最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平

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エスメラルダの計画

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 プリシラはタップを抱きしめたまま、ガタガタ震え出した。これから人間とドワーフとエルフの戦いが始まる。戦いが始まれば、たくさんの命が奪われるだろう。

 ドリスは、我が身を犠牲にして、戦いを止めてほしいと言ってくれたが、彼女の死をもってしても止められるとは限らない。そして何より、民のために自分を犠牲にしようとしてくれる勇敢なドリスを死なせるわけにはいかない。

 大切な森を守るために戦う者。愛する者を守るために戦う者。皆尊い信念の元に行動しているというのに、その結果彼らの愛する人々が嘆き悲しむのだ。

 プリシラは耐えきれなくなってシクシク泣き出した。タップが心配そうにプリシラを慰めようとしてくれる。

 タップを困らせてはいけない。泣いたってなんの解決にもならない。だけどプリシラの涙は止まらなかった。ふと背後からギュッと抱きしめられた。

 姉のエスメラルダだ。エスメラルダはずっとプリシラを支えてくれていたのだ。

「プリシラ。貴女はどうしたいの?」
「お姉ちゃん。どうしようもないってわかっているの。だけど、私、誰にも死んでほしくないの。誰かが死んでしまったら、きっと死んでしまった人の家族とお友達がとても悲しむわ?それは人間も、ドワーフさんもエルフさんも同じだと思うの」
「わかったわ、プリシラ。それが貴女の望みなのね?それならお姉ちゃんが叶えてあげる」

 プリシラは泣きはらした目で、背後の姉を振り向いた。エスメラルダはとても美しい笑顔だった。

 エスメラルダには何か考えがあるのだ。プリシラは不思議そうに姉を見つめた。

「お姉ちゃん?」
「プリシラ。これからお姉ちゃんがやる事、協力してくれる?」
「うん!何でも言って?」
「ドワーフとエルフには交渉の意思が無い。それならば、交渉しなければならない状態に追い込まなければいけない」
「どうすればいいの?」
「奴らを完膚なきまでにたたきのめす」
「ええっ!やっぱり戦うの?!」
「そうよ。だけど、ドワーフとエルフ、誰一人の命も奪わない。奴らの闘争心が無くなるまでたたく。それから、つり目!あんたが交渉をまとめるのよ!ウィード国の代表としてね」

 エスメラルダはプリシラから視線を、ネリオと寄り添っているドリスに向けて言った。ドリスがつり目をさらにつり上げて叫んだ。

「おい!エスメラルダ!まさかと思うが、つり目とはわたくしの事か?!」
「そうよ、早く返事しなさい。やるのやらないの?」
「むむ、王女に対してなんたる暴言。だが場合が場合だ。不問にしてやる。もちろんドワーフの代表と話しができるのなら、協力はおしみません」

 ドリスの返答にエスメラルダはうなずいた。次に、横にいるネリオをキッとにらんで言った。

「となりの弱虫騎士!あんたはウィード国軍の指揮をとりなさい。だけどいい事?ドワーフとエルフには傷一つつけない事。もし約束をたがえたら、あんたをギッタギッタにするからね?」
「・・・。はい、心得ました。魔女エスメラルダ」

 エスメラルダのテキパキとした采配に、プリシラはだんだんと身体の震えるが止まっていくのを感じた。

「お姉ちゃん。私は何をしたらいい?」
「もちろんプリシラと毛玉にも働いてもらうわよ?だけどもっと助けが必要よ?プリシラのそこつな友達も呼びましょう」
「そこつって、チコとサラの事?チコはともかくサラは私よりも学校の成績は優秀だったのよ?」
「なら、そこつ者とビビリの友達を呼びなさい」
『ウヒャヒャ。誰もチコをフォローしねぇのな!』

 プリシラとエスメラルダのやりとりに、タップは楽しそうに笑った。

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