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トビーの願い

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 パルヴィス公爵の体調がだいぶ回復すると、ある願い事をされた。パルヴィス公爵夫妻がトビーに会いたいというのだ。

 パルヴィス公爵の病状は回復したので、トビーは公爵家に薬を届けなくてよくなったため、会う機会がなかったのだ。

 プリシラはパルヴィス公爵の回復魔法をする際にトビーも連れて行った。

「まぁ、トビー。よく来てくれたわね」

 パルヴィス公爵夫人は、嬉しそうにトビーを迎え入れた。

「ばぁちゃん、久しぶり。じぃちゃんが元気になって良かったな!」

 トビーは、相手が公爵夫人という、雲の上のような人に対しても容赦がない。プリシラは顔を青ざめさせ、胃を抑えていた。

「トビー、本当にありがとう。トビーのおかげで主人は元気になったのよ?」

 公爵夫人はニコニコ笑いながら、トビーとプリシラたちをうながした。連れられて入った部屋には、豪華な食事がテーブルいっぱいに並んでいた。

 テーブルの上座には、パルヴィス公爵が座っていた。

「君がトビーか。わしはサスキアの夫だ。妻から君の話しをよく聞いていた。本当にありがとう」

 トビーはトコトコとパルヴィス公爵の側まで行くと、彼の細い腕をポンポン叩きながら答えた。

「じぃちゃん、よかったな。元気になって。これからはばぁちゃん悲しませちゃだめだぜ?ばぁちゃん、城下町の真ん中で泣いてたんだからな!男は女を泣かせちゃいけないんだぞ?」
「おお、そうだな。肝にめいじるぞ。わしは今後決してサスキアを泣かせない」

 トビーの失礼な態度に、パルヴィス公爵は上機嫌に答えた。

 公爵のすすめで、プリシラたちは豪華な食事をごちそうになった。トビーとタップは遠慮のかけらもなく、食べている。プリシラはパルヴィス公爵夫妻との食事に緊張し、食事がのどを通らなかった。

 食事がひと段落し、トビーがデザートを綺麗に食べ終えた後、パルヴィス公爵は口を開いた。

「のぉ、トビー、プリシラ、タップ。今回はそなたたちに大変世話になった。わしらはそなたちに礼がしたいのだ。何かわしらにできる事はないか?」

 パルヴィス公爵の申し出に、プリシラは恐縮して首を振ったが、テーブルの上のタップはりんご、りんごとうるさい。

 トビーはきょとんとして、しばらく考えるそぶりをしてから口を開いた。

「そうだなぁ。じゃあ、お客さんを紹介してよ?」
「うむ、客とな」

 トビーの答えにパルヴィス公爵は首をかしげた。期待していた願い事と違ったようだ。

「うん。俺、仕事いっぱいして、マージおばちゃんに楽させてやるんだ」
「マージ、おばちゃん?」
「俺の死んだ母ちゃんの姉だ。俺を引き取って育ててくれてるんだ。だから俺、おばちゃんに恩返ししたいんだ」

 パルヴィス公爵夫妻は、ハッとした顔になり、柔らかな笑顔になった。パルヴィス公爵は大きくうなずいて答えた。

「うむ、あいわかった。トビーには良い客を紹介しよう。ではプリシラとタップはどうかな?」
「公爵さま、もったいないお言葉です。私もトビーと同じで、マージ運送会社にお客さんを紹介していただきたいです。それと、タップには、できればたくさんのりんごを、」

 プリシラの答えにも、パルヴィス公爵夫妻は困った顔をしていた。どうやらプリシラも公爵夫妻の望む答えを言えなかったようだ。

 パルヴィス公爵は、プリシラの願いも聞き届けると約束し、タップにはたくさんのりんごをくれた。

 帰り際、マージに持って行ってくれと、トビーにたくさんのお土産を持たせた。

 去り際に、公爵夫人はトビーの目線までかがみこんで言った。

「トビー。もし困った事が起きて、わたくしたちにできる事があったら、何でも言ってちょうだいね?」
「困った事?」

 トビーは不思議そうに首をかしげた。公爵夫人は優しく微笑んでいた。

「よくわかんねぇけど、わかった。じゃあな、じぃちゃん、ばぁちゃん」

 プリシラは抱いているタップにお願いして、大きくなってもらった。プリシラとトビーはタップの背に乗り、パルヴィス公爵夫妻に別れを告げた。

 
 
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