最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平

文字の大きさ
上 下
75 / 175

トビーの冒険4

しおりを挟む
 トビーは心の中で必死に死んだ母親にお祈りをした。マージが教えてくれたのだ。母親は死んで天国にいると。

 ゴンザが死んでしまったらどうしよう。トビーがゴンザと強盗の間に入らなければ、金品は奪われても、命までは奪われなかったかもしれない。

 トビーが正義の味方ぶって、しゃしゃり出て来なければ、ゴンザは深傷をおわなかったかもしれない。

 母ちゃん、母ちゃん。ゴンザのおっちゃんを助けて。ゴンザのおっちゃんには息子がいるんだよ。俺は母ちゃんが死んで、とってもさびしいんだ。ゴンザのおっちゃんの子供に、俺と同じ悲しい気持ちにさせたくないよ。

 トビーはいつしか泣いていた。涙で目がかすんで、目の前が見えなくなる。トビーはゴンザをささえていない方の手で、必死に涙をぬぐいながら飛んだ。

 この時間なら、後輩のプリシラとタップは仕事を終えて会社に戻っているはずだ。だがプリシラはとてつもないおせっかいなので、どこかで道草をくっている可能も考えられる。

 そうなればゴンザの治療はさらに遅れてしまう。もし治療が遅れれば。それ以降の事は考えられなかった。いや、考えたくなかった。 

 ようやくマージ運送会社に到着すると、トビーは大声で叫んだ。

「マージおばちゃん!プリシラ!タップ!早く来て!!」

 トビーのただならない叫び声に、ドヤドヤとマージとプリシラたちがドアから飛び出て来た。

「どうしたんだい、トビー。大声出して」
「トビー、帰りが遅かったから心配したのよ?」

 マージとプリシラの表情が厳しくなった。トビーの横で倒れている、ナイフが背中に刺さった男を目にしたからだ。

「プリシラ、タップ。ゴンザのおっちゃんを助けて」

 プリシラは厳しい顔でうなずくと、抱いているタップに言った。

「タップ。この人は背後から刺されている。刃渡の長さはどのくらいかわからないけれど、腎臓と腸が傷ついているかもしれない」
『オッケー、まかせろ。プリシラ、ナイフを抜け』
「ええ。タップ、お願いね」

 トビーには、タップの言葉はプウプウとしか聞こえないが、プリシラとタップはゴンザを助ける相談をしているようだ。プリシラはマージに声をかけた。

「マージさん。布を持って来てくれませんか?」

 マージは会社に走って行くと、手ぬぐいを持って帰って来た。プリシラは礼を言ってから、手ぬぐいをナイフのつかにしっかり結びつけ、クツを脱いでから、ゴンザの背中を足で踏んだ。両手でしっかりと、布を巻きつけたナイフのつかを持った。

 プリシラはチラリとトビーに視線を向けて言った。

「トビー、目をつむっていて?」

 おそらく大量の出血があるのだろう。プリシラはトビーがショックを受けないようにしたいのだ。トビーはゆるく首をふった。

「ゴンザのおっちゃんは、俺のせいでケガした。俺は見届ける」

 マージがトビーに寄り添い、しっかりと抱きしめてくれる。プリシラは小さくうなずくと、いきおいよくナイフを引き抜いた。

 ゴンザの背中から、血がほとばしり、プリシラのそまつなドレスに飛び散った。プリシラは顔色ひとつ変えずに叫んだ。

「タップ!」
『おうよ!』

 風の霊獣タップが治癒魔法を使ったのだろう。ゴンザの身体が輝き出した。ゴンザの背中にあった刺し傷は、みるみるふさがっていった。

「ゴンザのおっちゃん!」

 トビーは嬉しくなって、ゴンザに飛びつき、大きくゆさぶった。だがゴンザは目を覚まさなかった。トビーは不安になって、プリシラを見つめた。

「大丈夫よ?トビー。ゴンザさんは大量に出血をしてしまったから。三、四日ゆっくり休めば目を覚ますわ?」
「それじゃあダメなんだ!ゴンザのおっちゃんの子供が病気なの!おっちゃんは早く家に帰らなければいけないんだ!」

 トビーの剣幕に、プリシラは驚いた顔をしたが、厳しい顔になってタップを見た。

「タップ。回復魔法をお願い」
『死にかけてたケガ人に無理矢理の回復魔法するのは感心しねぇが仕方ねぇ。やってやる』
「ありがとう、タップ」

 ゴンザの身体がもう一度光出した。トビーが身体をゆすり続けると、うむむといううなり声の後、ゴンザが目を覚ました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...