上 下
32 / 175

リベリオ

しおりを挟む
 プリシラはデムーロ伯爵家の屋敷の中を、迷いながら外へ出ようと歩いていた。

「何て美しい人なんだ。貴女に魅了されてしまった哀れな男にどうか名前を教えていただけませんか?」

 長い廊下を、タップを抱っこして歩いていたプリシラに、まわりくどい文句で話しかける者がいた。

 辺りにはプリシラ以外人はいない。おそらく美しい人とはプリシラの事なのだろう。プリシラは、自分の容姿が美しいなどと到底思えなかった。
  
 プリシラには絶世の美女である姉のエスメラルダがいるのだ。姉の美しさに、プリシラは足元にもおよばないと考えていた。

 プリシラが仕方なく声のした方に振り向くと、目がチカチカする男が立っていた。

 明るい金髪に青い瞳のハンサムな男性だ。きっとイケメン好きのチコが見たら大興奮なのだろうが、プリシラは外見の良さは特にどうでも良かった。人に大切なものは、誠実さだと信じているからだ。

 プリシラは仕方なく自己紹介をした。

「マージ運送会社がらまいりました。プリシラと申します」
「プリシラ、美しい名前だ。ああ、父上の愛人に花を届けている。今日はいつもの生意気なクソガキではないのですね?」

 クソガキとはトビーの事だろう。プリシラは先輩のトビーを悪く言われてカチンときた。プリシラが怒った事がわかったのだろう。男は慌てたように言い訳した。

「勘違いしないでください、プリシラ。俺は貴女たちの仕事を応援しているのですよ?」

 プリシラはそこでこの男が誰なのか気になった。デムーロ伯爵がダニエラに花を贈っている事を知っている者はそれほどいないはずだ。プリシラの探るような視線に気づいた男は、自己紹介をしていない事を思い出したのか、笑顔になって口を開いた。

「申し遅れました。俺はデムーロ伯爵の子息リベリオといいます」

 目の前の男リベリオはデムーロ伯爵の息子だったのだ。リベリオは軽く右手を振ると、手にピンクのバラを持っていた。隠しの魔法を解除して、バラの花を出現させたのだ。

 リベリオはうやうやしくプリシラにバラの花を差し出した。プリシラはタップを小脇にかかえ、軽く会釈をして右手で花を受け取った。

 デムーロ伯爵の言葉通りリベリオは優秀な魔法使いなのだろう。プリシラはピンクのバラから視線をリベリオに移した。

「リベリオさま、質問する事をお許し頂けますか?」

 リベリオは優雅な仕草でうなずいた。プリシラは覚悟を決めて、疑問に思っていた質問をした。

「リベリオさまはお父上が、お母上ではない他の女性に花を贈る事をどう思っていらっしゃるんですか?」
「どう思うだって?俺は早く父上とその女性が一緒になる事を望んでいるよ。見ていてまどろっこしくてしょうがないから」

 リベリオの発言に、プリシラはポカンとしていると、リベリオは自身の説明不足に気づいたようで、言葉をやわらげて付け足した。

「俺の母は、俺が小さい頃に亡くなっている。だから父上は母上に気兼ねする必要は全く無いんだ」

 プリシラはそれまでのモヤモヤが晴れていくのを感じた。デムーロ伯爵は誠実にダニエラを愛しているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

月白色の叙情詩~銀礫の魔女が綴るもの~

羽月明香
ファンタジー
魔女は災いを呼ぶ。 魔女は澱みから生まれし魔物を操り、更なる混沌を招く。そうして、魔物等の王が生まれる。 魔物の王が現れし時、勇者は選ばれ、勇者は魔物の王を打ち倒す事で世界から混沌を浄化し、救世へと導く。 それがこの世界で繰り返されてきた摂理だった。 そして、またも魔物の王は生まれ、勇者は魔物の王へと挑む。 勇者を選びし聖女と聖女の侍従、剣の達人である剣聖、そして、一人の魔女を仲間に迎えて。 これは、勇者が魔物の王を倒すまでの苦難と波乱に満ちた物語・・・ではなく、魔物の王を倒した後、勇者にパーティから外された魔女の物語です。 ※衝動発射の為、着地点未定。一応完結させるつもりはありますが、不定期気紛れ更新なうえ、展開に悩めば強制終了もありえます。ご了承下さい。

処理中です...