最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平

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楽しいひととき

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「それでさぁ、その人が中々イケメンで、ちょっとお茶でもしましょうなんて誘われて、ついて行ったらソイツ女衒だったのよね。危うくさらわれるところだったわ。まぁ、もちろんプッチの植物攻撃魔法でギッタギッタにしてから騎士団に突き出してやったんだけどさぁ」

 チコは、サワークリムとオリーブが乗ったクラッカーをパクつきながらキャラキャラ話していた。

 プリシラとサラは顔を真っ青にしながら聞いていた。とにかくチコが無事でよかった。

 チコの前のテーブルにちょこんと座って、小さくカットされたりんごを食べていた契約精霊のプッチがぼやくように言った。

『本当にチコはトラブルメーカーで困るわよね?』

 ここは城下町にあるカフェの屋外テーブル席だ。プリシラは久しぶりに友人のチコとサラと共に夕食をとっていた。プリシラの契約霊獣のタップと、サラの契約霊獣のティアは尊い霊獣なのだが、見た目はモルモットとミニチュアダックスなので、一緒に屋内で食事はできないのだ。

 タップとティアとプッチは小さく切ってもらった果物を食べながら契約者の苦労談義に花を咲かせている。タップがプッチにしみじみ言った。

『プッチはよく、チコなんて奴を契約者にしたな?苦労がたえねぇだろ?』
『あら。チコと契約してから退屈しないのよ?チコはいいかげんで考えなしの無鉄砲だからね』

 プッチは何が楽しいのかケラケラ笑った。それを聞いていたティアもうなづいて言った。

『それを言ったらサラも相当なものよ?とても優柔不断で心配性だから、それがもとで危険に巻き込まれる事もあるのよ。こないだなんか依頼人の護衛していたのに、サラがどこから敵がくるかを悩みすぎて、四方八方から敵に囲まれちゃってね?まぁ、私の火攻撃魔法で撃退してやったけどね?』
「ティア。そのせつはありがとう。私とティアだけならまだしも、依頼人を危険に巻き込んだのはまずかったわね。もっと素早く判断するようにするわ?」

 ティアの言葉に、真面目なサラは神妙に答えていた。

 精霊や霊獣は、心の綺麗な人間と契約する。だが彼らが好む人間とは、必ずしも完璧ではない。欠点があったり、欲に弱かったり、人間らしさがある人物が好ましいようだ。

 プッチとティアの話しを聞いて、タップもため息をつきながら話し出した。

『お前たちも苦労が絶えねぇなぁ。だけど俺なんかよ。こないだ悪人を木っ端微塵にしてやろうと攻撃魔法を放ったら、プリシラがそいつらをかばいやがってよ。危うく契約者のプリシラを殺しかけたぜ』
 
 タップが話終わらないうちに、チコとサラがガタンと音を立てて立ち上がって叫んだ。

「プリシラ!また危ない事して!」
「もう、アンタって子は!悪人の命なんかよりも、自分の命の大切さを、考えなさい!」
「ど、どうしたの?二人とも」

 プリシラはチコとサラの剣幕に驚きながら言った。

「どうしたもこうしたもないわよ!何よ悪人って?!」
「そうよ!プリシラは危ない事しないために配達の仕事をしているはずじゃない!何で悪人と出会うのよ」
 
 チコとサラが興奮しているので、プリシラは彼女たちをなだめながら説明した。配達の仕事の帰りが遅くなり、野宿をした事。そこに山賊が現れたので、タップとエスメラルダにこらしめてもらおうとしたら、殺そうとしていたのでかばったのだと。チコとサラは大きくため息をはいた。

「あーあ、プリシラのいつものおせっかい」
「もう、無事だったからいいものを。プリシラ、本当に気をつけてよね?プリシラに何かあったら、私たちはすごく悲しいのよ?」

 チコとサラの心からの心配に、プリシラは胸が熱くなり、彼女たちに笑いかけながら答えた。

「ありがとう。チコ、サラ。気をつけるようにするわ」

 ようやくチコとサラの機嫌が直り、楽しい時間を過ごした。そろそろお開きにしようという頃、チコが思い出したように言った。

「あ、そういえば。私、個人的に依頼を受けていたのよ」
「?。依頼?冒険者の?」

 プリシラの質問に、チコがうなずいて答えた。

「そうそう、冒険者協会で騒いでいる客がいてね?何でも早く自分を国のはしっこに連れて行けって無茶な事を言うの。受付の人が困ってたから、私が話しを聞いたの。そしたら、そいつある事情があって、飛行魔法が使える冒険者を探しているんだって。だから私、プリシラとタップを紹介したのよ。腕のいい風魔法の使い手だからって」

 そこでチコはニヤニヤと笑ってからプリシラに言った。

「そいつ、結構金払いが良さそうなのよ。プリシラ、タップ。お小遣いかせぎに仕事受けてよ?」
「ええ?!私たちは配達屋よ?人は運べないわ」
「だから、会社を通さず個人でやればいいでしょ?」

 プリシラは困ってしまった。人を運ぶ依頼なら、マージ運送会社に迷惑をかけてしまう。このような仕事は断りたいが、チコの事だ。もう仕事の安うけあいをしてしまったのだろう。

 チコの話しを聞いたサラが苦虫を噛みつぶしたような顔で言った。

「チコったら、また面倒な事にプリシラを巻き込んで!」
「ごめんごめん。そのかわり、ここの支払い私持ちにして?そいつから紹介料たんまりもらったから」

 プリシラとサラは、チコの根回しの良さにため息をついた。もはやこの依頼は断れないようだ。
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