸せ?』
「そうよ。人間の幸せは、ちょっとした事ですぐ壊れてしまう。その時に初めて、普通がいかに幸せだったかって気づくのよ。だから公爵さまと奥さまは、今とても幸せなのよ」
タップは興味なさげに、ふうんと答えた。プリシラは浜辺にたたずむ老夫婦ごしに、自然の芸術を堪能した。
やがて日が沈み、辺りは夕闇に包まれた。これ以上浜辺にいては、パルヴィス公爵夫妻の身体が冷えてしまう。プリシラは夫妻に声をかけた。
「公爵さま、奥さま。そろそろ戻りましょう。海風はお身体にさわります」
パルヴィス公爵夫妻は、おだやかな笑顔で戻って来た。パルヴィス公爵は妻をしっかり抱きしめたまま、言った。
「プリシラ、タップ。わしらのために、本当にありがとう。プリシラ、もう一つ願いを聞いてくれないだろうか?」
「はい、私にできる事でしたら何なりと」
パルヴィス公爵は、妻と微笑みあったから口を開いた。
「プリシラ。そなたをわしら夫婦の養女にしたいのだ。どうか受け入れてくれないだろうか?」
笑顔だったプリシラの顔が、ピシリと固まった。プリシラがパルヴィス公爵の養女になる。その言葉を耳で聞いても、頭で情報を処理する事が追いつかなかった。
「こ、公爵さま!いけません。私は平民です。公爵家の養女など恐れ多いです」
「プリシラ。申し訳ないと思ったが、そなたの出自を調べたのだ。そなたはベルニ子爵家の次女だ。貴族の教育を受けているそなたならば、パルヴィス公爵家の令嬢になっても、なんら困る事はないだろう」
プリシラがなおも渋っていると、公爵夫人がプリシラの手を取って言った。
「お願いよ、プリシラ。わたくしたちには子供がいないわ。貴女が娘になってくれたら、わたくしたちの残り少ない人生がどれほど楽しくなるでしょう。それにね、プリシラはトビーのお姉さんでしょ?わたくしたちがトビーの助けになりたくても、トビーが困った時に、もうわたくしたちはこの世にいないかもしれない。だけど姉であるプリシラが公爵令嬢ならば、トビーを助けてあげられるでしょ?」
プリシラはパルヴィス公爵夫妻に、トビーと姉弟になったと話した事がある。公爵夫妻はそれを覚えていたのだ。
自分がパルヴィス公爵家の養女になり、公爵令嬢になるなど、恐れおおくてとてもなれるとは思えなかった。だがもしパルヴィス公爵夫妻が公爵という身分ではなく、平民の老夫婦だったら、プリシラは養女になりたいと思った。優しくて穏やかな老夫婦の養女に。プリシラはしばらく考えてから口を開いた。
「公爵さま、奥さま。私は両親には捨てられましたが、実の姉は私の事を大事にしてくれました。姉に相談してもよろしいですか?」
プリシラの提案を、パルヴィス公爵夫妻は快諾した。善は急げと公爵夫妻にせきたてられ、プリシラは通信魔法具のペンダントに語りかけた。
「お姉ちゃん、今大丈夫?」
「どうしたの?プリシラ」
姉はすぐに浜辺にやって来た。
プリシラは思わず呟いた。夕陽は海の水面を淡く照らし、キラキラと輝いている。タップはプリシラの腕の中で、大あくびをしながら答えた。
『人間ってのは変わってるなぁ。日がのぼって沈むなんて当たり前だろう。何で見たがるんだ?』
「そうねぇ。当たり前な事を見る事ができる幸せをかみしめているんだと思う」
『当たり前が幸せ?』
「そうよ。人間の幸せは、ちょっとした事ですぐ壊れてしまう。その時に初めて、普通がいかに幸せだったかって気づくのよ。だから公爵さまと奥さまは、今とても幸せなのよ」
タップは興味なさげに、ふうんと答えた。プリシラは浜辺にたたずむ老夫婦ごしに、自然の芸術を堪能した。
やがて日が沈み、辺りは夕闇に包まれた。これ以上浜辺にいては、パルヴィス公爵夫妻の身体が冷えてしまう。プリシラは夫妻に声をかけた。
「公爵さま、奥さま。そろそろ戻りましょう。海風はお身体にさわります」
パルヴィス公爵夫妻は、おだやかな笑顔で戻って来た。パルヴィス公爵は妻をしっかり抱きしめたまま、言った。
「プリシラ、タップ。わしらのために、本当にありがとう。プリシラ、もう一つ願いを聞いてくれないだろうか?」
「はい、私にできる事でしたら何なりと」
パルヴィス公爵は、妻と微笑みあったから口を開いた。
「プリシラ。そなたをわしら夫婦の養女にしたいのだ。どうか受け入れてくれないだろうか?」
笑顔だったプリシラの顔が、ピシリと固まった。プリシラがパルヴィス公爵の養女になる。その言葉を耳で聞いても、頭で情報を処理する事が追いつかなかった。
「こ、公爵さま!いけません。私は平民です。公爵家の養女など恐れ多いです」
「プリシラ。申し訳ないと思ったが、そなたの出自を調べたのだ。そなたはベルニ子爵家の次女だ。貴族の教育を受けているそなたならば、パルヴィス公爵家の令嬢になっても、なんら困る事はないだろう」
プリシラがなおも渋っていると、公爵夫人がプリシラの手を取って言った。
「お願いよ、プリシラ。わたくしたちには子供がいないわ。貴女が娘になってくれたら、わたくしたちの残り少ない人生がどれほど楽しくなるでしょう。それにね、プリシラはトビーのお姉さんでしょ?わたくしたちがトビーの助けになりたくても、トビーが困った時に、もうわたくしたちはこの世にいないかもしれない。だけど姉であるプリシラが公爵令嬢ならば、トビーを助けてあげられるでしょ?」
プリシラはパルヴィス公爵夫妻に、トビーと姉弟になったと話した事がある。公爵夫妻はそれを覚えていたのだ。
自分がパルヴィス公爵家の養女になり、公爵令嬢になるなど、恐れおおくてとてもなれるとは思えなかった。だがもしパルヴィス公爵夫妻が公爵という身分ではなく、平民の老夫婦だったら、プリシラは養女になりたいと思った。優しくて穏やかな老夫婦の養女に。プリシラはしばらく考えてから口を開いた。
「公爵さま、奥さま。私は両親には捨てられましたが、実の姉は私の事を大事にしてくれました。姉に相談してもよろしいですか?」
プリシラの提案を、パルヴィス公爵夫妻は快諾した。善は急げと公爵夫妻にせきたてられ、プリシラは通信魔法具のペンダントに語りかけた。
「お姉ちゃん、今大丈夫?」
「どうしたの?プリシラ」
姉はすぐに浜辺にやって来た。
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる