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パルヴィス公爵夫人
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プリシラが仕方なく屋敷のドアをノックすると、高齢の執事が出迎えてくれた。プリシラは薬だけ渡して、代金をもらって帰りたかったのだが、奥さまがお待ちですと室内に通されてしまった。
執事に案内され、部屋に入ると、凛とした夫人が優雅にイスに座っていた。歳の頃は六十歳くらいに見えるが、もっと年齢は上かもしれない。現在も美しいが、若い頃はさぞ美しい女性だっただろう。
「まぁ、可愛いお嬢さん。貴女がプリシラね?トビーからいつも話しは聞いているわ?さぁ、座ってちょうだい」
プリシラはタップを抱っこしたまま、壊れた操り人形のようにギクシャクと歩いてイスに座った。
時を見計らったように、部屋のドアが開き、メイドが紅茶を乗せたワゴンを押して入って来た。プリシラの前に温かい紅茶を淹れてくれる。タップのためにも、りんごを小さくカットしたお皿を置いてくれた。
公爵夫人は気さくにプリシラに紅茶をすすめた。
「さぁ、冷めないうちに召し上がれ?」
「い、いただきます」
プリシラはへともどしながら紅茶を飲んだ。公爵夫人はニコニコ笑いながら、自身も紅茶を飲んだ。
「トビーがいつもプリシラの事を話してくれるのよ?会社に新しい従業員が入ったって。その人は風魔法が得意で、トビーの風魔法の先生なんだって」
公爵夫人は、まるでやんちゃな孫の話しでもするように笑顔で言った。
「あ、あの。奥さまはどうやってトビーと知り合ったのでしょうか?」
「そうね。わたくし、とても困っていたの。ちょうど三ヶ月前だったわ。頼みにしていたお医者さまから、もう薬はありませんと言われて。わたくしぼんやりしていたら、突然空から声がしたの。ばぁちゃん、どうしたの?って。驚いて空を見上げて、わたくし驚いてしまったわ。そこには、可愛い天使の男の子がいたの」
プリシラはトビーの、ばぁちゃん発言に胃が痛くなり、思わず腹を押さえた。公爵夫人は気分を害するでもなく、コロコロ笑いながら話している。
「わたくし、思ったの。きっと神さまが困っているわたくしに天使をつかわしてくれたんだわって。わたくしは天使に相談したわ。主人の身体の具合が悪いの、と。そうしたら天使の男の子は、魔法薬を作る魔法使いの知り合いがいるから、魔法薬を作ってもらおうと提案してくれたの」
身体をこわばらせていたプリシラは、はたと気づいた。魔法薬を作ってくれた魔法使いがぼやいていたのだ。
せめて患者の診察をさせてもらえれば、もっと患者に合う魔法薬を作れるのだが、と。どうも公爵夫人は、患者である夫を誰にも見せていないようなのだ。
確かに、どんな症状なのかもわからない患者の魔法薬を作るのは難しいだろう。公爵夫人は少し顔をくもらせてから言った。
「トビーが持ってきてくれた魔法薬は、主人の病気に少しだけ効果があったの。だけどしばらくすると効かなくなってしまった。トビーはたくさんの、魔法薬で有名な魔法使いのところまで行って、魔法薬を持ってきてくれた。だけど、最近は、魔法薬の効き目もよくなくて、」
プリシラは公爵夫人の顔色が悪い事に気づいた。最初は、ただ色白の美しい肌だと思っていたが、よく見ると明らかに顔が青白い。
プリシラは公爵夫人の様子を見ながら質問した。
「奥さま。魔法薬を作ってくれた魔法使いが申しますには、患者さんの容態を見せていただければ、もっと的確な魔法薬が作れると申しておりました」
公爵夫人は初めて苦しそうな顔をして答えた。
「プリシラ、それはだめなの」
執事に案内され、部屋に入ると、凛とした夫人が優雅にイスに座っていた。歳の頃は六十歳くらいに見えるが、もっと年齢は上かもしれない。現在も美しいが、若い頃はさぞ美しい女性だっただろう。
「まぁ、可愛いお嬢さん。貴女がプリシラね?トビーからいつも話しは聞いているわ?さぁ、座ってちょうだい」
プリシラはタップを抱っこしたまま、壊れた操り人形のようにギクシャクと歩いてイスに座った。
時を見計らったように、部屋のドアが開き、メイドが紅茶を乗せたワゴンを押して入って来た。プリシラの前に温かい紅茶を淹れてくれる。タップのためにも、りんごを小さくカットしたお皿を置いてくれた。
公爵夫人は気さくにプリシラに紅茶をすすめた。
「さぁ、冷めないうちに召し上がれ?」
「い、いただきます」
プリシラはへともどしながら紅茶を飲んだ。公爵夫人はニコニコ笑いながら、自身も紅茶を飲んだ。
「トビーがいつもプリシラの事を話してくれるのよ?会社に新しい従業員が入ったって。その人は風魔法が得意で、トビーの風魔法の先生なんだって」
公爵夫人は、まるでやんちゃな孫の話しでもするように笑顔で言った。
「あ、あの。奥さまはどうやってトビーと知り合ったのでしょうか?」
「そうね。わたくし、とても困っていたの。ちょうど三ヶ月前だったわ。頼みにしていたお医者さまから、もう薬はありませんと言われて。わたくしぼんやりしていたら、突然空から声がしたの。ばぁちゃん、どうしたの?って。驚いて空を見上げて、わたくし驚いてしまったわ。そこには、可愛い天使の男の子がいたの」
プリシラはトビーの、ばぁちゃん発言に胃が痛くなり、思わず腹を押さえた。公爵夫人は気分を害するでもなく、コロコロ笑いながら話している。
「わたくし、思ったの。きっと神さまが困っているわたくしに天使をつかわしてくれたんだわって。わたくしは天使に相談したわ。主人の身体の具合が悪いの、と。そうしたら天使の男の子は、魔法薬を作る魔法使いの知り合いがいるから、魔法薬を作ってもらおうと提案してくれたの」
身体をこわばらせていたプリシラは、はたと気づいた。魔法薬を作ってくれた魔法使いがぼやいていたのだ。
せめて患者の診察をさせてもらえれば、もっと患者に合う魔法薬を作れるのだが、と。どうも公爵夫人は、患者である夫を誰にも見せていないようなのだ。
確かに、どんな症状なのかもわからない患者の魔法薬を作るのは難しいだろう。公爵夫人は少し顔をくもらせてから言った。
「トビーが持ってきてくれた魔法薬は、主人の病気に少しだけ効果があったの。だけどしばらくすると効かなくなってしまった。トビーはたくさんの、魔法薬で有名な魔法使いのところまで行って、魔法薬を持ってきてくれた。だけど、最近は、魔法薬の効き目もよくなくて、」
プリシラは公爵夫人の顔色が悪い事に気づいた。最初は、ただ色白の美しい肌だと思っていたが、よく見ると明らかに顔が青白い。
プリシラは公爵夫人の様子を見ながら質問した。
「奥さま。魔法薬を作ってくれた魔法使いが申しますには、患者さんの容態を見せていただければ、もっと的確な魔法薬が作れると申しておりました」
公爵夫人は初めて苦しそうな顔をして答えた。
「プリシラ、それはだめなの」
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