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パルヴィス公爵2
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「旦那さまと奥さまにはお子さまがいらっしゃいませんが、お二人はとても仲むつまじくて、私たちも嬉しくなってしまうんです」
メイドは嬉しそうに話しをしてくれた。どうやらパルヴィス公爵夫妻は使用人たちにも優しく、とても仲の良い夫婦のようだ。自然プリシラも笑顔になる。
それまで楽しそうだったメイドは顔をくもらせた。
「旦那さまは元々身体の弱いお方でした。月に一度伏せってしまう事がありって、だけど少し前からそれが月に何度も起こって。今ではベッドから起き上がれなくなってしまわれたんです」
「公爵さまのお世話をする使用人の方にお話を聞けないかしら?」
「いいえ。旦那さまのお世話はすべて奥さまがされるのです」
プリシラは驚いてしまった。公爵夫人がみずから夫の介護をするなど、少し奇妙に思えた。メイドの話しでは、食事の世話から、身の回りの世話まですべて公爵夫人が一人で行うらしい。プリシラは決心してメイドに言った。
「公爵さまのところに案内してもらえませんか?」
「それはいけません。奥さまから固く言いつけられているのです。旦那さまのお部屋へは、誰も入ってはいけないと」
プリシラはがまん強くメイドを説得した。これはプリシラが勝手に行動した事。メイドの責任ではない。プリシラのしつこさに負けて、メイドは公爵の寝室に案内してくれた。
公爵の寝室の前に立ったプリシラは、腕の中のタップにお願いした。
「タップ。このドアのカギを壊して?」
『おいおい、いいのかよプリシラ。いくら高貴な霊獣の俺でも、本当に死にそうな人間は治せないんだぜ?公爵って偉いやつなんだろ?部屋に乗り込んで、公爵の病気を治せませんでしたじゃあ、後でおとがめがあるんじゃねぇか?』
「タップ。お願い」
『まぁ、いいけどよ』
タップは風攻撃魔法で、ドアのカギを破壊した。プリシラは注意深く室内に入ると、驚きの声をあげた。その部屋は豪華な部屋ではあるのだが、壁一面に焼けこげた跡が無数にあるのだ。まるで火がついた玉を投げつけたような跡だった。
「サスキア、サスキア」
部屋の奥からか細い老人の声がした。きっとパルヴィス公爵なのだろう。プリシラは意を決して、公爵のベッドの前に立った。
パルヴィス公爵は細木のように痩せ細った老人だった。目だけがギョロギョロと動いていた。
「貴様は誰だ。わしの部屋に無断で入るなど、無礼ではないか。サスキアはどうした」
サスキアとは公爵夫人の事だろう。プリシラは非礼を詫びてから答えた。
「パルヴィス公爵さま、無礼をお許しください。奥さまはお倒れになられました」
「何、サスキアが?妻は、妻は大丈夫なのか?」
「はい、ご安心ください。奥さまは心労のため、お休みになっております。目が覚めれば元気になります」
「・・・。そうか、」
危機迫っていたパルヴィス公爵の表情が、ほっと穏やかになった。公爵夫人の事をよほど気にかけていたようだ。プリシラは時を見計らってから口を開いた。
「パルヴィス公爵さま。わたくしは奥さまに雇われたしがない配達屋にございます。ですが、わたくしと契約している霊獣は強大な魔力を有しております。どうかわたくしの契約霊獣に、公爵さまのお身体を診させていただけませんでしょうか」
「もうよい、さがれ。妻にこわれて、あまたの薬を飲んだ。もうたくさんだ、妻が起きたら部屋に呼んでくれ」
パルヴィス公爵はおっくうそうに答えた。それだけ言うと、目をつむり黙ってしまった。取りつく島もなかった。
メイドは嬉しそうに話しをしてくれた。どうやらパルヴィス公爵夫妻は使用人たちにも優しく、とても仲の良い夫婦のようだ。自然プリシラも笑顔になる。
それまで楽しそうだったメイドは顔をくもらせた。
「旦那さまは元々身体の弱いお方でした。月に一度伏せってしまう事がありって、だけど少し前からそれが月に何度も起こって。今ではベッドから起き上がれなくなってしまわれたんです」
「公爵さまのお世話をする使用人の方にお話を聞けないかしら?」
「いいえ。旦那さまのお世話はすべて奥さまがされるのです」
プリシラは驚いてしまった。公爵夫人がみずから夫の介護をするなど、少し奇妙に思えた。メイドの話しでは、食事の世話から、身の回りの世話まですべて公爵夫人が一人で行うらしい。プリシラは決心してメイドに言った。
「公爵さまのところに案内してもらえませんか?」
「それはいけません。奥さまから固く言いつけられているのです。旦那さまのお部屋へは、誰も入ってはいけないと」
プリシラはがまん強くメイドを説得した。これはプリシラが勝手に行動した事。メイドの責任ではない。プリシラのしつこさに負けて、メイドは公爵の寝室に案内してくれた。
公爵の寝室の前に立ったプリシラは、腕の中のタップにお願いした。
「タップ。このドアのカギを壊して?」
『おいおい、いいのかよプリシラ。いくら高貴な霊獣の俺でも、本当に死にそうな人間は治せないんだぜ?公爵って偉いやつなんだろ?部屋に乗り込んで、公爵の病気を治せませんでしたじゃあ、後でおとがめがあるんじゃねぇか?』
「タップ。お願い」
『まぁ、いいけどよ』
タップは風攻撃魔法で、ドアのカギを破壊した。プリシラは注意深く室内に入ると、驚きの声をあげた。その部屋は豪華な部屋ではあるのだが、壁一面に焼けこげた跡が無数にあるのだ。まるで火がついた玉を投げつけたような跡だった。
「サスキア、サスキア」
部屋の奥からか細い老人の声がした。きっとパルヴィス公爵なのだろう。プリシラは意を決して、公爵のベッドの前に立った。
パルヴィス公爵は細木のように痩せ細った老人だった。目だけがギョロギョロと動いていた。
「貴様は誰だ。わしの部屋に無断で入るなど、無礼ではないか。サスキアはどうした」
サスキアとは公爵夫人の事だろう。プリシラは非礼を詫びてから答えた。
「パルヴィス公爵さま、無礼をお許しください。奥さまはお倒れになられました」
「何、サスキアが?妻は、妻は大丈夫なのか?」
「はい、ご安心ください。奥さまは心労のため、お休みになっております。目が覚めれば元気になります」
「・・・。そうか、」
危機迫っていたパルヴィス公爵の表情が、ほっと穏やかになった。公爵夫人の事をよほど気にかけていたようだ。プリシラは時を見計らってから口を開いた。
「パルヴィス公爵さま。わたくしは奥さまに雇われたしがない配達屋にございます。ですが、わたくしと契約している霊獣は強大な魔力を有しております。どうかわたくしの契約霊獣に、公爵さまのお身体を診させていただけませんでしょうか」
「もうよい、さがれ。妻にこわれて、あまたの薬を飲んだ。もうたくさんだ、妻が起きたら部屋に呼んでくれ」
パルヴィス公爵はおっくうそうに答えた。それだけ言うと、目をつむり黙ってしまった。取りつく島もなかった。
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