上 下
30 / 175

デムーロ伯爵

しおりを挟む
 プリシラとタップが仕事から帰ると、マージに頼まれ事をした。お得意さんの所に集金に行ってほしいというのだ。

 お得意さんとは、ダニエラに花を贈っている貴族の事だ。プリシラはマージに住所を聞くと、タップの背中に乗って貴族の屋敷へと飛んだ。

 そこは王都にある大きな屋敷だった。プリシラはおじけづきながら、屋敷のドアをノックすると、年老いた執事が出て来た。

 プリシラは執事から金を受け取るのかと思っていたら、何と室内に通され、しかもお得意さん本人が直々に支払いをするというのだ。

 タップを抱いたプリシラは、豪華な応接間に通された。フカフカのソファーに座らされ落ち着かなかった。幼い頃のプリシラは、子爵令嬢として豪華な家具を使って生活していた。だが両親に家を追い出されてから、とても質素な学生生活を送っていた。

 そのため豪華な部屋に入ると、ソワソワしてしまうのだ。タップは豪華な部屋が珍しいのか、小さな翼でパタパタと部屋中を飛び回っていた。

『プリシラ!見てみろこれ、面白れぇぞ!りんごやブドウがくっついてらぁ』

 タップは豪華な飾り壺が気に入ったようだ。その壺には鳥や花、果物までがまるで本物のように装飾されていた。おそらくプリシラが一生働いても買えないような高価な品物なのだろう。

 プリシラは、タップが壺を倒してしまうのではないかと気が気ではなかった。案の定タップが壺の周りをパタパタ飛んでいると、モフモフのお尻が壺に当たった。

 壺はグラグラと不安定にゆれたかと思うと、棚からゴロリと落下した。プリシラは慌てて壺に風浮遊魔法を使用した。壺は床に落ちる直前、落下を止めた。

 プリシラがフウッと安どのため息をつくと、ガチャリとドアが開き、五十代くらいの立派な男性が入って来た。彼がお得意さんなのだろう。

 男性は、プリシラが必死に壺を落とさないように空中に浮かせているのを、驚いた顔で見てから、笑って言った。

「ほう、これは魔法なのだな。実に面白い」

 プリシラはお得意さんとの最悪の出会いに冷や汗をかきながら、何とか壺を棚に戻し、タップを呼んで抱っこをすると、男性に向かって深々と頭を下げて言った。

「大切な壺を落としそうになってしまい、大変申し訳ありませんでした。マージ運送会社がまいりましたプリシラと申します」

 男性は軽くうなずくと、プリシラにソファーに腰かけるよううながし、自分も向いのソファーに腰かけてから口を開いた。

「私はこの屋敷の主、デムーロ伯爵だ。今日はトビーではないのだな?」

 プリシラはピシリと身体をこわばらせた。目の前の貴族は何と伯爵だったのだ。元貴族のプリシラであっても、爵位のくらいの高さがどれほど重要なのかわかっていた。

 本来ならばプリシラはデムーロ伯爵と口を聞く事すら許されないのだ。プリシラは返答できずにあぶら汗をダラダラ流していると、デムーロ伯爵は苦笑して、楽にするようにと声をかけてくれた。

 デムーロ伯爵はどうやら気さくな方らしい。プリシラはフウッと小さく息を吐くと、小さな声で答えた。

「申し訳ありません。トビーはまだ仕事に出ておりまして、代わりにわたくしがまいりました。今度からトビーがうかがうようにいたします」
「いや、よいのだ。そなたとトビー、交互に来てもらいたいのだ」

 時を見計らったように、ガチャリと応接間のドアが開き、メイドがうやうやしくお茶のワゴンを押して入って来た。

 どうやらプリシラにお茶をご馳走してくれるようだ。プリシラとしては、お金だけもらって早く帰りたかったのだが、デムーロ伯爵は当然のようにプリシラに紅茶と焼き菓子をすすめた。

 デムーロ伯爵は、なんとタップにもご馳走してくれたのだ。デムーロ伯爵は、腕の中のネズミは何を食べるのか聞いてくれた。

 タップはりんごりんごとうるさい。プリシラは思考がまとまらず、思わずりんごと答えてしまった。デムーロ伯爵はうなずくと、メイドに何事か命じた。しばらくすると、カットされたりんごやナシが豪華な皿に乗せられて運ばれて来た。

 タップは我が物顔でテーブルに飛び乗ると、シャクシャクと嬉しそうにりんごとナシを食べていた。

 プリシラも香り高い紅茶をいただいたが、味がよくわからなかった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

処理中です...