上 下
69 / 175

解決

しおりを挟む
 プリシラははやる気持ちをおさえられず、背中に乗せて飛んでくれているタップにせがんだ。

「タップ。もっと早く飛んで?!」
『オッケー!プリシラ。振り落とされんなよ?』

 タップは空を飛ぶ速度を上げて、文字通り風のように飛んだ。

 プリシラはタップの長い毛をしっかりと握り、その速さに耐えた。しばらくすると、タップがゆっくりと速度をゆるめた。

『おっ?何かいるぞ?』

 プリシラはこわばらせていた身体の力を抜いて考えた。空中にいる何かとは、鳥だろうか。その後もタップはゆっくりと空を飛び、やがてプリシラにも目の前の何かが見えるようになった。

「お姉ちゃん!」

 空中に浮かんでいた何かは、プリシラの姉エスメラルダだった。エスメラルダはプリシラとタップに気づくと、優雅に空を飛んでやって来た。

 プリシラは姉に会えた事が嬉しくてたまらず、自分自身に風浮遊魔法をかけて空にフワリと浮かんで、姉に抱きついた。

「お姉ちゃん!王さまが西の森から軍を撤退させてくれるって約束してくれたの!これでドワーフさんもエルフさんも、ドリスさまも助かるわ!」

 エスメラルダは慈愛のこもった笑顔でプリシラを優しく抱きしめてくれた。

「さすが私の妹だわ。プリシラが国王を説得してくれるって信じてた」

 姉の信頼の言葉に、プリシラは目頭が熱くなった。プリシラは、元の小さなモルモットに戻ったタップを片手で抱っこして、姉の手をつないで、ゆっくりとウィード軍の宿営地に降り立った。

 一番大きなテントからは、チコとプッチ、サラとティアが駆け出してくると、プリシラとタップに抱きついた。

「プリシラ!王さまの説得に成功したの?!」
「ええ、チコ。この森から軍を撤退させてくれるって」
『やるじゃない。プリシラ』

 チコとプッチは嬉しそうに笑った。サラとティアは今にも泣き出しそうな顔で言った。

「無事で良かったわ。プリシラ、タップ」
『本当に心配したんだから』

 プリシラが友達と喜びを分かち合っていると、テントからドリスとネリオが出て来た。

「プリシラ。お父さまから軍撤退の公文書は受け取ったのですか?」
「はい、ドリス王女」
 
 プリシラはポシェットから、大事に持ってきた国王からの書状をドリスに手渡した。

 ドリスは書状を開くと、ホッと息を吐いた。

「確かにお父さまの文字だ。プリシラ、ありがとう」
  
 ドリスはキリリとした瞳を柔らかく緩めて微笑んだ。その笑顔はとても美しかった。プリシラはドリスとネリオを見て、ある事を思い出した。

「国王は、ネリオさんはドリス王女のお側にいてよいと言っておりました。このプリシラ、しっかりと聞きました。一国の王さまが、言った言葉です。まさか撤回はしないでしょう」

 プリシラの言葉に、ドリスとネリオは見つめ合って微笑んだ。これでドリスとネリオは引き離される事はないのだ。

 プリシラが戻った事が知れ渡ったのか、捕虜だったドワーフと、エルフのリリアがプリシラの前にやってきた。嬉しい事に、彼らはクサリで拘束されてはいなかった。

 プリシラは彼らに駆け寄って言った。

「ドワーフさん、エルフさん。もう貴方たちの森は攻撃されません。貴方たちの森だと認められたんです」

 すかさずタップが彼らに通訳してくれた。ドワーフとエルフは喜びの顔になった。

 エルフの側にドリスが歩み寄った。ドリスはタップに通訳を頼んだ。

「これよりウィード国軍は、この森からの撤退します。二度と貴女たちの森を攻撃しません。わたくしたちの軍に奪われた命は戻る事はありません。ですが破壊された森は、時間をかけてきっと元の美しい森になるでしょう。わたくしはそう願っています」

 タップの通訳に、エルフは笑顔になった。タップに視線を向けて、通訳を頼んだ。

〔我らの森を取り戻すために尽力してくれた事を感謝する。森を攻撃した国王を許す事はできないが、娘のお前は信頼できる人間だ。どうか我らエルフとドワーフと国交を結んでくれまいか?〕

 エルフの申し出に、ドリスは驚いた顔をしたが、微笑んで答えた。

「嬉しい申し出だ。わたくしは決めました。わたくしは何が何でもウィード国の時期女王になります。そしてウィード国が続く限り、エルフとドワーフの国との友好が続くでしょう」

 タップがエルフとドワーフに通訳すると、彼らはとても喜んだ。ドリスがこの国の女王になる。プリシラは驚いてしまったが、我が身を犠牲にして、多くの者たちを救おうとするドリスは、きっと良い女王になるだろうと思った。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

処理中です...